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適正調べてクロノ死す

「人間です! 殺さないで下さい! 門番のガイルさんの紹介で冒険者登録に来ました!」



 やけくそ気味の命乞をすると、喉元に突きつけられていた刃がゆっくりと離れていく。静まり返った酒場で最初に言葉を発したのは、カウンターの奥に居る禿げ上がった屈強な男だった。



「いくら酒が入ってるとはいえ、新人イビりにしては冗談がすぎるぞ」


「そ、そんなつもりはねぇ。俺はてっきりこいつがオークかと思ってよ。嬢ちゃんを助けようとしただけなんだ」


「本当か? 派手にひっくり返しやがって。あとで掃除と弁償しろよ?」


「あぁ、来月にはきっちり払うからよ……悪かった」



 人かオークか。意見が割れたことに引っかかるが、まずはお礼を言うべきだろう。味方は多い方がいいからな。



「助かりました。俺はクロノ・ノワールです。酒場のマスターさんが間に入ってくれなかったら殺されてたかも知れません」


「バカ野郎どもが迷惑をかけたな。俺はハーゲル・シュバイツ。この酒場のマスターで、ギルド職員だ。堅物のガイルが通したなら問題ないだろう。気が早いかも知れないが、よろしくな、ブサイククロノ……っ!?」



 持ち上げて、落とす。何驚いた顔してんだ。驚いたのはこっちだよ。陰湿な煽り方をしてくれるじゃないか、このハゲ。



「おーい、ハーゲル。いくらやつが酷い顔してるからって、面と向かって言うことねぇだろ」



 また別の男が擁護してくれた。いつか一杯奢らせてくれ。



「ま、待ってくれ。俺はそんなことを言うつもりはなかったんだ。名前を呼ぼうとしたら口が勝手に……」


「ガキでもまともな嘘吐くぜ。お前もそう思うだろ、ブサイククロノ……ッ!? どうなってんだこりゃ」



 おっさん、お前もか。壮大な前振りだったのか。あとはもう酷いものだった。聖剣引き抜きチャレンジが如く人々が俺の名前を正しく呼ぼうとしてブサイククロノの連呼である。いつまで続くんだこれ。



「……騒々しいぞ! 何の騒ぎだ!!」



 パツキンロングの若い女性がゆっくりと階段を降りてくる。耳が横に伸びていて、尖っていることからファンタジーのお約束のエルフではなかろうか。正体は何であれ、不機嫌そうに顔を歪めたその表情にはおじさん興奮しちゃうねぇ。



「ギ、ギルド長……こりゃ違うんですよ。実はハーゲルが……」


「ま、待て! 俺のせいじゃな――」


「ハーゲル……貴様は私に仮眠を取れと言っておきながら、騒ぎを起こすとはいい度胸をしてるじゃないか」



 ギルド長。つまりはここのボス。社長の一喝にハゲも平謝りである。ざまぁみろ。もっと叱られろ。ついでに脱糞しろ。やっぱ止めろ。



「……なるほど。彼の名前を呼ぼうとすると意思に関わらず悪口になると。ならば私も試す他あるまい。構わないかな?」


「えぇ、構いませんよ。深く考えずに大きな声でどうぞ」



 美人に罵られるのおじさん好き。快く承諾しようじゃないか。それに責任ある立場のギルド長が感情のままにブサイクと呼ぶのは考え難い。リヴィーズ様が言っていた『世界の意思』すなわち代償なのかはっきりするわけだ。



「ブサイクロノ・ノワール……驚いたな。催眠の類の魔法をかけられた感じはしない。パッシブスキルだとしても、状態異常耐性の高い私の意思を捻じ曲げるほど強力なものだと言うのか」



 催眠。状態異常と耐性。美女に罵られるというご褒美をいただいた挙げ句、今後の生活で役立つであろうキーワードを得た。流石はギルド長。野郎どもとは格が違った。



「おそらく君は強力な呪いにかかっている。記憶がないのもそれが関係している可能性もある。そうだ、君は冒険者になりたいんだったね? 適正を調べれば何か分かるかもしれない。着いて来なさい」



 美人からのお誘いには二つ返事で同行しますとも。乗り気なところにハゲが待ったをかけた。



「ギルド長はお疲れだろ。適正調査なら俺がやるよ」


「本来なら担当する受付嬢は気絶中で、酒場は散らかり放題。ハーゲルが掃除しないで誰がするんだ?」


「そりゃ、散らかしたやつらが……居ねぇし!?」


「分かればいい。酒場は交流の玄関。そう言ったのはお前だ。ギルドの印象を悪化させないようにしっかりと掃除するんだぞ」



 箒とちりとりを持ってしょぼくれてるハゲを横目に、ギルド長に続いて別室に入る。部屋の中央には台座に水晶が置かれていた。



「これで君の適正が分かる。触れるだけでいい。そう時間はかからないさ」



 なんとなくズボンで手を拭いてから水晶に触れる。どうせなら高い適正を持っていますように……。



名前:クロノ・ノワール


守護神:従魔使いの神・リヴィーズ


性別:男   年齢:18歳   


職業:魔術師   属性:光・闇


LV:1 


HP:84


MP:148


筋力:8


知力:16


体力:10


技量:9


物防:6


魔防:15


敏捷:7


運:7


SP:1


スキル


【ブサイク】


他人からブサイクに見える。闇属性の大幅な適正を得る。


【星の記憶】


星の記憶にアクセス出来る。


【強運】


???


【経験効率】


獲得経験値が2倍になる。



「光と闇……? バカな……反属性だと……?」


「そんなに珍しいんですか?」


「ありえない。灼熱の中で吹雪くに等しい。私の知る限り、光と闇の適正を同時に持った人は居ない」



 それほど珍しいものだとは思わなかった。ゲームだと割と普通にあるし。



「は、はぁ……でも事実として適正を持ってるわけで……」


「そうだな。気になるところだが、まずは説明を続けよう」



 流石はギルド長。職務に忠実で頼もしい。質問攻めされても答えられないし。



「職業と守護神が一致しないことはよくある話だ。LVが1なのは驚きだが、これから精進していけばいい。ステータスも平均的な魔術師のものだな」


「どうすればレベルが上がるんですか?」


「そう言えば、記憶喪失だったか。なるべく丁寧に話すつもりだ」


「助かります。何も分からないので」


「レベルは魔物を倒せば上がる。LV3くらいまでなら日常生活の中で自然と上がる。だから君の年齢でLV1はおかしい。子供でもLV3はあるからな。まずは体を動かすといいだろう」



 ステータスはともかく、俺のレベルは最低ランク。まさかとは思うが、その辺の子供とガチンコの殴り合いしたら完封されたりするのだろうか。



「魔物は俺でも倒せそうですか?」


「おすすめしないな。己の力量を過信したものは死ぬ。焦らずゆっくりとレベルを上げることだ」


「そうします。死にたくないです」


「素直は美徳だ。では本題に入ろう。君のスキルについてだ。LV1の時点で持っているスキルは、祝福と呼ばれる」


「ブサイクって祝福ですか? 呪いの間違いでは……?」


「うむ、そうなんだ。祝福と呼ばれるからには、何かしらの恩恵がある。だが、君の【ブサイク】はメリットとデメリットが共存している。これまた初めての事例だ」


「つまり【ブサイク】スキルの恩恵で光と闇の属性を得ているわけですか」


「恐らくな。ありえないことが連続で起こったと考えるより、セットだと思ったほうが自然だろう」



 どうやら俺はリヴィーズ様に相当無茶なお願いをしたらしい。それを無理やりにでも仕上げてくれたリヴィーズ様には一生頭が上がらないな。



「では【星の記憶】と【強運】は?」


「【星の記憶】は、珍しい祝福だ。通常、スキルを覚えるには二通りある。ひとつは、基礎スキル。誰でも覚えられる。もうひとつは、スキルそのものを見て学ぶ。どちらもSP……スキルポイントを消費して習得する」


「その流れから推測すると、見ていなくてもスキルを覚えられる?」


「その通り。適正がある職のスキルに限るがね。一見すると便利だが、すべてのスキルを閲覧出来る訳ではないそうだし、見たことがないのだから、スキル効果は使うまで分からないそうだ」



 星の記憶もデメリットがあるように思えるが、強制ではなく自分の意思で決めて失敗したと考えればおかしくはないか。



「【強運】は、分からない。発動したときに説明が追加されるはずだ。そのときは不都合が無ければ教えてくれると助かる」



 強運なんだから単純にツイてるんだろう。宝くじがこの世界でも売ってるといいなぁ。危ないことをせずに一攫千金でウハウハだ。



「【経験効率】は言うまでもなく優秀な祝福だ。これを持っていながらなぜLV1なのか甚だ疑問に思うが」



 だって生まれたてだもん。生後半日くらいの18歳だよ。ギルド長をママと呼びたい。



「そろそろ総評に移ろう。酷なことを言うが、君は冒険者に向いていない。神殿に所属して聖職者になってはどうかな……」


「……は?」



 これから始まると思っていた冒険者生活は、始まる前に終わってた。


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