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フアンズの剣と魔法

 均衡状態を打ち破ったのは、フアンズであった。

 フアンズは、

 「た」

 と奇声をあげて飛びかかる。では、なぜ「たー」でもなく「た」? それは、フアンズの性格によるものだ。

街中で大声をあげることも、はばかるほどの小心者。精一杯出して「た」の一文字。これでは、勢いもでない。飛び出しのスピードは、緩い。

 飛び出したまま、ノラスコに飛び蹴りを浴びせようとするが、簡単に見きられる。

 体格差にパワー差はあるが、スピードは身軽なぶんフアンズ。頭もひき算ができる分フアンズが切れる。なにより、フアンズは、総合学科の卒業。技も魔法も、戦士として育成されたノラスコより豊富で優秀のはずだ。

 それなのに、無鉄砲のデタラメな戦い方では勝機は見出せない。

 小心者なのに、無鉄砲。生きていく上で、これ以上苦労するタイプがいるだろうか?


 七度目の対決は、ないはずであった。フアンズは成長期についた圧倒的な差に絶望していた。もう二度と勝てる見込みはない。だから、ノラスコと戦うことは辞めた。そのはずであった。

 仕掛けたのは、フアンズの兄ワースであった。ワースは、弟フアンズの実力を計りかねていた。素質を感じ、恐れていたが、実力を十分発揮できてるとは、言いにくい。フアンズを窮地に追い込まれたときこそ、力を発揮できるタイプとみたワースは、ノラスコを策略にはめて(フアンズが影でノラスコの悪口を言ってたなど些細なことを吹き込んだ)、七度目の対決の舞台を仕組んだ。

 どうして、ノラスコが、戦いに挑んできたのか、わからなかったフアンズは、ずいぶんと戸惑った。心当たりがなかった

そんな、なにも準備していない状況であったのに、フアンズは勝ってしまう。

 フアンズは、その時の状況をよく覚えていない。無我夢中のうちに、気がついていたら、ノラスコが、自分の前で沈んでいたとしか語らない。

 ノラスコも七度目の対決について、多くを語らない。ただ人生で初めて恐怖を覚えた。と残すのみだ。

 フアンズの勝利を知った兄ワースは、弟の計り知れぬ素質に驚きを隠せなかった。やはりただ者ではない、と。ただ、その素質の意貸方をよくわかってないアイツが、人生の勝利者になれるかはわからないと語った。 

 得体の知れない謎の勝利。ノラスコが、腹の底で、フアンズに恐怖を感じているのは、この対決があるからだ。


 飛び蹴りをあえなく避けられたフアンズは、体勢を整えるのも精一杯だ。なにせ卒業以来、寝てばかりで、ろくな運動もしてないからしかたがない。

 フアンズの無様な出方を見たノラスコは一安心だ。

「ふん、どうやら、体がなまっているようだな。最後の対決に比べても、ずいぶんとスピードが落ちているぞ。まあ、お前の蹴りなんぞよけるまでもないがな」

 

 ようやっと体勢を取り戻したフアンズはなぜか一笑。

「バカだな、ほんとノラスコの野郎は。今のは軽い準備運動に決まってるだろ? なにせオレは、あの最後の対決から、ここ数ヶ月、お前をどうやったら、倒せるか、そればかり考えてたんだよ」

 これはウソ。ここ数ヶ月フアンズの頭の中は、暇だな、遊びたいな、でも金ないし、金ないから働くか? それも面倒だしああ暇だな…。といったダメ人間にありがちな停止した思考状態に陥っていた。ノラスコのことなんて今の今まですっかり忘れていたわけで。


「ふん、どうせ強がりだろ? いつもの」

 ノラスコ、キミが正解。

「そうやって、安心しきっとけ、すぐに痛い目にあうから」

 手の内見透かされても、根拠のない自信が続くフアンズ。

 

 八度目の対決。ノラスコが平均的平均点ハイスクールを滑り止めにしたことにたいして、フアンズが怒り勃発。ちなみに、フアンズは平〜平に、補欠で合格。

 前回の謎の勝利で、意気揚々と挑んだフアンズがあえなく一蹴。

 九度目の対決。中学卒業記念に戦う。中学生的思考により対決。これまたフアンズが負ける。

 十度目の対決。二人共通の友人でもあるルーゴが、ノラスコの財布を盗み、それをフアンズの仕業と勘違いして、対戦。

金の恨みは凄まじく、フアンズは三秒で沈む。のちに誤解は解ける。

 十一度目の対決。フアンズが偶然拾ったセーザー・Vにノラスコが乗れず、対決に発展。もちろんノラスコの圧勝。

 十二度目の対決。高校の卒業式の帰りに、フアンズが、平均点的学校を平均点以下で卒業ということをノラスコにつかれて、対決に発展。

 当然のごとく、ノラスコの勝利。

 ここまで、ノラスコの五連勝。都合四年ほど、フアンズに勝ちはない。それなのに、ああ、それなのに、何の策略も成長もなく立ち向かうフアンズ。いったい、君の自信はどこから湧き出るんだ? 小心者のクセして。


 フアンズは、懐から、ゆっくりと短刀を抜く。短刀を太陽に照らすと、煌々と輝く。

「安心しろ、これは真剣じゃない。まあ一太刀でも喰らったら、いくら頑丈なお前でも、地面にお寝んねすることになるけどな。なにせ、オレはお前と違って、総合出身、剣も使いこなせるぜ」

「剣? そうだったな、お前中学のころ、よく、オレは魔銃剣戦士になるんだって、言ってたな。それも高校卒業してすぐになってやるってな。で? 高校卒業したけど、なった?」

 どうみてもなってません。毎日家でゴロゴロしてます。


「まあ、みてろって、すぐになってやるから」

 何の勉強も準備もしてないのにどうやってなれるんだ?

「短刀を使って、おもしろい技を見せてやるよ、重戦士のようなパワー馬鹿には到底できない、技、知力、美しさを併せ持つ究極の剣技」

 卒業試験で、いちかばちかで披露した技をここでお披露目だ。

「剣技・全方位全方向舞踏剣だ」

「なに? お前が、まさか、あの技を?」

 ノラスコも怯む剣技の威力のほどとは…。

 フアンズは、左右前後にステップを踏み出す。体がほぐれたのか、動きは軽やかだ。短剣も持った左手を振り上げると、

「いくぜ、舞踏剣」

 そこから、天に向かって、大きくジャンプする。太陽を背に向けたために、

「うわあ、太陽の光で見えない」

 ノラスコの視界から、フアンズが消える。短刀をものすごく勢いで振りまして、まるで何百本もあるかのように、見えてくる。視界から消えたフアンズは、何度もジャンプを繰り返しして、一人で、ノラスコを取り囲む。

 しかも、ノラスコは、フアンズを見失った状態だ。ここで剣を浴びせれば、勝利の大チャンスだ。

 ただ、試験で見せたミスをまた繰り返す。

 フアンズは、跳んでいた勢いで、持っていた短剣を足元に落としてしまう。

「いて、イテイテ〜 痛てえ〜」

 短剣は、右足にざっくりと突き刺さる。かろうじて、傷は浅く、あっさりと引き抜けたのは幸いであったが。

「くそ〜 またやっちまった〜 同じミスを……」

 卒業試験でも、右足にざっくり。ただ、痛みとフアンズを哀れに思った担当の先生が、お情けで合格を出す。


「いいかな? 攻撃して」

 ノラスコの探りは終わった。探った結果、フアンズはまるで成長していない。相変わらず。最後の敗戦の二の舞にはならないとの成果発表。 

 今度は、ノラスコの番だ。のっしのっしと威圧感たっぷりに、フアンズに近づき、右足の痛みをこらえるのがやっとのフアンズは身動きがとれない。当然、あっさりと捕まってしまう。

「十勝目いただきだな」

 とあっさりと勝利宣言。フアンズを軽々と高々持ち上げると、

「十勝目だから、十メートルにしておくか」

 そのまま、フアンズを投げ飛ばす。宣言どおり十メートルほどむこうでまで、フアンズは投げ飛ばされる。

 地面に落ちたとき、重く強い地鳴りが鳴り響く。フアンズの体重だけが、出した音ではない。プラスしたノラスコのパワーが出させた音だ。

 右足の痛みに、叩きつけられたダメージ。尋常ではない傷を負ったはずのフアンズだが? 

 なんと、どこから気力が湧くのか、立ち上がる。

「クソ、このまま負けてたまるか」

「ほう…体力というか、精神力は、前よりついたようだな」

「なんかなあ、簡単に負けしてまうと、人生も負けてしまう気がしてな」

 フアンズは、これだけダメージを追っても立ち上がる。ニートのわりに偉い。 


 それでも、フアンズは圧倒的に不利。状況打破するためにとっておきの策を使う。

「ボ、ボルケスを使うぜ…」

「ボルケス? フアンズ、いつのまに、ボルケスを使えるようになったんだ?」

「バカにするな、オレは、何度もいうが、総合学科卒業だぜ。魔法のひとつは当然使えるようになってる」

 ボルケスとは、基本的の攻撃魔法だ。体に溜まっている魔力が、呪文を唱えることで、炎に変出し、手のひらから、噴出される。噴出される炎の勢いや大きさは、もちろん、使用者の能力に依存する。つまり、フアンズが、どれだけの炎を噴出できるか? それによりフアンズの現状の能力が、あるていど図れるというわけだ。

 フアンズは、呪文を唱えはじめる。

「ボ……ボ……」

 力を溜めているわけだが、普通は数秒で、力は溜まる。やはりフアンズの能力は劣るのか、溜めるだけでずいぶんと時間がかかる。

 もちろんスキだらけであるが、ノラスコは攻撃しようとはしない。これは、生死をかけた戦いではなく、あくまで個人的な対決である。

「ボルケス」

 かけ声とともに、炎は噴出される。炎は青かった。それでいて、ライターを灯したていどの大きさで、勢いは、亀の歩みにも劣るスピードだ。

 ファンズは、意外と喜んでいる。

「出た、出たよ、出た。試験でも出なかったのに、出た」

 

 ノラスコは、思わず噴き出す。

「うははは。魔法を使えるっていうから、また、いつのまにか、急成長したのかって、こっちも警戒してやったが、なんだ、この炎は……」

 ひとしきり笑うと、胸元から、タバコのBOXを取り出した。中から一本取り出すと、ようやくノラスコの元へとたどり着いた、青い炎に向かって、そのタバコを向けた。

「火をありがとう」

 ノラスコのタバコに青い炎が灯る。すかさず口にくわえて、

「ふふふ、タバコの先が、青い火なんて珍しいよな」

 煙を、フアンズに向かって吐き出す。

「未成年のクセに、タバコ吸いやがって…」

 フアンズは、周りに立ちこめようとする煙を、遮ろうと懸命に、両手をパタつかせる。

「いいんだよ。未成年でも、仕事をしている者なら、喫煙は…」

 この世界においても、未成年の喫煙は禁じられています。


「ボルケスなら、こっちも出せるぜ」

「? ハッタリかますなよ。単科高校卒業のパワー馬鹿のクセして」

「魔法といっても、ボルケスは、初歩の初歩だ。単科でも必修だぜ。ボルケス…」

 フアンズと違い、ノラスコの魔力は一瞬にして溜まり、噴出される。

 ノラスコの炎は、赤い。ボルケスにより繰り出される、炎の色は、十人十色だ。フアンズは青く、ノラスコは赤い。

 フアンズの炎より、はるかに大きく、勢いがある。一瞬にして、フアンズに赤い炎が襲いかかる。 

「うわあああ〜」

 炎に包まれたフアンズは、ダメージを受けて、前のめりに、倒れ込む。

「これで十勝目か。記念にカードでも作るかな……。さて仕事に戻るか」

 ノラスコは、勝利宣言。

「あ、ボルケスは、たいしたダメージ与えれないから。傷も一晩で直るよ。ま、その様子だと、夕方まで、気を失ってそうだけど」

 気をつかう、優しいノラスコ。

 フアンズは、倒れ込んだままでいる。

 はたして、フアンズは、パワー一辺倒の戦士に魔法で敗れるという屈辱的な敗戦の仕方で十勝目を許してしまうのか?









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