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置き去りにされてクロノ死す

「ぐはっ、ハゲに殴られた傷が……っ!」


「お前、まだ言ってんのかよ。いい加減、機嫌を直せって」



 伝説のタンクヒーラー・クロノはハゲに殴られて死んだ。その後、普通に目覚めた俺は、酒場で朝食を食っていた。



「そう言われてもなぁ、この騒ぎだからな。居心地が悪くってさ」


「噂なんて数日で忘れられるもんだぜ?」



 シャドーウルフの騒動は、冒険者のあいだでかなり盛り上がっているのだ。その内容は、俺が半分、ハゲが半分である。



「おぉ、あれが噂のタンクヒーラーか」


「あの巨体で、魔術師なんだろ? いくらヒールが使えるからって、魔物の群れから一人で少女を守るなんて、俺には出来ねぇな」


「タンクヒーラー。理論上ってか、根性論ではあったよな。物凄いしんどいから、誰もやらなかった伝説の職だよな」


「生きたレジェンド……拝んどこう」


「拝んどけ拝んどけ。いつ死んでもおかしくないからな!」


「いやいや、分からないぜ? ユニークを見て生き延びてるんだ。ハーゲルが討伐したにしても、普通は死ぬわな」


「ユニークかぁ、俺も見たかったな。あっ、見たら死ぬのか」


「そのユニークを一撃で倒したハーゲル。俺もあんな風になれるのかねぇ」



 この有様である。落ち着いて飯も食えない。タンクヒーラーはネタ職。決して、ロマン職ではない。ただの無謀である。ハゲに愚痴らずにはいられない。



「早く飽きてくれないかね。俺は美少女に蔑まれるのが趣味なの」


「歪みねぇな。そうそう、ブサクロノ、ランク上がるかもしれないぜ?」


「はぁ? ビッグボアってそんなに強かったのか?」


「シャドーウルフだよ。あの規模の群れにビュッフェされて、ユニークまで居たんだぞ。死にかけだったがユニークの首もお前が倒したわけで、これだけの騒ぎとなるとランク上げるしかないだろ」


「食べ放題されてランク上がるのか。ここの基準、どうなってんだよ」


「人を助けたのは事実だし、うちは生き延びるだけでも評価対象になるんだ。俺が若かったら、あの状況なら片腕は失ってただろうな」


「はい、出たー。ハゲ自慢。どうせユニーク含めて倒したら、って話だろ。弱いのは毛根だけか」


「兜って蒸れるんだよなぁ。お前も被るか? ハゲるぜ?」


「キモ、デブとリーチかかってるのにハゲまでいらねぇわ」


「男ってのは見た目じゃねぇ。生き様よ!」


「うるせー。魔術師に兜を勧めるな。視界不良で明日も見えんわ」


「別にいいじゃねぇか。頭以外は戦士装備みたいなもんだろ」


「俺は闇の魔術師なんだよ。ロマン職なの!」


「はいはい。ハゲもロマンっと」



 ハゲに突っかかっていると、酒場に入ってきた男が、新しい噂を仕入れてきたらしい。



――勇者一行が、魔王討伐の旅に出たってよ。



(あれ? これはひょっとして、俺が加わらないといけないやつでは?)



――しかも、赤竜の巣窟のレイドラ山に乗り込んで、派手に討伐したらしい。



 勇者一行の実力は分かった。俺が死に物狂いで逃げた相手を、サクっとしばけるほど強いようだ。俺が加わったところで、邪魔にしかならない気がする。



(もっとレベルを上げて、旅の中盤くらいには合流しないとなぁ。リヴィーズ様に恩返し出来ないわ。それにしても、何か引っかかるな……)



――勇者ハルト・イイダ。賢者サクラ・カヤマ。守護者ノブナガ・オダ。いずれも凄まじい強さらしい。魔王討伐も夢じゃないな。



(何か変なやついなかった!? ノブナガですっけ!?)



 まさか本人なわけがあるまい。だって守護者ってそりゃないでしょう。バレバレの偽名なのに、この世界の人は違和感を感じないらしい。



――聖女アミ・スズキは、神の癒やしと呼ばれるエクスヒールを使えるって噂もある。彼女は傷ついた人々を治療するために別行動をするそうだ。



(神の癒やし? エクスヒールだと?)



 こうしてはいられない。俺は急いで北の森に向かった。スキルを習得するとき、人前でやって噂されるの恥ずかしいし。



 書庫で得た知識のなかに、子供だましの伝承がある。割と高い確率で、神が癒やした云々と表現されていた。もし本当に存在するなら、エクスヒールは失った四肢でさえも治せる究極のヒールだ。



 目覚めよ、星の記憶。見たことないスキルだろうと、俺が本当に求めれば半端ないデメリット付きで、それっぽいものを習得させてくれるツンデレスキルよ。



『おぉ、出たね。習得しちゃう?』


「もちろんだ。今回はスキル化で習得する。神の力を、我が手にっ!」




【エクスヒール】


使用制限:10年後に1回。


あらゆる傷と失った四肢を治す。




「おぉぉ! キタ、キタキタキターーーッ! 究極の癒やしスキルを……?」


『10年後だってさ。どうするの?』



 ジーザス! これはまさかの習得しても使えないパターン。SPの無駄遣いである。この世界は甘くないってこと、すっかり忘れてました。



「せめて1回使わせろよ! イジワルすぎっ!」


『うーん、世界が悪い!』


「そうだ、世界が悪い! ついでに、俺の頭が悪い!」


『そうだそうだー!』


「眷属よ、我が魂を喰らえっ!」


『えーーーーーっ!?』



 突然のナイトメア召喚である。捧げたのはLV.1……だと思うのだが、妙に疲れてしまった。



「スキルリセットのついでに、ナイトメアをもふりたくて。LV1でもこんなにしんどいの……?」


『あー、ごめん。ボクをもふりたいなら、最低でもLV.5は捧げないといけないんだ。弱すぎると具現化がすぐに終わるから。赤竜のときは、消える前にやられちゃった』


「そういう大事なことは、先に言って!?」


『ボクは君さ! 君が知らないことは、ボクも知らないのさ!』


「嘘つけぇ! 言わないだけだろうが!」


『そう怒らないで。消えたスキルを取り直そうよ』


「確かに。勉強代ってことにするわ。まずエクスヒールを取り直す。今度は、普通にスキルとして習得する」




【エクスヒール】


消費MP:2000


あらゆる傷と失った四肢を治す。




『2000だってさ。どうする?』


「うーん、とりあえずナイトメアを撫でる!」



 召喚したことで、巨大な黒い狼になっているのだ。部分的に発光しており、まるで天の川だ。風でなびく影の毛が、ふわっふわである。カッコイイなぁ。背中に乗って草原を駆け回りたいなぁ。



『まぁ、止めたほうがいいね。ユニークと勘違いされて襲われるかも』


「ですよねー。テイマーが牧場主なこんな世の中じゃ、大きな従魔なんて居ないですよねー」


『諦めよう。それと、エクスヒールはどうするつもり?』


「吸魔があるから使えなくもないが、現実的じゃない。MPを貯めているあいだは一切のスキルを使えないわけで、雑魚ってレベルじゃなくなる。そもそも、吸魔には頼りたくない」


『まぁまぁ、元気だしてよ。顔を舐めてあげるから』


「おぉ、大きな動物に顔を舐められるの、憧れてたんだ!」


『ほら、レロレロレロレロ』


「求めている舐め方と違う! そりゃ、俺っぽいけどさぁ!」



 悪友とじゃれ合っていると、ナイトメアの姿が消えた。元の姿に戻ってしまったようだ。



『時間切れには早いけど、あまり姿を見せ続けるのも危ないからね。いつぞやのように、オークと勘違いされた例もあるわけだし』



 ナイトメア、賢い。それでも、せっかく森まで来たのだから、ずっとやりたかったアレをやることにした。



『……力が、欲しいか?』


「だっ、誰だ!?」


『我は汝、汝は我……力が、欲しいか……?』


「欲しい! 何者にも屈さない力! 誰かを守る唯一無二の力が欲しい!」


『よかろう。手を伸ばせ。掴み取るのだ、貴様の可能性を、その手に!』


「おぉぉ……力がっ、漲る! くくくっ……ハーッハッハッハ!」



 そんなわけで、【闇の祝福】を習得し直した。全ステータスを底上げするこいつはレギュラー決定である。



『いやぁ、楽しかったね』


「そわそわするんだけど、それが良いんだよな。本当はもっと遊びたいけど、帰ろうか」



 相棒と気兼ねなく遊べるのも、存在が魔除けになっている赤竜様のおかげである。寮は壁が薄いからナイトメアと大きな声では話せない。いつか自分たちだけのくつろげる空間が欲しいものだ……。





 森を出て向かったのはギルドだ。到着した頃にはすっかり日が暮れ、酒場の賑わいは騒音と言って差し支えない。きっとこれに慣れたとき、本当の意味で冒険者になるのだろう……。



「居たー! おじさーん!」



 おっさん連中に囲まれていたミラちゃんが、人混みを縫うようにやってきた。



「おや、ミラちゃんじゃないか。元気そうだね。ご飯を食べに来たのなら、おじさんがご馳走しようか?」


「もうご馳走になりました!」



 ミラちゃんを囲んでいたおっさん連中が、笑顔でサムズアップ。なるほど、やるではないか。



「男たらしが上手になったようで、おじさんも嬉しいよ」


「そういうのじゃないですよー。シャドーウルフに襲われたときの話を聞かせて欲しいって頼まれたんです。そのお礼にご馳走になっただけでーす」


「噂好きな連中だねぇ。まぁ、ユニークに出会って生き延びたミラちゃんは幸運だもんね。聞きたがるのもムリないか」


「どう考えても、おじさんのおかげですよ! ユニークに出会って、誰も死ななかったのは奇跡だって言われましたもん!」


「いや、おじさんは死んだ。あそこのハゲにワンパンで殺されたんだ」


「あははは、それも聞きました。あっ、そんなことより、うちに来ませんか? 助けて貰ったお礼をしたいんですよ。昼からずっと探してたのに」



 またお泊まり会か。ベッドは固いしミラちゃんは寝てくれないしで、おじさんの疲れが大変なことになりそう……。



「悪いけど、遠慮してお――」


「はいダメでーす。行きますよー」



 おじさんの弱点。それは、押しに弱いことだった。少し顔が赤いし、酔っているようだ。



「いやー、どうもすいませんねぇ。もっと早くお礼を言いたかったんですけど、ポーション作りが忙しくてですねぇ」


「気にしないで。あの場に居合わせれば、誰だって助けたさ」


「そうだといいですけどねぇ~。もう本当に、死ぬかと思いましたもん~」



 この世界は、命が羽のように軽い。しかしながら、おじさんが唾を付けた子は、そう簡単に死なないと思っている。おじさんの唾の分だけ重くなるのだから、風で飛びにくくなるに違いない。きっとそうだ。



「でもでもー、もうあんなことしちゃダメですよー? 命がいくつあっても足りないじゃないですかぁ」


「死にたくないから、あんなことになったのさ。正直なところ、おじさんもあれは二度とやりたくないねぇ。二人の泣き顔に興奮していなかったら、どうなっていたことやら」



 スラムに吹く夜風が、ミラちゃんの酔いを覚ましてくれればいい。絡み酒は勘弁してください。そんなことを考えながら、手を引かれてボロ宿を目指した……。




「それじゃ、わたしは準備しますからー、ここで待っててくださいねー」



 案内された宿は相変わらずのボロさだ。ヴィンテージとポジろうとしたが、ヴィンテージに失礼すぎて止めた。とりあえず上半身だけ服を脱いでミラちゃんを待ったが、いつまで経っても来なかった……。



「えっ? 今日は寝てもいいのか!?」



 おじさんの問いかけに、答えるものは居なかった……。



本当に寝ていいのか!? 寝るぞ!? 寝るからな!?

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