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慈愛の公女は幼女にときめく  作者: いのりん
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6話 アルス、実習の話をきく

「先生、これはどういうことですの!?ひとりだけ実習先が変わっているなど、あまりにも理不尽ではありませんか!?かわいそうなアルスメリア、こんなに震えて……」


「フローラくん、君の憤りはもっともだ。確かにこれは少々おかしいと言わざるを得ない。治安の問題もあるし、一度学院長に抗議にいこうと考えている。」


ブレイヴ王国学院のカリキュラムに職業実習と言うものがある。校内だけでなく、早い段階で実際の社会で働くのを経験しておくことで視野が広がり、以降の学びにも身が入るだろうと取り入れられた制度である。


実習先は公共施設となっている。生徒の適性や希望に合わせて学院側が手配しており、例えば庶民の生徒であれば、4~5人でグループとなり治安の良い地域の役所や治療院、協会に行くものがほとんどであった。


しかし、実習先が張り出された黒板には、アルスメリアのみが単身で、貧しく治安も悪い地域の孤児院へ行くように記載されていた。それに対して教師であるカールや友人であるフローラは憤りを感じていたのだが、


(いやいや、ひとりだけ孤児院にいけるとか俺得過ぎない?感動ものだよ!そういえば先日はサウロス王子がロリコンが生きやすいように国を変えるとかはりきっていたし。きてるよ、流れがきている!)


当のアルスはというと歓喜にうち震えていた。思えば学院にきたと言うのに初等部と触合うイベントとか全然なくてがっかりしていたし、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。


しかし、感動のあまりよく聞いていなかったが、フローラとカールはやめさせる方向へ話をもっていきたいようだ。とんでもないことである。本人は是非行きたいのだという熱い思いをぶつけて、さっさと話を打ち切ってしまおう。


「いえ、良いのです。カール先生、フローラ。何も問題などありません。良い機会ですし、私は是非とも行ってみたい。沢山見たいし、許されることならふれあってみたいのです。それでは、準備があるので失礼します。」


アルスはそう二人に言って話を切りあげると教室を後にした。



☆☆☆



「カール先生、アルスメリアは震えていましたわ。女が単身で治安の悪い地域にいくなど、きっと不安で仕方がないはず。それでも、不満を口にだし問題を大きくすれば周囲の迷惑になると、黙って耐えようとしているに違いありませんわ。」


「そうですね、しかし、きっとそれだけではありませんよ。アルスメリアくんが、沢山見たいし許されるなら触合ってみたい、と言っていたのは覚えていますね?」


カールの問いかけに、はっとしたようにフローラが目を見開く。


「そう、きっと弱い立場にある貧しい子供達の生活がどうなっているか、自分に何かできることがないか気になって仕方ないのでしょう。それを、同じ目線に立って一緒に苦労することで解決策を見いだそうと言う覚悟を感じました。ならば我々はその意識を尊重するべきなのでしょう。もちろん、安全面への配慮は必要ですが。」


震えていたのは幼女に会える期待からであり、沢山見たいし、許されるなら触合いたいと言うのはロリコンのよこしまな考えに過ぎないのだが、それに気づくものはもはや教室にはいなかった。


「ならば、せめて実習期間中はわたくしの従者を彼女につけるよう、許可をもらってきますわ。学院長にも引け目はあるでしょうし、きっと断られないはず。男性ですし、いざと言うときは護衛にもなりますわ。あと、アルスメリアに何か助けになるものがないかきいて、もしあるなら、出来る限り用意してあげましょう。」





☆☆☆


「全く忌忌しい!バンデット家のやつらめ、厄介な顔を見なくなってすんだと思ったら、次は娘を狙ってウィザード家の復権を阻止しろ、などとのたまってきおった!」


貴族の執務室でハゲ散らかした男が怒声をあげていた。ナインデス ブラックタガー男爵、ブレイヴ王国の貴族であり、近年の王国の政治腐敗にも関与していた人物である。


元々は伯爵位であり、三大貴族のバンデット公爵の命令で不正に関与していた。そんなおり、アルスメリアの父が自らの地位と引き換えに半ば刺し違えるような形でバンデット公爵にも責任を取ることを要求、その際にバンデット公爵がとかげのしっぽ切りのような形でナインデス家に責任を擦り付けてきたことで、現在は伯爵位(一つの地域を治めるレベル)から二階級下の男爵位(一つの町村を治めるレベル)まで序列を落としていた。


ナインデスとしては元々不正への関与に乗り気ではなかったが、大貴族に逆らえず長いものに巻かれてやったところを責任転嫁され、バンデット公爵家が大嫌いになっていた。


そんなおり、最近ウィザード家の娘が学院で頭角を現しつつある、ドレスを贈られる程第一王子サウロスにも気にいられて、うまくやればこのまま復権もあり得ると言う話をきいた時は、バンデットざまぁと胸のすく思いをしていた。


自分は降格により大きな権力を持たなくなったことで、バンデット家とはもう関わりもなくなったし、ウィザード家の娘に何かあれば少々助力しようかとまで思っていたのだが……


バンデット家から送られてきた密書には彼の管理する地域に職業実習で噂の元公爵令嬢が来るように手配した。難癖つけて今後社交界に復権する可能性を摘み取れとかかれている。


「……仕方ない。腐ってもバンデット家は大貴族。逆らって家を潰されるリスクを負う訳にもいかん。悪く思わんでくれよ、アルスメリア嬢」

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