たたずむルーゴ。落ち着くノラスコ
ルーゴは笑う。
「けっこう分厚いじゃないか…。ノラ公のサイフ……。高卒の公務員のクセして、結構もらってるな…」
ルーゴは小高い山の上にいる。
「どれどれ、中身を確かめるとするか」
ルーゴは逃亡を企てることもない。ただ山の上にいる。
「あれ、あれあれあれれれれれれ? 分厚い、その秘密は…カード、カードカードカード、札束でなく、カードが、趣味の悪いサイフを分厚くしていた。現金は小銭だけ……」
ルーゴは感情のまま、思い切り、サイフを叩きつけるが、すぐに拾い上げる。
「と、カードでもいいじゃないか…。ノラ公は、ポイントカードを溜め込んでいるタイプとみた」
ルーゴはカードを吟味する。
「カードの中身もあれじゃねえか…。今時スタンプカードって、あいつどこの時代遅れの店を利用してるんだ。しかも、ほとんどスタンプを獲得していないときた」
ルーゴは再びサイフを投げつける。今度は拾わない。
「ただ、いいものを見つけてた」
ルーゴはカード一枚だけ手元に残していた。
「じゃじゃじゃじゃ〜ん。キャッシュカード」
ルーゴは山の上が安全だとか考えて、ここにいるわけではない。盗んだら、山の上で戦利品を吟味する。それがルーゴのルールだからだ。
ただ人気のないへんぴな場所、ほとぼりが過ぎるまで、ここにいることは、ルーゴに、それなりの安全を保障する。
「さあてと、とっととおろしに銀行行ってくるか。夕方すぎだと手数料取られるし」
ここにいれば、ひとしきりは安全。それなのに、ルーゴは山を降りる。
ルーゴはフアンズやノラスコと同じで、やはり頭はよろしくない。それでも、ルーゴはただバカなわけではない。今、山を降りたら、捕まる可能性があることくらいはわかっている。
むしろ、危険性を楽しみたくて山を降りる。追いつ追われつの逃走劇。紛争のない町に、ちょっとした波風が立つ。
「で、そのサイフ、現金はどれくらい、入ってるの?」
「ポケットにいれると、こぼれ落ちそうになるくらい、オレのサイフは分厚い」
「さすが、就職してる奴は、金回りが違うな」
「ふふ、羨ましいか。フアンズ、お前も遊んでないで、就職しろ」
ノラスコは、はらなくいい見栄をはる。
「どうでもいいが、ゆっくりしすぎてない? 早く動き出さないとルーゴの奴、尋常じゃないスピードの持ち主だ。どこまで逃げてるか、わからないぞ」
「いいんだよ、そんなに遠くにはいけない」
「なんでだよ」
「ルーゴの奴は、ただいま町中追放の処分の身だ」
「ああ、あいつ実刑くらってたんだ。それなら、遠くへはいけないな」
「だろ? だから、オレは余裕綽々で…」
ノラスコは胸元から、菓子パンひとつ取り出して、かぶりつく。
「遅い昼食を取ったりしちゃう」
「遠くへ、いけないことはわかった。でもなノラスコ……」
「でも、なに?」
「早く捕まえないと、サイフの中身使われてしまうよ」
「あ!!」
ノラスコが見つけられない軽い盲点を、フアンズが鋭く指摘だ。
「ああ〜 あの野郎!! とっとと捕まえて、八つ裂きにしてやる!」
ノラスコの怒りは、インスタントに頂点だ。
「想像以上に頭悪いんだな。ノラスコって…。まあ、オレも協力してやるよ。腐れ縁として」
フアンズは呆れつつ、ルーゴ捕獲の協力を誓う。
町中追放? 謎の身分のルーゴとフアンズノラスコの最悪コンビの捕物帳が今、始まる。




