不可思議少女ポランコ
フアンズが跳ねてしまった少女は、路地に横たわっていた。
「ど、どどどうどうしよう」
フアンズは、少女の元に駆け寄った。
その少女は見覚えのある顔だった。
「ポランコ? ま、まさか…」
ポランコとは、ノラスコと取り合いになったフアンズの同級生の女の子だ。
一見美少女、よく見ても美少女。だから取り合いになったわけであるのに、現在、フアンズもノラスコもポランコには興味がない。
「だ、大丈夫?」
興味がなくても、心配はする。
「………」
返事がない。思わずポランコを揺する。
「おい、大丈夫か」
だから大丈夫ではないって。
フアンズは頭を抱えて、立ちつくす。
「うわあ〜 ついにやっちまった。これで、オレも犯罪者だ」
窃盗犯を追いかけてたうえでの事故だから、情状酌量の余地があるとか、打算的な考えをしたりするが引いたことは事実にかわりはない。
フアンズは絶望で顔を覆う。今のフアンズの目の前には、闇しかない。
逮捕、裁判、賠償金、投獄……。
それでも自分の心配ばかりだ。ポランコの様態を、もう少し気にしたらどうだ?
奇跡は起きる。
主人公は死亡事故を起こさないものだ。
ポランコが何事もなかったように立ち上がった。
フアンズはあっけに取られて言葉が出ない。
「あら、こんにちわ、フアンズ」
相変わらず、マイペースの不思議少女ぷりだ。跳ねられておいて、あらはない。
「へんてこな車に乗って、どこ行くの? あんまりスピード出さないでね。危ないわよ」
いつものようにノラリクラリとしたペースに翻弄されつつも、フアンズは、ほっと一息。
「ああ良かった。ポランコはそういえば看護学校行ってたんだっけ? だから瞬間的に回復魔法使ってことなきをえたのか」
「魔法なんて使ってないわよ」
「え、ホント? 打ち所がよかったとか?」
「頭をガツンとコンクリートに打ちつけたわよ」
「そ、それで大丈夫なの?」
「うん、大丈夫よ」
さしたる根拠もないが、この子ならありうる事象だとフアンズも思うしかない。
ポランコは幾多の男を虜にしてきたが、その数だけ男をひかせてきたのだ。
誰の手も負えないほどのスケールの大きさ、それがポランコの魅力でもあるのだが。
「ねえねえ、乗せてってくれない? あたし寄るところがあるのよ」
「え? ちょっと今、急ぐ用事があって」
「いいじゃない」、いいじゃない」
加害者のフアンズは被害者の頼みは断りにくい。
「でもねえ、乗せたいのはやまやまなんだけどね…乗れないんだよ、多分ね」
人の話もろくに聞かずに、ポランコは乗り込んでいる。しかも助手席ではない、運転席の側だ。
「あれれ、乗れてるし…。おかしいな、オレ以外の人間は弾くはずなのに…」
セーザーVに乗れるのは、世界でも自分ただ一人。フアンズの数少ないアイデンティティ崩壊のピンチだ。
「ダメだよ、ハンドル触っちゃ」
ハンドルは飾りのようなもので、あくまでも意志だけで動く。
乗れたにしても、運転はできないはず。フアンズのかすかな楽観論さえ砕け散る。
ポランコを乗せたセーザーVは、いともあっさりと発進した。
「あわわ、おい、ちょっと待ってくれよ」
フアンズは慌てふためきながら、ポランコを追いかけるハメになったのだ。
一方、ノラスコは相変わらず土の中に埋まったままだ。
ルーゴは誰にも追われていないのに、ひたすらに逃げている。
複雑怪奇な状況下、物語の方向性すら見えない。




