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伝説のタンク・クロノ死す

 新たなスキル【ナイトスワンプ】を習得した俺は、南の森に来ていた。目的はスキルの試し打ちである。ホーンラビットの足元に、【ナイトスワンプ】を使い、続けて【ダークネス】を放つ!



「行け! そこだ! 良し、良し良し良し……あぁぁぁっ!!」


『まるで馬券が外れたおっさんだね』



 沼による移動妨害と、ダークネスのコンボ。俺のパーフェクトな作戦は、あと少しのところで瓦解した。もう数えるのを止めた。



「くっそー。寸前のところで逃げられる。あいつの脚力、半端ないって!」


『相手も必死なのさ。四足動物とは相性が悪いのかも。ゴブリンで試そうよ』



 雑貨屋で買った黄色い瓶を、地面に叩きつける。この匂いに釣られてゴブリンやオークがやってくるらしいが……。



『君が匂いを嗅いでどうするのさ』


「いや、嘘なんじゃないかと思って。なんかトイレしたくなってきた」



 割れた瓶から少し離れた木に立ちションした。隠れて様子を疑っていると、一匹のゴブリンが鼻を鳴らしながら現れた。



――ゲゲ。ゲゲゲゲッ?



 しきりに匂いを嗅いでいる。俺の小便の場所に唾を吐き捨て、割れた小瓶のところに向かっているようだ。変態、死すべし!



「【ナイトスワンプ】からの【ダークネス】」



 ゴブリンが膝まで沼に沈む。もがくほどに、より深く沈んでいく。上半身まで沼に埋まったとき、ダークネスがゴブリンに直撃した。



「よっしゃあぁぁぁぁ! うぇーい!」


『うぇーい!』



 ナイトメアとハイタッチ。うにょっと手が伸びていたが、見なかったことにした。今はスキルコンボの完成を素直に喜ぼう。



「もう俺たち最強じゃね? 向かうところ敵なしっつーか? ダークネスまじかっけーんですけどー」


『うぇーい! うぇぇぇーい!』



 ナイトメアをヘディングして遊びつつ、ゴブリンの耳を回収しようとしたそのとき……遠くから地鳴りがした。小鳥たちが飛び去っていく。



『……どう思う? この音の正体、近づいて来てるよね?』


「まじヤバイと思う」



 大木をなぎ倒しながら凄まじい勢いで突進してくる魔物……大きな鼻に、口の端からは立派な二本の牙。茶色くゴワついた毛並み。俺の何倍も大きな猪。その名は、ビッグボア。



「ボアアァァァァッ!? 何でこの森に居るんだよぉぉぉっ!?」


『何もかも赤竜が悪い』



 本来ならば、北の森の奥地に生息するビッグボア。Dランク冒険者ならソロでも倒せるらしいが、Fランク冒険者の俺が勝てるはずもない。一目散に逃げ出したわけだが、俺と違ってビッグボアは木々を障害物とみなしていない。



「【ナイトスワンプ】からのー、【ダークネス】」



 完成した必殺のコンボを思い知れ。内心はドヤ顔で使ったナイトスワンプだったが、ビッグボアの巨体と強靭な足腰の前には、浅い水たまりに等しい。何事もなかったかのように直進してくる!



「【ダークネス】からの【ダークネス】そんでもって、【ダークネス】」



 ビッグボアは自分のタフなボディに自信を持っているらしい。だったら、ダークネスを避けないはず。真正面からダークネスを受けたビッグボアは、三発目にして首のない死体に変わっていた。



 その直後に、全身を快楽が包み込む。レベルアップだ。



「ククッ、クククッ……ハーッハッハッハ!」


『半端なプライドを持ったやつほど、ちょろいもんだね』


「相性が良かったけど、Dランクが倒すような魔物を倒しちまったよ。俺たちってさ、控えめに言って、最強じゃね!?」


『うぇぇぇーい! ……ところでこれ、どうしよう?』


「おい止めろ。もう少し現実逃避したかったのに」



 大きな大きなビッグボア。頭を消し飛ばしても、その巨体は俺の何倍もあるわけで、魔術師の俺が持てるはずもなく……。



「……途方に暮れる?」


『持てるだけ切り取って帰ろうか……』



 やっぱり最後まで締まらない俺たちだった……。





 切り出した肉の塊を、布で包んで町まで持ち帰ると、町人が俺を見て噂をしている。



「おい、オークが肉持って歩いてるぞ」



 誰が鴨ネギやねん。心の中でツッコミをして、ギルドまで急いだ。肉は鮮度が命なのである。



「ハゲー、この肉でステーキ作ってくれ」


「あ゛ぁ……? ビッグボアの肉か。何もわざわざ買って来なくても」


「いやいや、討伐して来たんだよ。デカすぎて持って帰れなかったから、こうなってるわけ」


「……あぁ! ビッグボアならダークネスも当たるか。考えたな」


「ふははは……計画どおりよ。Dランクの魔物を倒しちまった俺に言うことあるんじゃないか?」


「そんだけしか持ち帰れなかったやつがナマイキ言ってんじゃねぇよ。ビッグボアは回収するまでがクエストだ。Dランクってそういう意味もあるんだぜ?」



 レベルアップによるステータスの上昇。Dランクの冒険者なら、あれをまるごと担いで持ち帰れるということか。



「……魔術師でも持って帰れる?」


「ムリだろうな。そのためのパーティーじゃねぇか」



 フライバンで肉を上手に焼きながら、ハーゲルなりのアドバイス。【強運】さえなければ、誰かとパーティーを組んだかもしれないが、ムリだな。



「ボアステーキ、おまちぃ。記念に調理代はタダにしてやるよ」


「あざーっす! おほほほ、分厚いのにスっと切れる。口溶けも柔らか。たっぷりの肉汁とスパイスが合わさって、ワイルドだねぇ」



 おまけのグレープフルーツを食べて口直し。また肉を食う。最強コンボで分厚い肉を完食してしまったわけだが、今日はまだマナポーションを飲んでいない。ダイエッター・クロノに敗北の二文字はないのだ。



「あのさぁ、今日ヒーラー居ないんだけど、やってく?」


「パス。これから祝勝会の予定なんだよ」


「ステーキ作ってやったじゃねぇか。まだ食うのか?」


「いやいや、楽しくダイエットするんだよ。銀貨を使ってな」


「お前も本当に女好きだな」


「女の尻を追っかけると書いて、人生と読むんだよ。ステーキ、ご馳走さん」



 鼻歌混じりに向かうのは、女の子とお酒を飲みながら楽しく遊べるお店が立ち並ぶ一画だ。



「おぉ、居る居る。どの子にしようかなぁ……」



 この世界の女は、美人ばかりだ。だからこそ迷ってしまう。決めかめていると、小さな子が向こうから走ってくる。ミラちゃんかと思ったが、別の小人族のようだった。



「はぁはぁ、ブサクロノさんっ、ですか!?」


「【メディック】……そうだけど、おじさんに用かな?」



 ロリコン祭りは時期が悪い。スタイルの良い女の子と遊びたい。誘われたら断るつもりだったが、小人族の子の口から出た言葉は、意外なものだった。



「ミラとティミを、助けてっ! 森でシャドーウルフの群れに襲われてっ」


「どこの森だ!?」


「北の森です! お願いします。依頼料は必ず払いますからっ!」



 緊急依頼は高い。準備する時間や、情報が不確かなまま依頼をこなそうとすると、通常の依頼と比べて難易度が跳ね上がるからだ。この子たちに払えるかどうか分からなければ、取り合って貰えない。お互いに命がかかっている。



「くだらん話はいい。君はこのままギルドに行け。おじさんが北の森でシャドーウルフに襲われている、そう伝えろ!」



 冒険者には横の繋がりがある。冒険者が襲われているとき、親切なやつは助けに来てくれることがある。そのお礼は、一杯の酒。助け合いの精神とやらに賭けるしかない。



「はぁはぁ、くそっ! 足が遅すぎる!」



 全速力で走っているのに、なかなか進まない。もっとレベルが高ければ……。もっとステータスが高ければ早く走れるのに……っ。



『……出た、新しいスキルだっ!』



 瞼の裏に現れた文字を、効果も確認せずに握りつぶす。俺が求めているのだから、どのようなデメリットがあろうとも受け入れてやる。




【闇の祝福】



スキルタイプ:パッシブ



自身の全ステータスを1.5倍にする。




「強化スキルかっ!」



 体が嘘のように軽い。景色が流れる速度が上がっていく。走り続けていても苦しくない。



「当りだっ! これならきっと、間に合うっ!」





 北の森を走って二人の姿を探していると、遠吠えが聞こえた。きっとこの近くに居るはずだ。



「……居た!」



 ミラちゃんとティミちゃんを見つけた。正面は黒い狼たちに塞がれ、後ろは崖がそびえ立っている。登って逃げる隙はないだろう。逃げ道はどこにもなく、シャドーウルフの輪は少しずつ狭まって来ている。



「おじさん、参上ぉぉぉぉぉっ!」


「おつ、おじさん! 来てくれたんですねっ!」



 奇襲に向いているスキルは持ってない。大声を出してシャドーウルフの気を引いたが、視線はすぐに二人に向けられた。



「おいおいおい! 大した余裕じゃないか! 丸々と太ったおじさんより、小さな女の子を狙うのかい!?」



 竜ほど賢くはないが、ウルフは狡猾な性格だ。弱そうなほうを狙ったのか? いや、シャドーウルフの死体がいくつか転がっている。これはミラちゃんとティミちゃんが倒したもの。より脅威となる敵を優先しているのか……?



「はぁはぁ……挟み撃ちっ! あんたも倒して!」


「それしかないですね。頑張りましょう……っ」



 二人とも息が上がっているし、傷だらけだ。ティミちゃんは杖を握りしめ、ミラちゃんは弓を構えている。挟み撃ちするのは悪い考えではないが、二人のHPが心配だ。そうなると、シャドーウルフは二人を先に倒すつもりなのか。



「……おぉっと!? ゴミに躓いちゃったよ。あれぇ? これってもしかして、シャドーウルフの死体なのかな!? かな!?」



 シャドーウルフの死体を蹴る。蹴る蹴る蹴る。踏みにじって、唾を吐く。



――GRRRRRRRR……。



「これはシャドーウルフの死体じゃないな。ゴミだぁ! だって、か弱い女の子にやられちゃうような雑魚は、ゴミ! ゴミとしか言いようがない!」



 ズボンを降ろし、死体に小便をかける。半端な煽りは逆効果だ。やるなら徹底的に、死者の尊厳を踏みにじり、群れの意識を嫌でも俺に向けさせる。外道にのみ許されたヘイトスキルだ。



「ククッ、クククッ、ハーッハッハッハ! 何をそんなに血走った目で見ているんだ? お前らもすぐにこうなるんだよ!」



 徹底的な踏みつけにより、群れの意識が俺に向いた。低い唸り声を上げ、襲いかかってきたそのとき――。



――WAOOOOOOOOON!



 いきなり現れた白い狼が、遠吠えをあげる。たったそれだけで、シャドーウルフの群れの怒りが収まった。再び二人を得物と捉えているようだ……。



(おい、ナイトメア。あいつ、白いぞ!? 白い悪魔か!?)


『恐らくはユニークだね。もうボクが戦おうか?』



 ミラちゃんとティミちゃんの前で、ナイトメアを召喚するわけにはいかない。ユニークスキルの存在を知られると、今は良くてもあとで困る。何より、これだけの数の魔物を前にレベルが下がれば、打ち漏らした魔物に俺が殺される。



『時間がない。決めるのは君なんだ!』



 覚悟を決めた。俺は、ナイトメアを召喚しない。



「うぉぉぉっ! どけどけぇぇぇぇっ!」



 剣を振り回しながら、群れに突っ込む。そして、二人と合流した。



「【ダークネス】」



 崖にダークネスを打ち込み、裂け目を作る。そこに二人を放り込むと、両手を広げてシャドーウルフの群れに背中を向けた。



「……何でっ、こっち来たの!?」


「挟み撃ちするって言ったのに!?」


「俺は助けに来たのさ!」


「……あれ、倒せるの?」


「流石はおじさ――」


「えっ? ムリだけど? シャドーウルフの群れに、ユニークまで居るし」


「どどどど、どうするんですかっ!?」


「……はぁ、バカ。一緒に死ぬことないのに」



 尊敬の眼差しは、ため息に変わった。忙しい子たちだ。



「俺には倒せないけど、守れないとは言ってない」


「それってどういう――」


「何も心配しなくていい。助けは呼んだからね。他の冒険者がっ、駆けつけるまで時間を稼ぐだけだから。怖いなら、目を閉じて耳を塞いでもいいよ?」


「……あんた、まさか……?」


「何を勘違いしてっ、るのか知らないけど――」


「あんたっ、今っ、噛まれてるでしょ!?」



 ダークネスで崖に避難所を作り、二人を投げ込んだ。そして入り口を俺の巨体ですっぽりと覆った。ヒーローの変身を待つ紳士的な悪役じゃあるまいし、シャドーウルフたちが障害物である俺に攻撃をしないはずがない。



 俺はずっと噛まれている。手を、足を、背中を。鋭い牙で肉を噛みちぎられた回数はもう忘れた。たとえ何をされようと、俺はここを動かない。



「心配してくれているのかな? 嬉しいねぇ。でも、実はおじさんってタンクなんだよね。これくらいの攻撃は、くすぐられるようなものさ」


「ふざけないで! あんた魔術師でしょ!? そんなの続けてたらっ、死ぬに決まってるじゃない!!」


「お、おじさん……ダメですよ。変わりますから。一緒に戦ってもいいですから。とにかくっ、そのままじゃダメですよっ!」



 魔術師だろうとなかろうと、痛いものは痛い。こんなのを耐えてパーティーを守るタンクって、凄ぇわ。意識が飛びそうだ。



「やかましい! 目を腫らして、鼻水流してる君たちは、黙っておじさんに守られていなさいっ!!」



 眠気覚ましに一喝すると、二人とも泣き出してしまった。少しばかり言いすぎてしまったか。



「大丈夫さ。死ぬつもりはっ、ないんでね。無策で飛び込んだと思ってる?」


「ぐすっ、本当……ですかっ?」


「本当さ。おじさんは嘘つきだけど、正直者なんだ。だから特別に教えてあげよう。スーパータンク・クロノの奥義をね……【ヒール】」



 温かい光が俺を包み、ずたずたになっているであろう体を癒やす。俺の秘策とは、攻撃を受けたらヒールを使えばいいじゃない。そう、ゾンビヒーラーこと、タンクヒーラーだ。



 必要な資格は、死なない程度のHPと、枯渇しない程度のMPと、肉を噛みちぎられても気絶しない強靭な意思のみ。賑やかでアットホームな職場ですっ! ペットも可!



「ほんとにほんとに、大丈夫なんですかっ!?」


「もちろんさっ。なんとっ、言っても……強化スキルを使ってるからねっ。今までのおじさんとは違うんだよ」



 今の俺は恐らくLV.11かLV.12だ。そこに闇の祝福で全ステータスが1.5倍になっているから、実質LV.18くらい。さらに地の利を作り出して、攻撃を受ける面積を減らし、群れの優位性を薄めた。きっと耐えられる……。



「すぐに助けが来る。それまでのっ、辛抱さ……ごほっ」


「お、おじさん……血が……」



 最初の攻撃に比べて威力が上がっている。元からとんでもなく痛かったが、牙がより深く突き刺さっている感じだ。首を振るのは止めなさい。あのユニークが指揮官なら、前衛を火力が高いやつと入れ替えるかっ。



「【ヒール】……ほら、傷なんてどこにもない。心配するだけ損だよ。良い子だから、二人ともおとなしくしてなさい」


「……やだっ! あたしもだだかうっ! 【エアブレイズ】」



 ティミちゃんが、いがらっぽい声でスキルを放った。うーん、反抗期かな。マナポーションを分け与えている余裕はないのだが……。魔物の悲鳴が聞こえたので、一応は当たったのだろう。



「ミラちゃん、ティミちゃんを肩車して」


「か、肩車ですか? 分かりましたっ、よいしょぉぉぉ」


「これで視線が通ったね。ティミちゃんは、おじさんの背中になるべくたくさんのシャドーウルフが噛み付いてるときに、攻撃するんだ」


「分かった……【エアブレイズ】」


「……話、聞いてた?」


「たくさん居た。それだけ」



 いい根性をしているじゃないか。まぁ、俺の意識レベルも怪しいものなので、本当にたくさん居たのかもしれないが。



「ミラちゃん、マナポーション飲ませて。おじさん、手が塞がってるから」


「は、はい! どうぞ……あの、まだ瓶に残ってますけど?」


「残りはティミちゃんに飲ませて。間接キスさ……おや? おじさんの発言が気持ち悪すぎて、顔が真っ青になってるね?」


「バカ……んぐっ、ありがと」



 攻撃スキルを使えばMPが減る。ミラちゃんもマナ不足に陥っていたので、合法的なセクハラついでに分けてあげた。マナポーションも残りわずかだが、アタッカーをつぶした今、耐えきれない攻撃ではない。



(……切り札は出さずに済みそうだな。ナイトメアを召喚する理想のタイミングは、俺が使えなくなったあとだからな)



 ほんの少しだけ余裕が出来たので、首だけ振り返る。すると遠くで指示を出していたはずのユニークがこちらに走って来ていた……。



「ま、待て待て待て! お前が来るのは反則だろ!?」



 ユニークモンスターは、元となる種族とは異なる見た目と特性を持っている。

桁外れの強さらしいが、遭遇する確率は極めて低く、冒険者が人生で一度会うかどうかと言われている。出会ったら大体死ぬからそんな話になったらしい。



 やつの場合は、群れを支配するリーダースキルと呼ばれる何かを持っているのだろう。それでいて用心深く、手下を使って攻撃させていたのに……。



「この早漏野郎が……っ」



――誰が早漏だって!?



 助走を付けて飛びかかってくるユニークと、俺のあいだに割って入ってきたのは、黒銀のフルプレートの男だった。



「……ふんっ!」



黒銀の男は、両手に持つバカでかい斧を交差させる。ユニークの攻撃を受け止め、そのまま弾き返した。



「……無事かっ!?」


「あ、あぁ……生きてるよ……」



 冒険者が次々と現れ、シャドーウルフの群れを減らしていく。最後に残ったユニークと、黒銀の男の一騎打ちが始まる……。



――WAOOOOOOOOON!



 ユニークは遠吠えをあげると、離れた距離を一気に詰めて飛びかかる。黒銀の男は最小限の動作で避けて、首を落とした……。



 周りの歓声が、戦いの終わりを告げた。これで俺もやっとタンクヒーラーを廃業に出来る。こんな辛いこと、二度と御免である……。



 崖の裂け目から出て、その場に座り込んだ。黒銀の男が、得物の首を持ったままこちらに話しかけきた。



「……生きてるようだな。大したやつだ」


「凄いのはあんただ。ユニークを一発とはなぁ。その首、見せてくれよ」



 目を閉じた白銀の狼の首。その辺に転がっているシャドーウルフよりも、鋭く長い牙を持っている。これに噛まれたらヤバかった。そう思ってため息を吐いた瞬間……首が目を開けて飛びかかって来たっ!



「……死ね、ブス! 【ダークネス】」



 ご自慢の大口にダークネスを打ち込んだ。今度こそ、本当に、ユニークは死んだのだ。俺が倒した。恨みも晴らせたし、レベルも上がった。



「お、おい!? 大丈夫か!?」


「見ての通りだ。これで本当に終わりさ」


「不意打ちだったのに、よく反応できたな……」


「ウルフ種は狡猾だと聞いてる。だったら、死んだふりくらいするかなって」



 首だけになった狼が、敵の腕を掻っ攫っていく映像を見たことあるからな。サンキュー、スタジオ○○リ。



「そういう発想は、本当に凄ぇことだ。とにかく無事で良かった。お前が死んだら、ヒーラーが減っちまうからな!」



 黒銀の男が、兜を脱いだ。その御尊顔は……最強のコックだった。



「……ハゲ!? お前ハゲか!?」


「おう。言ってなかったっけ? 一応、双斧のハーゲルって二つ名があるぞ」


「黒銀装備の謎の男。かっこよくて憧れちゃうな、とか思ったらコレだよぉ! 俺のトキメキ、返してくれる!?」


「知るかよ。助けてやったんだから感謝しやがれ!」


「しかもお前、俺のこと殴っただろ!? 絶対に許さんからな!」


「はぁ? いつだよ。錯乱してんのか?」


「赤竜のときだよ! お前のおかげで目覚めも最悪だったわ!」


「その、あれはだな、どかそうとしたらお前が弱すぎて、勝手に吹っ飛んで行っただけだぜ……?」


「おどりゃ、このハゲ!」



 飛びかかったら、腹パンされて秒で沈んだ。伝説のタンクヒーラー・クロノ。ここに眠る……。




大事なときだけ大人になる展開好き

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