決着?
立て、立ち上がれ、フアンズ。このまま負けたら、いくら、なんでも弱すぎるぞ。
ノラスコは、信じられないものを見た。
目の前にフアンズがいるんだ。当然だろうって?
倒れているフアンズは、ノラスコの背後にいる。後ろに目がついているわけでないノラスコにフアンズの姿が見えるわけがない。
それなのに、目の前にフアンズがいる。
いや、正確にいうと、目の前にもフアンズがいる。
目の前に立つフアンズは、驚き固まったノラスコにたいして笑いかける。
「どうだ、驚いたろ? オレも驚いた」
「ど、どういうことだ、フアンズ? 後ろにも、前にもお前がいる」
本当にどういうことだ?
「いくら練習しても、できずにいて、そのままだった魔法を繰り出したんだ。まさか、この局面において、初めて成功するとはね」
魔法? そういうことだ。
「も、もしや、フアンズ。この魔法は……」
「そう、そのまさか。ボルケスなんて基本魔法じゃない。けっこう高等な魔法。分裂魔法【オルラドミラ】だ。炎に包まれる直前に分裂に成功。おかげで、こっちの体は、ダメージを負うのを免れたぜ」
「ふ、そういうことか、お前が、そんな魔法を使えるとはなあ……。でもなあ分裂したから、どうなんだよ、弱いのは弱いままだろうに…」
ノラスコは、口ではそういいつつも、恐怖におののいている。
フアンズはごくたまに爆発的力と力得体の知れない成長を発揮するやつだ。と、あらためて再確認だ。
「ところで、フアンズ。お前、さっきに比べて、声が小さくなってないか? 所々聞こえないぞ」
「そうか? 気のせいだろう…」
気のせいではない。実際、フアンズの声は小さくなっていた。
「じゃあ、いくぜ、ノラスコ」
「くそ、魔法を使えるとはやっかいだ」
とかけ声はいいが、一向にかかってこないフアンズ。じらされたノラスコは、様子見半分で、挑発するが。
「どうだ、かかってこい、フアンズ」
それでも一向に動かないフアンズ。
「どうした? 今度はオレからいかせてもらうぜ」
とノラスコが飛び出そうとした瞬間、後ろから何者かに羽交い締めに合う。
「う、なんだ。誰の仕業だ。誰もいないはずなのに?」
目の前のフアンズが、答える。
「オレの仕業だ」
羽交い締めにしたのは、倒れていた方のフアンズであった。
「ダメージから回復するのを待っていたんだ」
ただ不意打ちとはいえ、フアンズのパワーで、ノラスコを封じ込めることができるのか?
「こ、こいつ、覚えていたな。オレが、けつ揉まれると弱いことを。クソ、ガキのころのことをよく覚えてやがった。頭のわりに、物覚えはいいな…」
羽交い締めにしている方のフアンズは、ノラスコの弱点である、ケツをきっちりと抑えていた。
なるほど、これならフアンズのパワーでも制圧可能だ。
「よくやった。って、自分で自分を褒めるのもなんだよなあ」
これは、チャンスだ。
「連敗ストップだ!! くらえ!!」
ノラスコに向かって、勢いよく走り出す。
ただ、呆れるほど遅い。ほとばしるやる気に、体がついていかない。
「あ、あれれれ? どうした、これじゃあ、ノラスコより、お、遅い……」
たった十五メートルの距離なのに、五秒もかかったあげく、軽く息切れ。
それでも羽交い締めにされたノラスコは目の前だ。
ここで、必殺のパンチだ。ノラスコの醜い顔面をヒットだ。
「えいあ〜 必殺のフアンズパ〜ン〜チ」
このパンチが、また遅い。
「あ、あれえ?」
それでいて、威力はない。ノラスコの顔面をクリティカルヒットするが、ノラスコはノーダメージだ。
「なんだ、お前、ふざけてるのか? って、ちょっと、待てよ……」
ここで、さほど頭のいいわけでもないノラスコも気づいたときた。
声が小さい。スピードもない。パンチの威力もない。
「ありがちすぎるパターンだな。分裂すると、能力も半減するなんて」
もちろん、高等魔法のオルラドミラ。完成されたものが使えば、能力は半減どころか、実質二倍になる。
ただフアンズの能力が足りてないだけだ。五年前のパソコンで、最新の3Dゲームを動かすようなもの。
無理があるんだ。
ノラスコは、魔法が未完成、つまりとフアンズも未完成とみた。
ノラスコは、目の前にいるフアンズを片手で掴むと、
「体重も半減か、軽い軽い」
そのまま、羽交い締めにしていたフアンズにぶつける。両者とも、頭を打ち合い、ダブルノックアウトだ。
両方をまた掴むと、軽々と投げ飛ばす。一体目の上にさらに、二体目のフアンズが重なる。
「記念で十メートルのところが、軽すぎて、二十メートルは飛ばしてしまったな」
ノラスコ、誰も見てないが、取り合えず、Vサイン。
「完全勝利」
いろいろと攻撃を繰り出しあったが、結局、ノラスコはノーダメージ。まさに完全勝利だ。
やっぱり負けた。これで、フアンズの六連敗、ノラスコの六連勝。ノラスコは、記念すべき対フアンズ十勝目を飾った。
ヒーローインタビューもない。笑顔なき勝者ノラスコは、決戦の場を後にする。
「そういえば、フアンズは、オレに用あったんだっけ」
覚えていたとは。
「何だっけ? まあいい、どうせたいした用じゃないだろう」
まあしょせん絵空事で、そうたいそうな用事でもないでしょうが。
その時だ。ノラスコの持つ小型端末機がけたたましい音を立てたのは。
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