閑話 アルス、幼女を護衛する 後編
(目が覚めちゃった……)
儀式はつつがなく進行した。すでに目的の札は回収し終わり最後の野営中、現在は深夜だ。2泊3日、予定どうり明日の昼前には町に戻れることだろう。
(あれ?メリアがいない。と思ったら河辺から音がするわね、水浴びしているのかしら?)
ジョゼットは、この2日で護衛の女冒険者のことが気にいっていた。なんというか、いつも温かく見守ってくれるのだ。食べるのが遅い時も、障害物を乗り越えるのにもたつくときも、でしゃばって食材の採取や火おこしをやろうとした結果へまをした時も。
家族や従者たちの様に、期待薄く、もたついたときに迷惑そうな顔をすることもない。失敗に失望した顔をすることもない。
危ない、失敗するぞと止めることもなく、自主性を重んじ、ただ自分が頑張るのをにこにこ見守ってくていた。おかげで、失敗を恐れずにこの2日はのびのびといろんなことにチャレンジできていた。
・・・まあ、実際は幼女が奮闘するのをみてニコニコしていただけなのだが。
(でも、一緒に水浴びはしてくれなかったのよねぇ)
昨日今日と誘ってみたが、「絶対に一緒に入るわけにはいかない」と強く断られた。きっと護衛のためだろうが、一線を引かれているようで少し寂しかった。
昨日は水浴びもしなかったようだが、今は町の近くで月もでて、明るい。動物も寝静まる時刻で安全と判断したのだろう。明日別れる前にもう少し話したいと思い、河辺に近づき──そこで見た光景に言葉を失った。
防具で隠されていたのでわからなかったが、月光を浴びてキラキラ輝く豊かな金髪や神が設計したのかと言うほど均整のとれた肢体があった。
そして......それ以上に目立つ無数の傷跡が女冒険者の身体には刻まれていた。
生まれがらに神から与えられた美と、後天的に過酷な環境を乗り越えてきた勲章。二つが矛盾なく成立している様をみて、
(美しい……)と思っていると、
「あら……」
こちらに気づいた彼女が話かけてきた。
⭐︎⭐︎⭐︎
(あー、ジョゼットちゃんにババアの身体みせちゃったよ。申し訳ねぇ!)
アルスが一緒に水浴びを断っていたのは二つの理由がある。一つは、幼女の裸を拝むのは流石にコンプライアンス違反だろうということ、もう一つは幼女に胸に汚い脂肪のついた18歳のババア(アルス基準)の身体を見せるのがお目汚しになると考えていたことだ。タオルを巻きながら話しかける。
「これは、汚いものをお見せしてしまい申し訳ありません」
「な、何いってるのよ、その傷は勲章じゃない」
うん?傷?何か噛み合っていない気がする。それとこの無数の傷は、メリアが相変わらず指示を無視して単身で魔物の群れに突撃した時にできたものだ。アホの証明で勲章などではない。まあ、いいや話をつづけよう。
「いいえ、真っ当な冒険者ならつくる必要もなかった傷跡です。未熟の証明で、誇れるようなものではないのです。」
「それはちょっと自分に厳しすぎるんじゃないかしら?……っ!」
ちなみジョゼットはベテラン冒険者アルスの慎重な行動をこの数日見てきたので、無茶でできた傷だとは思いもしない。
その結果、自分の姉と同じ年頃の、とてもやさしく、努力家で教養のある、やたら自分に厳しい、身体中に傷のある、金髪の美しい女性と言うピースができあがり、頭の中でかっちりとハマった。
「あ、あの……メリアさんって、実は本名アルスメリア、エル、ウィザードだったり……しませんか?」
「えっ、なんで分かったんですか?」
なんでと言えば、憧れていたからである。学園に通う姉から何度もきいていたのだ。同世代に豊かな金髪の美しい編入生がいて憧れていた話を。彼女は鞭で打たれるような厳しい環境で教育をうけ、急に平民の身分に堕とされるという理不尽な境遇にも不満一つ言わずに努力を続けたことを。巡ってきた社交会復帰のチャンスを孤児を守るために投げ捨て、その後、自らの輝かしい将来よりもルールは厳粛に守られることが大切だと考えて学院から去ったことを。
憧れの人物を前に、今までの生意気な言動を思い出して彼女は赤面する。
「実は、本名が広まると面倒に巻き込まれるかもしれないので、できれば、秘密にして頂けると助かるんですが……っと、私の本名なんかより、お顔があかいですね。ちょっと失礼します……熱はないようですね、ただ疲れが、あるのかも。今日はもう寝ましょうね。」
額に触れられた手の感触にジョゼットは驚いた。
激しい鍛錬で何度もマメを潰して固くなった剣士の手であった。
思えば冒険者に関するスキルなどは淑女教育や学院で教えてくれるものではない。だと言うのに、彼女は学園を出てたった数年でA級冒険者となり見事に護衛の任務を務めあげるまでになったのだ。
規制緩和がなんだと思った。この人はそれどころでない環境変化に強烈な努力で適応して、強くしなやかに生きているというのに!自分もこうなりたい、どんな努力をしてでも、この人に少しでも近づきたいという渇望が生まれた。
まあ実際のところは、この身体の本来の持ち主はずーっと冒険者一筋でやってきて、しかも雑事はアルスに任せて暴れていただけなのだが、真実は夜の闇に隠されたままであった。




