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追放の秘密と急がない謎

 その山は全長1000メートルは越えているだろうか、頂上からふもとまで、下山としても、相応の時間が、かかることは想像に難くない。

「新記録を狙う。ここ数ヶ月で、走力も魔力もついたことだし、相当な記録が期待できるな」

 ルーゴは、腕時計(もちろん盗品)のタイマーをセットすると、おもむろにクラウチングスタートの体勢に入る。

「それじゃあ、ヨーイ、ドン」

 体を浮かし、スタートを切る。

 ルーゴ、ふもとへと、全速力で走りきるつもりだ。

 全力? 1000といったら、下りとはいえ、無呼吸、つまり全速力で走ることは不可能。

 有酸素運動に切り替えて、スピードを調整しながら走るのが一般人であるが、盗賊を家業とするルーゴは、どんな距離でも全力で走りきることが要求される。

 息継ぎすることもない。

 速い、とにかく速い。異常なスピードだ。行く手を邪魔する木々もなぎ倒し、ルーゴは、とにかくひたすら走る。

「バルブエナ」

 補助魔法バルブエナを使うと、さらに、スピードは加速される。

 バルブエナは、スピード加速魔法というよりも、状態促進魔法といえる。つまり、スピードに乗った状態のルーゴにこそ効果があり、最高潮に近づくほど、より効力を発揮する。

 ルーゴは、もはや目視で確認できないほどのスピードに達する。

 思えば、ルーゴがノラスコのサイフをすったのも、実に堂々とした犯行だった。

 ノラスコとフアンズの対決中、

 お互いが、様子見として、じりじりと、距離を詰めたり離したりしていた時。

 さっと、二人の間に割って入ると、見えない速さで、二人の元を行き来して、サイフを抜き取った。 さらに、財布がないのか、物色する余裕すらあったのだ。

 その一連の動作は、わずか0・001秒にも満たない。

 ボンクラな二人組を狙っての犯行とはいえ、二人が気づかないのも無理がないほどの、早業であった。


 「よっしゃ、いい記録でたな」

 ふもとまで、まさに、あっというまであった。

 これだけの距離を全力で走って、呼吸の乱れひとつない。

 時計を見る。どうやら新記録のようだ。

「オレは日々、成長している」 

 ルーゴは、結果に満足したのか、開けにくいスナック菓子をむりやりにひきちぎるような風変わりなガッツポーズを見せる。

「さてと、銀行いくか」

 ルーゴは、すかざす銀行に行って、金をおろすつもりだ。

 ノラスコ、ピンチだ。


「あのガキ、許せねえ」

 イライラの頂点に達したのか、ついに、ノラスコは切れた。

 鬱積を晴らすかのように、近くにあった大木に左手で殴りつける。

 軽いジャブていどのパンチでも、ノラスコの尋常でないパワーは、大木を一瞬にして、なぎ倒す。


「フアンズ、ルーゴの習性知ってるか?」

「ああ、盗んだあとは、山の上で、戦利品を確かめるだっけ。その山は、たしか西の町外れにあったはずだ。ここは町の東。つまりは、山と正反対に位置する。となると、町の外には出れないルーゴだ。できるだけ早く実行に移したいとなると、自然とキャッシュカードで金をおろす銀行は決まってくるな。ふもと近くの銀行となると…」

「ブルムクイスト銀行、スッテター支店だ」

「よし、急ぐぞ、西の銀行か。セーザーVに乗れ、ノラスコ」

 フアンズ、さっそうとセーザーVに乗り込むが、はっと気がつく。

「……あ、ゴメン、オレ以外乗れないんだ、セーザー・Vには。そうだ、オレにしがみつけ。高校時代もそうして遊んだことあったよな」

「急ぐ必要はない」

 怒り一転、ノラスコは腕組み半分、悠然と構えている。

「なんでだよ、早くなんとかしなしないと、お前の金、使い込まれるぞ」

「いいから、みとけ、すぐにわかる」

「?」

 フアンズはちんぷんかんだ。

 ノラスコのこの自信は、どこからくるんだ?


 ルーゴは町中追放の身である。町の外に追放ではない、あくまでも町の中に追放の身。

 幼少時代から、数々の悪さを、懲りもせずに繰り返してきたルーゴ。

 町は、そんな悪党を外へ放り出す処分を取るでなく、逆に、町の中に追放することに決めた。

 未成年の悪党を、そのまま町の外に出すのは、町の恥だ。

 ならば、町に留めて、皆で更生しようという試みだ。

 町の皆が、ルーゴを想い、徐々に過ちを正していく。

 いずれ、ルーゴがまっとうな人間になる日まで待つ、性善説に乗っ取った処分、それが町中追放だ。

 ただ、試みがうまくいっていないとことは、現在のルーゴをみれば、一目瞭然。それでも町は、まだルーゴを見捨てないいないのか、処分は変わらない。


 降りたったルーゴは適当な銀行を物色中だ。

「銀行……銀行と…」

 コンビニはある、今時、たいていのコンビニで金はおろせる。

「コンビニはダメだ。手数料が発生する」

 自分の金じゃないクセに、セコイな。

「あった、あった銀行。ブルムクイスト銀行ホルム支店」

 ルーゴの視力は、遠くはなれたものまで、視界に入れる。

 ふもとから、向かって西の方向に、銀行の看板が見えた。町の西外れのさらに西。つまりは…。

「あ、やばい。ホルム支店ってことは、町の外じゃねえかよ」

 ルーゴの現在位置から一番近い銀行は、ステッターのとなり町ホルムにある。

 町中追放のルーゴが町の外へ行くことができるのだろうか?

 警官も見当たらなければ、正義感を持った誰かが、止めることもないだろう。

「もしかして…、日々の行いが認められて、追放の処分が甘くなっているかも…」

 盗んで、盗んで、盗んで、ひたする盗んで、山に登っては、下る。それがルーゴの相変わらずの日々の行い。

 これで、更正してるとするならば、世の中の犯罪件数は激減するだろう。

「あそこに、看板あるってことは、境界線は、この辺りかな…」

 ルーゴは、『ここからホルム町』と表示してある看板の元まで向かうと、頭の中で町の境界線を引く。頭の中で推測した境界線に足を踏み込ませるとき、自然とおそるおそるとなる。

「情状酌量の余地あり…」

 と呪文のようにつぶやきながら。右足が、境界線を越えた瞬間ー。

「うわ、あちちち」

 ルーゴの甘い願いは、微塵に吹き飛んだ。

 ルーゴに向かって、天から光線が富んでくる。焼かれるように、右足に、熱い光を浴びる。

「処分は継続中……。クソ、他の銀行探すか」

 町中追放の処分の身分であるルーゴには、ある魔法がかかっている。

 町の外に、勝手に出ようとすると、高熱の光線に焼かれるというものだ。

 もちろん、冠婚葬祭など特別な理由がある場合は、この限りでない。役所が認めれば、町の外に出れるわけだが、まだまだ少年のルーゴ、今のところ、その手の用事はない。


 いくら、誘いをかけても、ノラスコは乗ってこない。

「どういうことだよ、ノラスコ。じっとしてればいいって」

「だから、今に分かるって、今にな」


 はたして、ノラスコが悠然としている理由とは?

 というか、フアンズ、君は何でここにいるんだっけ?

 

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