嵐の夜に
アスファルトの濡れた匂いと金木犀の香りを鼻いっぱいに吸い込むと、ひとつため息をする。さした傘には雨が降り注ぎ、私のスカートやヒールを濡らしていく。傘の反対側に持った大事にビニールに包まれた手紙には、恋とも愛とも呼べない貴方への想いが綴られている。時間は0時をまわろうとしていた。
彼の車はたしかこれだったはず。と、家の駐車場に置いてある彼の車の前に立つと先程とは違うため息ではない。吐息がもれた。運転席のドアの前に移動すると、風で飛ばないようにと手紙の入ったビニールを結びつけた。心臓が脈を早め、顔が熱を持つ。罪悪感にかられた訳ではない。私は、嬉しいのだ。
結びつけた後、彼の住むアパートを見つめる。明かりは一切点ってはいない。きっと何も知らない彼は今頃ベッドの中で幸せな夢でも見ているのだろう。一人ではなく、二人で。あぁ、そんなことを考えるのはやめようと顔を歪める。愛した男が他の女と夜を過ごしているなど、今以上に狂ってしまう。
唇を痛いほど噛み締めるとそこを後にした。
きっと翌日、彼は目のあたりにするだろう。私の醜い全てを。