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慈愛の公女は幼女にときめく  作者: いのりん
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4話 アルス、授業をうける(裏)

カール アミュレットは庶民の身で苦労しながら多岐にわたる学問を修め、王国学院の中等部主任講師の座を掴んだ駿才である。


教室へ続く廊下を歩きながら、カールは憤りを抱えていた。


王国学院には基本的に学力テストと言うものが存在しない。テストの点数では測れない、総合的な能力を重視するためとうたっているが、結局のところは面子を大事にする貴族の子息子女が庶民の子に負けたり、落第して恥をかくの防ぐためだとカールは思っている。


庶民が入学するには試験に合格するのが必修であり、入学時より能力が高いのに加えて立身出世のため勉強に励んでいるというのに、それが十全に報われている環境とはいえないだろう。


実際のところ、貴族の子息子女は推薦入学として試験が免除されており真面目に授業に取り組まないものも多く、しかし忖度された授業態度等の評定で成績優秀者として卒業していく。


そのことに対しても、長年思うところはあったがまだ我慢できた。結局のところそれは周知の事実であり、庶民出の学院卒業生は優秀だというブランドに傷がつくことはなかったからだ。


しかし、この度、元公爵令嬢が庶民の身分として推薦入学してくるという。まず、庶民の身分でありながら推薦入学という特別扱いが気に入らない。


また、仮に勉学に真摯に取り組まないものが、庶民出の卒業生としての評判を落とす危険があるならば、それは看過することはできない。


(相応の素養があるならばよし。しかし、ないのであれば教師生命をかけてでも、退学に追い込もう。真贋を見極めさせてもらいますよ)




☆☆☆




前回の講義を復習しながら、カールはアルスメリアを観察していた。


(ふむ、少なくとも講義態度には問題ないようですね)


今、説明している生活必需品の物価と流通の関係というのは、貴族の子供、特に少女達にはあまり興味のもてないものらしい。将来的には家のものが管理を行うため、馴染みも薄いのだろう。


そのため、玉の輿狙いの箔付けで入学してくるような子は興味がなさそうにしていたり、酷いものだと寝落ちしていたりする。


しかし、このアルスメリアと言う少女は興味深そうに、熱心に授業をうけている。


(しかし、最初だけかもしれませんし、試験に合格できるほどの学力がないのなら、それはやはり腹立たしい。ひとつ、確かめさせてもらうとしましょう。)


「さて諸君、以上が前回の復習で、次いで今回の授業といきたいところだが、本日は新入生がいるからね……一度、彼女の習熟度を確認しておこうと思う。アルスメリアくん、立ちなさい。何、庶民向けの、簡単な質問にしておくから安心すると良いよ。」


「……っ、ちょっと待って下さいまし、先生。アルスメリアは先日まで令嬢としての教育をうけておりましたのよ。質問するなとは言いませんが、せめて内容は詩や宮中マナーといったものにしてあげるべきではありたせんか?」


思わぬ相手から横やりが入った。いつの間にか伯爵令嬢たるフローラと親交を深めていたらしい。やはり、庶民としてではなく権力者としてこの学院に居座るつもりだったか。


「いえ待って下さいフローラ、カール先生のおっしゃる通りです。今の私は令嬢ではありません。ならば私も、庶民向けの簡単な質問の方がありがたいです。」


本人はいくらか身の丈をわかったような発言をしているが、きっとうわべだけだろう。入学試験でも正解者がほとんど出なかった難問をぶつけてやる。


「では問題だ。西部の漁村トノグドラの名産について、知っている範囲で答えなさい。」


「はいカール先生、海蛙の胆です。様々な薬の材料になります。漁期には冒険者ギルドへ依頼をだし海獣対策をしています。」


即答するアルスメリア。海蛙の胆と答えられる者さえ少ないと言うのに、用途や産業の実態にまで触れた完璧な解答た。教室中に驚きが走る。


「次だ。魔獣ホーンラビットを調理する際に気を付けることは何か。」


「皮と内臓に毒気があるので、剥いで良く洗い、火を通します。解毒作用のあるキアの葉と一緒に食べると薬味と中毒予防になるので一石二鳥です。」


これも正解。ちなみにキアの葉のことまではカールも知らなかった。


「古エルフ語で、清貧、優しさ、壁、をそれぞれ意味する単語は」


「ナイチチ、バファリン、ナナジュウニ」


最後の質問にいたっては、学生レベルを逸脱した、学者や文官レベルの超難問だと言うのにこともなげに即答してきた。


「……驚いたな、大したものだ。しかし、これだけ知っているならば本日のこれまでの授業は少々退屈だったのではないかな?興味深そうに聞いていたので知らないものだとばかり勘違いしてしまっていた。申し訳ない。」


カールは素直に敬服していた。知恵を意味するサルビアのバッジをつける生徒として、これ以上の適任もいないだろう。


先程のフローラの発言も、間違っていた訳ではないのだ。なにせ、貴族と庶民では元々教育で力を入れている内容が違うのだから。いわば畑違いの分野でこれだけの知識があるのなら、その教養の深さは驚くべきものだ。彼女に入学試験など必要ないだろう。


「いえ、今日の授業はとてもワクワクしました。そして先生の考えられた通り私は何も知りません。どうぞこれからもご教示お願いいたします。」


さらに、授業にわくわくしたと言う。実益でない、純粋な学ぶ楽しさを感じているのだろう。自らを無知と言い、教えを乞う謙虚さ、実に好ましい。


「諸君、もうお分かりと思うが、彼女は学生の鑑だよ。模範にしようではないか」


ワクワクしたのは金儲けを考えたからだし、もちろん貴族が力をいれている詩やマナーといった分野でアルスが知っていることなど何もないのであるが、それに気づくものはこの教室にいなかった。

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