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強運すぎてクロノ死す

祝呪祝呪


【強運】


強敵に出会いやすくなる。





「これ祝福か? 呪いだろ!?」



 強敵に出会いやすくなる。ただの死刑宣告である。一体、誰が喜ぶのか……。



「……あっ、もしかして魔術師にして貰ったから?」



 そう、俺はリヴィーズ様に頼み込み、テイマーになるところをどうにか魔術師にして貰った身だ。だからテイマーに必要なスキルが残っていた。



 テイマーは従魔の力がそのまま自分の強さになる。雑魚を従えるより、強い魔物を従えたほうがいいに決まってる。どうやって従えるのかはさておき、出会える確率が高いほうがテイマーとしてはありがたいだろう。ゆえに祝福だ。



「なんてこった。クソったれな妄想なのに理に適ってやがる……」



 祝いも職が変われば呪いとなる。レベル上げのために出かけても、レベルが下がって帰ってくることもあるかもしれない。ナイトメアが居なかったら、単純に死ぬだけである。打つ手なし!



「中ボスくらいなら分かるけど、いきなり赤竜だぞ!? あんなことがホイホイ起きるってのかよ……」


『ボクを召喚しても、確実に生き残れるわけじゃないもんね。レベルが下がった状態で、他の魔物に襲われたらどうなるやら……』


「それな。ついでにパーティーも組めない。一生ソロ決定だわ」



 強敵を驚きの吸引力で呼び寄せてしまうのだ。【強運】のことを誰かに話すつもりはないが、パーティーを組めば、いずれ悪い噂が立つ。数を重ねるほど、噂は確信へと変わるだろう。



 ギルド長は効果は知らずとも、俺が【強運】スキルを持っていることを知っている。発動すれば効果は分かる。ステータスを見れるあの水晶を使われたらおしまいだ。ログを見れるのかは知らんが、もう触らないことにしよう。



「なぁに、ステータスなんぞ飾りよ……ナイトメア、一緒に頑張ろうな」


『うん。ぼっちでも辛くない君の精神力は化物だね』


「お前が居るからな。それに、ヒーラーになるのは嫌だし」



 【強運】の効果が町に被害を及ぼす可能性も考えたが、ギルド長を筆頭に数十人がかりで赤竜を倒した。だったら町の心配をする必要はない。自分のことだけ考えるのだ。そんなわけで、どう転んでも一生ソロである。



「とりあえず死にたくないから強くならないと。何かいい考えある? これ、自問自答だから、はぐらかすなよ?」


『装備を整えるのが現実的だよね。未知のスキルはボクも分からないけど、気持ちの強さがスキル習得のきっかけになるのも間違いないはずさ』



 このナイトメア、俺が知っているはずのことなら普通に話してくれるらしい。魂で繋がっているから出来る、究極のなりきりプレイである。



「金稼ぎと言えば、ヒーラーのバイトだな……」



 そんなわけで遅めの出勤をすると、酒場には呑んだくれた冒険者がうようよしている。机に足を乗せて熱唱するおっさんの横で、酒に飲まれた男が爆睡している。宴の名頃はまだ終わっていないようだ……。



 こんな状態でも癒やしを希望する人は多かった。赤竜討伐の熱に当てられ、冒険者活動に勤しんでいるようだ。俺のダイエットはお休みである。



「やっほー。ヒールよろしくぅ」


「……来たか、ツケ女」


「ツケ女じゃなくて、レイナ。ツケはそのうち払うからさ。体が痛くて痛くて眠れないの……」



 ツケ女こと、レイナはトレジャーハンターを自称するレンジャーだ。栗色のショートヘアで、防具の露出度は地味に高い。そんな装備で大丈夫か? と聞きたくなるが、軽量化による回避アップが目的なので一般的である。



「いつ払うんだよ。もう2週間もツケが溜まってるんだぞ。おじさんの腹を見ろよ。お前のツケでこうなっちまったよ」


「ご、ごめんって。今はちょっと苦しくてさ……? そのうちドカンと返すから、ヒールお願い。ねっ、ねっ?」


「そう言われてもなぁ。他の人はちゃんと払ってくれてるんだ。正直者がバカを見る状況になると俺が困るんだよ。もう太りたくない」


「んー、分かった。ちょっとだけ触ってもいいかもよ? ほらほら、願ってもないチャンスだと思わない? 柔らかいよ? つんつんしたくない?」



 舐められたものである。しかしながら、そのセリフはグッドだ。どこぞの勇者だってぱふぱふしている。俺も勇者だからきっと許される!



 胸は皮防具で守られているが、上半分は肌が露出し、それなりにご立派な谷間が見える。指先で触れようとしたら……野郎どもが集まってきた。



「終わりっ、もう終わりだからっ。今日のヒールはこれでツケにしてよねっ」


「えー、いいところだったのに。【ヒール】【メディック】」


「眼福だったでしょ? 治療、ありがとねーっ」



 レイナは笑顔で去っていった。少し惜しい気もするが、いい笑顔が見れたから良しとしよう。



 翌日、スライムの洞窟でレベル上げをした。MPの最大値が多いければマナポーションの摂取量を減らせるのだから、ある意味でダイエットだ。そうぽんぽん赤竜に出会ってたまるか。



 無事にギルドに帰ってきた俺は、ヒーラーのバイトに取り掛かる。太りたくはないが、上質な装備は欲しい。スライムは経験値は得られても報酬がないので、こちらで稼ぐしかないのだ……。



「……で、またツケ子ちゃん?」


「だから、レイナだってば。その、今日も、ヒール……お願い?」



 なんと図太い女なのだろう。俺といい勝負だ。



「帰れ。その図太さなら、ほっといても死なないだろ」


「あたしだって恥ずかしいけど勇気出して来たのっ!」


「恥じらうところが違くね? ツケを恥じろ、ツケを」


「そこをどうにか、お願いしますっ。またちょっとなら触っていいから、ね?」



 今日の受付はギルド長だ。ハーゲルも最強のコックと化している。お偉いさんの目を盗んで揉める状況ではなかった。残念!



「胸を揉ませたら無料、なんて誤解されると困るんだよ。今日は多めに見てやるから、帰れ。【ヒール】【メディック】」


「ありがとっ。明日は絶対に払うからっ! またねーっ!」



 翌日……もうお分かりだろうか。この女、払わないのである。



「あのさぁ……」


「あと少しなのよ。明日こそきっちり払うから、お願いっ!」


「もうこのやりとりは飽きた。お前、何してんの?」



 毎日のように癒やしを求めるこの女。体中には細かな傷があることから、サボっているわけではない。でも依頼を受けているわけでもない。誰が何しようが俺には関係ないが、最悪は助言をしないとツケが増える一方である。



「それは言えないわ。あたしはトレジャーハンターなの。分かった?」


「自称、な。話さないならポーション飲め。そして太れ」


「ど、どうかそれだけはっ。寝る前のハイカロリーは毒も同じよっ」


「てめー、俺にそんな毒物をガブ飲みさせてよく言えるな。後ろの人達は対価を払ってるが、お前はツケなんだぞ」


「うー、分かった。内緒にするなら話してあげるわ。ほら、耳貸して」



 この女は毎日のように、赤竜の卵を探しているらしい。どうも竜の卵は高額で取引されるようで、その価値は、なんと金貨5枚。低ランク冒険者じゃ何年かかるか分からない額を一夜にして稼ぎ出す算段らしい。あほか。



「見つからないから高いんだろうが……」


「そういうお宝を見つけるのがトレジャーハンターよ」



 笑顔で言っているが、この女……実に外道である。赤竜からすれば腹を痛めて生んだ我が子を奪おうと言うのだ。もし俺だったら絶対に奪う。盗まれるやつが間抜けなのだ。そんなに大事なら持ち歩け。カンガルーのようにな。



「夢を追いかけるのは嫌いじゃない。今日はそれに免じて治してやるよ」


「ありがとーっ! 絶対、誰にも言っちゃダメだからね」


「おう。明日こそ払えよ」



 翌日、やっぱり払わないのである。この外道。いや、最初から払うとは思っていなかったが、心の片隅で『もしかして』と思ってしまったのだ。



『君も懲りないね』



 おじさんは夢を追いかけている女の子が大好きなのだ。嘘っぽいと分かっていても、ついつい騙されてしまう。



「ねぇ、お願い。あと少しだと思うのよ」


「まじか。あと少しなのか!」



 おじさんはこの外道の話を信じる。信じたほうが、裏切られたときの衝撃を楽しむことが出来るのだ。それに、ツケはツケなので今更である。



「言っておくけど、本当よ? あたし、赤竜の巣の場所を知ってるんだから」


「……まじで? どこどこ? せめて方角だけ教えて」


「えー? どうしようかなぁ? 体、痛いなぁ?」


「おじさんどんな傷でも治しちゃう」


「んふっ、ありがと。あたしが赤竜を見たのは、北の森よ」


「うん? それならギルド長たちが討伐しただろ」


「知ってるわよ。発見者があんたってこともね。討伐された赤竜はオスなの。もしかしてメスが隠れてるんじゃないかと思って探したら、ビンゴ。あたししか知らないんだから」



 こ、この女……とんでもない爆弾抱えてるじゃねーか。



「ほ、報告しないとヤバいんじゃないか? もう卵とか言ってられないだろ」


「平気よ。オスが討伐されたから巣を離れられないのよ。それに、赤竜のメスは卵が孵ったらすぐに飛び立つからね」


「いや、でも……それを盗むんだろ? お怒りだろ、常識的に考えて」


「最初はそうだけど、まけばすぐに諦めるわよ。まずオスが討伐されてるんだから、間違ったって町には来ないわ。トレジャーハンターの常識じゃない」


「竜って意外と冷めてるんだなぁ……」


「冷めてるのは赤竜と白竜だけよ。黒竜は絶対に諦めない。見つけても盗んじゃダメなんだからね?」



 やらねーよ。盗みたがるのはお前くらいだ。トレジャーハンターの人口は知らんが、命知らずな連中も居たものだ……。



「……で、卵はあったのか?」


「それがまだ生んでないのよね。巣穴でじっとしてるから、そのうち生むと思うんだけど。だからツケて?」


「俺に協力を求めないならツケにしてやる。もう赤竜に追いかけ回されるのは御免だからな」


「もちろん、あたしだけでやるわ。隠密スキルには自信があるの。ツケなんて倍にして返してやるんだから」


「分かった。ぜひとも夢を掴んでくれ」



 ヒーラーを終えて、寮に帰る。ベッドに寝転がって、レイナに思いを馳せた。



 夢を掴んで、大金を手にする。金銭感覚が麻痺して金遣いが荒くなり、やがて破産するのだ。そして落ちぶれたところを、優しく慰める。栄光と衰退を間近で見れるなんて、楽しくてそわそわしちゃう!



『どっちが外道か分からないね』


「いやいや、無力な俺なりに人助けをしているんだよ。しかも、合法だぞ」


『それもそうだね。君の感情が流れてくるよ。こういうのは新鮮で楽しい』


「そうかそうか。分かってくれるか。流石は相棒だ」



 ナイトメアを頭の上で転がして遊んでいると、誰かが俺を訪ねてきた。扉を開けるとそこには、ツケ女が居た。



「泊めてくれない? 家賃払えなくて、追い出されちゃって」



 もちろん俺は、笑顔で扉を閉めた……。



「ちょ、ちょっと待ってよ! 今晩だけ泊めてよっ!?」



 扉が閉まる直前に、レイナに足を入れられた。借金取りの手口である。取り立てたいのはこっちなのに……。



「近所迷惑だろ。泊めてやるから明日また来い。そんじゃ!」


「だからー、今日泊めてってば!」


「えー? 嫌だよ?」


「か弱い女を野宿させるつもり? 信じられない。サイテー」


「か弱いって……お前、冒険者なんだから野営したことあるだろ。強く生きろ」



 本当に凄まじい図太さだ。俺でも躊躇うことを平然とやってのける。これは世界に通用するレベル。



「ほ、本当に困ってるの。泊めてくれたら、ちょっとくらいエッチなことしてもいいよ……?」



 最悪の提案である。なんと価値のない女なのだろう。安易なエロなど俺は求めてない。早く大金掴んでから破産してくれ。話はそれからだ。



「ノーサンキュー。女なら誰でもいいってわけじゃない。出直してきな」


「でもあんた、めちゃくちゃ嬉しそうじゃん?」


「何だと……? そんなわけないだろ……」


「ふーん……隙きありぃ!」



 部屋に転がり込まれてしまった。この疫病神、とんでもない速さで追いかけてくるな。せめてゾンビのようにのろのろ動いてくれ。腐ってもレンジャーってことか……。



「やりぃ! そんじゃ、おやすみーっ」



 シングルベッドを占領して寝ようとしているこの女、どうしてくれようか。



 ひとつ、俺が床で寝る。ふたつ、ベットから引きずり下ろす。みっつ、セクハラする。



「しょうがないやつだ。俺が床で寝る……わけねぇだろがっ!」



 セクハラは却下である。こいつは女の皮を被ったおっさんでしかない。だから引きずり下ろそうとしたのだが、魔術師のステータス舐めてた。本気でやってるのに微動だにしない。こいつは……山だ!



「……重すぎぃ!」


「もー、うるさいなぁ。近所迷惑でしょ。寄ってあげるから早く寝なさいよ」


「えぇ……おじさん、体だけはダブルサイズなんだけど……」


「詰めれば大丈夫よ。ほらほら、添い寝だと思って……狭っ!」


「お前、太り過ぎだろ。ちょっと痩せろよ」


「太ってるのはあんたでしょ! あたしは標準体型よっ!」



 体がダブルサイズの俺と、態度だけはダブルサイズのレイナ。ベッドは壁際に設置してあるから、押し込めば落ちることはないのだが、もうみっちりである。そんな状態で言い争いが起きればあとはもう悲惨の一言に尽きる。



「……うぼぁっ! 肘が……腹に……っ! 【ヒール】」


「大げさすぎでしょ……って吐血してるしっ!? あんたレベルいくつよ」


「このゴリラめ……レベル5だ。お前は?」


「ざっこ! あたしはレベル16だから」


「強すぎだろ!? どうやったら金なくなるんだよ」


「あたしがトレジャーハンターだからよ。討伐するくらいならお宝探しするに決まってるじゃん」



 どうやら索敵スキルと隠密スキルばかり習得しているらしい。そんなやつの肘打ちごときで吐血するんだから、レベル差って恐ろしい。俺にこの疫病神を祓う力はない。諦めて寝よう……。



「……ねぇ、しないの?」


「あ゛ぁ? ルール無用の残虐ファイトか? 目潰しと金的は禁止な」


「違うし。ほら、男と女がベッドで寝てるんだよ? トランプしようよぉ」


「子供かっ!?」


「あたし、大人も楽しめるトランプ遊び知ってるんだから……ほら」



 レイナが自分の谷間を指さす。そこには、なんとカードが入っていた。



「よーし、おじさんトランプ遊びしちゃうぞー!」



 夜中までめっちゃババ抜きした。


祝い呪い祝い呪い。頭がおかしくなりそうなんでこの辺で。

ダクソではニト様派でした

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