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フアンズの奇跡とフアンズの性分

 一円の炎に包まれたフアンズは、どうしてレベルの段違いに高い魔法が出せたのを不思議がるよりも、多くの関係ない人を傷つけたことに、たじろいでいる。

 人がいいともいえるが、この町において、お人よしは、損だけをする。

「あっわわわわわわ」

 うろたえるより、何をしても罪に問われないと、気を取り直さないと、またえらい目に合う、それが波乱に満ちた町だ。

「まあいいや」

 そうだ、開き直りこそ、無法地帯で生きる唯一のすべである。

「それより、財布をすられたことが、まだむかついてしょうがない」

 自分の罪は放免であるが、人の犯した罪は許さない、これもまた波乱に満ちた町。

 イザコザがイザコザを生み、やがて町をひっくり返すような事件に発展する。

 フアンズはその出発点に位置し、中心になる覚悟ができたのだろうか?

 それこそ、フアンズがこの町を目指したわけ、自分を変えるきっかけを求めたことに対する、ただ一つの答えである。

 

 フアンズは、たじろきうろたえまくったあと、ようやくレベルのい魔法を出せた不思議を不思議がる。

 エル・ボルケスといえば、ボルケス系統の魔法で、上から2~3番目に位置する高等魔法であり、

フアンズのように、才能がなく、そのうえ努力の二文字をこれ以上なく嫌う、怠け者に出せる代物である。

 そんなフアンズが高等魔法を放出できたことは、それこそ、奇跡に違いないのであるが、主人公は、奇跡を起こすのだが、よけいな奇跡は起こさない。

 大きな炎を出したからといって、今のところ、フアンズに好都合はない。

 奇跡を起こしても、状況を奇跡的に一変できなければ、軌跡の奇跡たる意味がないのだ。


 もう一度、試しにと魔法を唱えるが、エル・ボルケスどころか、ボルケスクラスの炎を出そうとも出せない。

 出がらしのようなスカスカの硝煙が出るだけで、これではタバコの火をともすこともできないだろう。

「オレは、高等魔法使いになった」

 ぐっと拳を握り締め、とりあえず、自分は高等レベルに、進化したと宣言をしてみた。

 平均的平均ハイスルクールの理科の授業で、ある老教師から、目標を声に出すことによって、目的に近づくとの教えに、薫陶を受けたフアンズは、時折、それを思い出し、ふいに実行に移すのだが、目標と現在地に大きな差が開いていた場合、その効果はないことには、まだ気がついていない。


「財布をすられた、どうしようか?」

 フアンズは天を見た。フアンズは、考え事をすると、必ず天を仰ぐ。

 天に答えがあるわけでないし、青空も嫌いなら、曇り空も嫌いな、フアンズは天を仰ぐと、たいてい

歯軋りをする。

「この町でも、太陽は同じだ」

 意味もない、当たり前のことを確認すると、フアンズは考えがまとまるのである。

「そうだ、警察だ」

 無法地帯において、権力と法律を盾とする警察に意味があるのか、それよりも、警察があるのかが、問題。

「警察に行って被害届を出そう」

 それ以前に、フアンズが、こんな町くんだりにきたのは、自分の進まない意思を後押しした、ポランコのセーザーV号、強奪である。

 ポランコを追いかけて、結果的に、進まない目的地にきたわけで、急ぎを要する事態のはずなのに、

フアンズはあわてず、余計な被害届を出す。

 出しても、無駄に終わるだろう。たいていの警察は、スリくらいの軽犯罪に、労力を使わない。

 ましてここは、無法地帯である。

 フアンズは、無意味な行動に意味を見出すタイプであるが、無意味な行動を積み重ねても、導き出されるものは、たいてい無意味しかないのだ。


「お、あったよ、交番」

 意外にあっさりと見つかったのである。

 ところが、交番には先客がいた。フアンズのような無意味を愛するバカが、この町にいるとは…。

 しかも、それは、知った顔であった。





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