1話 アルス、入れ替わることになる
はじめまして、いのりんと申します。
楽しんで書きました。
貴方にも楽しんで読んで頂けると、嬉しいです。
その日、冒険者アルスにとっては人生最良の日であった。
ペット探しの依頼を完遂すれば飼い主の幼女からお礼を言われ、その報酬で最近できた定食屋にいけば家業を手伝う幼い女の子が食事を運んできてくれた。アルスはロリコンだった。
一日に二度も幼女に接して上機嫌だった彼は、その食事の席で、ここ最近コンビを組むことが多かった金髪の女剣士であるメリアから頼みがあると言われ、まあできる範囲でならやってやるよと気軽に返事をしていた。
「んで、頼みってなんだよメリア。あ、もしかしてお前また他のヤツとケンカしちゃった?いっとくが荒事の助太刀はゴメンだぜ。一人でなんとかしてくれよ、お前俺より強いんだし。」
「今回はしてないわよ!それに前のもケンカじゃない。女に冒険者は無理だとか言うアホどもは身体に教えてやらないとダメでしょ!そうじゃなくて今回は私と、その、い……い」
「イチャイチャして欲しいのか?そりゃムリだぜ、お前今15だろ?多少顔立ちが良いのは認めるが、俺、初老の女には興味ねブハァ!?」
見事な右ストレートに顔面を打ち抜かれ、悶々する彼を尻目にメリアは話を続ける。
「馬鹿なのアンタ!禿げた悪人ヅラの三十路のロリコンなんてこっちからお断りよ!あまり私の拳を煩わせないでちょうだい!そうじゃなくて、その……ああもう!入れ替って欲しいのよ!」
その後の彼女話を要約するとこうだ。
メリアは公爵家のご令嬢で、本名はアルスメリア エル ウィザードと言うらしい。本来であれば冒険者などやっていて良いはずもない身分なのだが、剣士の才能が飛び抜けて優れていたことと、それ以外の......特に淑女としての資質が著しく欠落していたことから、放任主義かつ娘の幸せを願う両親が偽名で冒険者として活動することを許可していたという。
そんな両親だが、先日、冤罪により権力争いから脱落。平民の身に落とされたという。メリアはそのまま冒険者として活動すれば良いやと思っていたのだが、そうもいかない事情ができた。
「仲良くしていた大貴族から、帝国学院への推薦状ねぇ。ていうか、今まで学校行ってなくて、よく問題にならなかったな。あと、今度からアルスメリアって呼んだ方が良い?」
「問題にならなかったのは、お父さまが、家で最高水準の教育を受けさせているから必要ないですって言って誤魔化していたからね!あと、呼び名はメリアの方が良いわ。偽名ってだけじゃなくて、小さい頃からのニックネームで気にいってるのよね。」
事業の後任となった貴族は若い頃より彼女の両親に世話になり恩を感じていた。庶民の身に落とされたとは言え娘に罪はなく、貴族の子も通う名門である帝国学院出身となれば箔がつき、その後の人生に有利、また在学中に殿方に見初められれば伯爵婦人などとして社交界に復帰できる可能性もあると考えたのだろう。
さらに、サプライズで知らせて喜ばせようとしていたらしく、両親が気付き断ろうとした時にはすでに推薦状と高額の学費は提出、受理されていた。その際に金やコネも使い、かなり強引にねじ込んだのだという。その状態からやっぱりやめますは色々問題が出るので、少なくとも、中等部卒業までの半年は通う必要があるそうだ。
「それじゃあ、お前が行くしかないって。そりゃ多少は問題もでるだろうけど。つーか、俺が女装して行っても、ばれるに決まってるじゃん。」
「あんたバカ?学院には貴族の子もいるのよ。平民が殴ったら処刑されるわよ。あと、入れ替りは魔術で行うから問題ないわ!」
「いや、殴ること前提に話すなよ!そりゃ今までのお前みてると、きっと何かの拍子に殴っちゃうんだろうけど!あと、何?入れ替りは……魔術?」
メリアことアルスメリア エル ウィザードの実家は、元々、建国に関わった偉大な魔術師の家系らしい。その秘伝の中に入れ替りの魔術があったそうだ。ただし、発動には制約があり、魂を交換するために本名が一部かぶっていること、また、違う身体で自我を保つために二人の間に明快な個体差、すなわち性差があることが必要らしい。
「なるほど、事情はわかった。だが断る。」
「なんでよ!きちんと報酬もはらうわよ!」
「いや、むしろ受ける方がおかしくないか?男女で入れ替りとか戸惑うこと多そうだし。だからお前も言い淀んだんだろ?それに中途入学の庶民で元公女とか、悪目立ちしそうだし。いじめられるかもしれないし。そもそも学院生活なんてめんど……学院生活?」
その時アルスは思った。
学院には……初等部もあるのではないか?
今の自分はスキンヘッドの悪人ヅラのおっさんで、しかも冒険者と言う若干アウトローな仕事までしている。自分は幼女が大好きだが、自分を好いてくれる幼女は少なく、出合いの場も皆無に近い。しかし、学生となれば出合いの場は増えるし、メリアの──黙っていれば一般的にはかなり整った容姿となれば幼女と仲良くなることも可能なのではないか?
「どうしたのよ。急にフリーズしたと思ったら悩みだして。」
「い、いやまあ、あれだ。お前のご両親も大変だな。冤罪で平民に落とされるとか、苦労も多いだろうし元気にしてるのか?」
危ない危ない、今のは悪魔の囁きに違いない。絶対に行ってから後悔するパターンだ。しかし、幼女と仲良く……いかん!まだ、心が揺れているから、一旦話題を反らせよう。
「ああ、それなら大丈夫よ。昔から夫婦で定食屋をやるのが夢だったらしいから。準備はしてたけど、きっかけが掴めず困っていたところに今回の件で、むしろうまく引退できてラッキーって言ってたわ。ほら、あそこで仲良く料理してるのが両親よ。妹も毎日楽しそうにしてるから、問題は私の入学の件だけね!」
「ここお前の親の店かよ!?確かに料理とか手慣れてんなぁ!てゆーかさっきのお前の妹なの!?」
予想せぬ事態の連発に混乱するアルス。もうやだ、精霊様助けて下さい。って天使が寄ってきたぁ?あ、天使じゃねーわ、メリアの妹だった。
「え、ど、どうしたの妹ちゃん?目を潤ませて上目遣いで見上げてきて、俺に何かお願いでもあるの?君の希望なら俺は何でもきくよ。」
「お願いですアルスお兄さん、かわりに学院へ行って、メリアお姉ちゃんのことを助けてあげてくれませんか?」
「ゆこう」
そういうことになった。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました。
感謝しています。
よろしければ、引き続きお楽しみ下さい。