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異世界王に俺はならない!




 夜道を照らす街灯のおぼろげな明かりが吐き出した煙草の煙りを白くする。


「はぁー、 ⋯⋯ さっむ」


 人目をはばからず、思わず声に出してしまうほどに今日は寒い。


 近所のコンビニで買った夜食の肉まんとあったか~い缶コーヒー。冬と言えばこの組み合わせ、異論は認める。


⋯⋯


 早くアパートに帰って毛布に包まろう。

 毛布の中で肉まんを頬張りながら見る恋愛ドラマは格別なんだよ。やめらんねぇッ——


——ん?


あれ?アパートの階段に誰か座り込んでやがる。こんな時間に?こんな寒い日に?酔っ払いか?


 俺は2年住んでいる木造二階建てのボロアパートに恐る恐る近寄る。


 女だ。髪が長いし、でもこの真冬にあんなド派手で真っ赤なドレスって ⋯⋯ 。

 そしてなにより髪の色、ドレスと同じ真っ赤なんですけど、同色で合わせてるんですけど、めっちゃファンキーなんですけど。



 確定、酔っ払い。


 結論、関わらない。



 この女に関わるなと本能が警笛、いや警ドラムを某Xばりに叩きまくっている。


 何故だか俺の人生、厄介ごとに巻き込まれやすい。


 

 忘年会シーズン真っ只中の金曜日、格好は解せないが、間違いない。

大方、出し物的なことでもやったんだろう。


 幸い、鉄骨階段の手すりに寄りかかって俯いているので、辛うじて二階に行くことはできる。


 俺はできるだけ音を立てないように、そろり、1つずつ階段をあがる。


 無事、ファンキー女の横を通り過ぎて二階までたどり着いた。


 ミッションコンプリート。


 俺の平穏な夜は守られた。


 いつもより物音に注意しながら、ドアノブの下に着いた鍵穴にカギを入れて玄関をあけようとしたその時、背後に気配を感じ、反射的に振り向いた。




「ウオォォォワァァ!」


 


 びっくりした、真後ろにファンキーな頭があった。


「ありえなくない?ていうか普通にありえないんですけど、意味わかんない!」


 驚いて玄関に張り付いた俺にファンキーが何故か怒りながら詰め寄ってくる。


「こんな〝美〟少女がこんな寒空の下、儚げに俯いて座ってる真横を素通り!? アンタ本当に人の子? 実は魔王?」


 すごい剣幕でまくし立てるファンキー。なんだこいつは。


「 ⋯⋯ なんかすごい良い匂いがするわね、オールピッグの蒸し焼きに似てるわ」


 なんだかよくわからない単語を使いながら、俺を睨んでいた真っ赤な瞳は肉まんの入ったコンビニ袋に注がれる。


 柄にもなく、一瞬取り乱したが頭が可哀想なファンキーを見ているうちに平静を取り戻した俺は。


「 ⋯⋯ おやすみなさーい——」


「——待ちなさい! なに普通に部屋に入ろうとしてんの? え? 本気? この状況で?」


「この状況もあの状況もないけど、忙しいんで」


「それよりアンタの持ってるそれ」


「これか?」


「それ、寄越しなさい!」


「 ⋯⋯ ふぇ?」


「なに鼻ほじってんのよ、何よその落ち着き、ナメてんの? アタシのことなめてんの?」


「ナメテマセーン。真っ赤な髪に真っ赤なドレス、自己主張の激しいイかれた酔っ払いだなんて思ってまセーン。」


「よーし買った。そのケンカ買うわ。アルタニア王国のプリンセスとしてここまでコケにされてそのまま終わらせるなんてあり得ない。私を主人として慕ってくれている民たちに申し訳が立たないわ!」


 王国にプリンセスと来たもんだ。やっぱりそうだ。キチ◯イだ。よし、逃げよう。だってお母さんに言われたもん。おかしな人に関わっちゃダメだって。


「あの、観たいドラマがあるんで。それじゃ——」


「あ、いやちょっと! マジで部屋に入ろうとしないで!」


 言いながらも急いで閉めようとしたドアを新聞の勧誘よろしく、某放送局よろしく真っ赤なヒールを履いた足を挟み込み、逃走を阻んでくる。


「アル中王国だかなんだか知らないけど、酔っ払いに構ってる暇ないんで」


「酔ってないってんのよ! シラフよシラフ——ってイタイイタイッ! 力尽くで閉めようとしないで!」


「そろそろ本当に警察呼びますよ」


 強引にさよならすることを諦め、素早くドアのチェーンだけはかけてかくなる上は法に頼ることする。


「やだなー、その敬語。すごく距離感じるなー、やだなー」


 ファンキーはドアの隙間に顔を突っ込みながらも引きつらせた笑顔でなんとか取り入ろうとしてくる。


「我ながら完璧な距離感だと思うけど」


「さみしーなぁ、もっと仲良くしたいんだけどなぁ」


 明らかな棒読みで、作られた笑顔で。


「 ⋯⋯ はぁ」


 深く。

 色々な感情と諦めを込めて深々と溜息を吐いた。


「 ⋯⋯ 何が目的なんだよ、こんな時間に」


 光明を見出したのか、ファンキーの表情がパッと晴れた。


「怪しいものじゃないの」


 いやいや、十分すぎるほどに怪しいですよとツッコミそうになったが、話しが長引くと面倒くさいので心の中に留める。


「色々説明したいんだけど ⋯⋯ ね? こんな格好だし、外、寒いしさ? 人の目も ⋯⋯ 」


 そう言ってファンキーが瞳を右に流す。


「なんかさっきからおばさんがドアの隙間からこっち見てるんですけど」


 小声で訴えてくる。 ⋯⋯ 吉田さんだな。何にでも首を突っ込みたがるお節介な吉田さんだ。

この間、宗教の勧誘に来たお姉さんと話してるのを見て「アンタも年頃の男だから仕方ないけど、あんまりそういうお店の人、このアパートに呼ばないでよ? 普通に生活してる人もいるんだから」と眉をひそめて苦言を呈された程にお節介な吉田さんだ。

 とはいえ、そりゃこんな夜中にこれだけ騒いでりゃ吉田さんじゃなくても聞き耳の一つや二つ立ててもおかしくない。

 

 また、なんか言われるんだろうなぁ ⋯⋯ 。

 安易に想像できる未来に煩わしさを感じつつ。


「仕方ない、騒ぐなよ」


 渋々、チェーンを外しドアを開いて招き入れる。


「やったー! いいの? 良かった本当に。マジで魔王かと思ったわよ」


「ウルセェ! 騒ぐなって言ったろ! 本気でつまみ出すぞ!」


「ず、ずびまぜんマサト様 ⋯⋯ 」


 俺の本気と書いてマジな怒りを感じ取ったのかシュンとして大人しく玄関でヒールをバラバラに脱ぎ捨てる。


「あーあー、靴は脱いだら揃えろ。母ちゃんに習わなかったのか」


「うぅ、だって普段は侍女がやってくれるんだもん」

 

 は? 侍女? さっきの設定まだ引きずってやがんのかコイツ。どのアニメから引っ張ってきやがったんだ。


「その格好、コスプレだろ? 俺あんまりアニメに詳しくないからわからないけど、なんてアニメだ?」


「コスプレじゃないわよ、正真正銘、アルタニア王国第六八代王女——」


——ん? まてよ、こいつさっき、んん?


「待て、待て待て待って、 ⋯⋯ あれ?  ⋯⋯ お前なんで俺の名前知ってんだよ!?」





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