盗賊ルーゴ
小型端末機は、電話にもなる。ノラスコは、いそいそと口元に当てる。
「はい、ノラスコです。え? 盗み? はい、わかりました…」
紛争のない町で盗み。これは珍しいことだ。犯罪完全絶滅宣言を出した町でだ。(後に、完全絶滅は誇大とされて、ほぼが加わったが)
ノラスコは、久々に仕事に対してのテンションが急上昇だ。
「盗みですね? どこでですか? どんな人物が? 何を、いつ頃、どうやって? はい、はい…」
端末も切り、懐に戻す。
「お〜い、フアンズ聞いたかあ〜 盗みだってよ、盗み〜」
フアンズは聞いちゃあいない。ノラスコ、君がぶん投げて、いまだに気を失っているよ。
なんで、そんなところに寝ているんだと、フアンズの元に駆け寄ると、無理やりにも起こしにかかる。
「おいおい、フアンズ、起きろ、起きろ」
けんかを繰り返しても、二人は親友だ。けんかが終われば、不思議と元通り。
「うにゃむにゃ……。その声は…ノラスコ? 久しぶりだな……って、なんでオレこんなところで寝てるんだ?」
フアンズは今あったことさえ、あえふやだ。しかも、
「うわ、なんだ、隣にもう一人オレがいるよ」
自分で分裂しておいて、忘れる始末だ。
「なんだ、フアンズ、気を失って直前の記憶が吹き飛んだか? 話すのも面倒だ…」
ノラスコが、また無理やり、二人のフアンズを掴むと、力任せにドッキングだ。
あら不思議、分裂していたフアンズは元通りだ。
「あっれれ…気のせいか、今オレ二人だったような」
しかもいまだ状況把握できず。
「そんなことよりな、フアンズ。事件だぜ。事件、この町で事件なんて珍しいよ。ようやく番人としての実感が湧いてきたよ」
「事件? そりゃ珍しいな。町の新聞も事件なさすぎて、四コマ漫画、三面記事いっぱいになる始末だし。で、何の事件?」
「事件といっても、スリだがな。サイフをすられたマヌケな奴がいるらしい」
「なんだ、スリか」
「スリで思い出さないか? この町でそんなちゃちな犯罪犯す奴……。逃げたのは、小柄でボサボサ髪の痩せ型の二十くらいの男だってよ。覚えあるだろう?」
「ボサボサで……オレらと同じくらいの年頃……あ、ルーゴ?」
「だろうな。ルーゴだよ、ルーゴ。オレたちのけんかの原因にもなったあのルーゴだよ」
※第三話参章
「でなあ、場所は、街道14号線の果てしなく続く谷の付近だってよ」
「街道14号? ってこの辺じゃないか? しかも、この辺り、谷が果てしなく続いているような気がする」
「? この辺? そうだな。この辺だな。で、盗まれたサイフの形状は、百ユーキリスショップで買えるような安物で、デザインは黒と緑のまだら模様だそうだ(百ユーキリス=百十五円相当。今日現在の相場で)」
「なんだそのサイフ、センス悪いな」
「だろう……。うん? 黒と緑のまだら?」
ノラスコ、何かに気づいたかのように、急に懐をまさぐる。
「ないない…。サイフがない…。フアンズ、オレのサイフ取ったか?」
「取るわけねーだろ? なんだ落としたの? 探してやろうか、どんなデザイン?」
「黒と緑のまだらの……」
「黒緑まだら?…」
「……」
「って、盗まれたのオレのサイフじゃねえか。クソ、あのルーゴの野郎、どんな早業でオレのサイフをすりやがった」
番人としての義務というより、屈辱がノラスコを動かす。
「おい、待て、ノラスコ。敵は、ルーゴ。普通じゃないスピードの持ち主だ」
「どこまでも追いかけて、とっ捕まえてやる」
「そりゃムリだ。オレが協力してやるよ」
「また例の…か」
「そうだ。秘密兵器セーザー・V これさえあれば、ルーゴにも勝てる」
とフアンズは、自慢のセーザー・Vを手招きで呼び寄せて、筐体を誇らしげに、叩く。
「まあ、お前にも協力してもらうか。今日だけはな」
はたしてルーゴの実力とは?




