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6(終)

「え、カワウソカフェですか?」

『そう、この街にもあるんだよ、カワウソカフェ♪』


 お昼時、とある大学にある学生食堂の一角で語り合っていたのは2人の女子学生だった。1人はこの大学で生物に関して学ぶリョウコと言う名を持つ女子大生、もう1人は彼女と同じ高校から入学した後輩である。


 その話題の中身は、今から丁度1年程前にこの街にオープンし、以降現在まで繁盛しているというカワウソカフェ、『カワイイカワウソカフェ』であった。長い胴体に触り心地の良い毛並み、短い手足に愛らしい表情――時が経ってもなお相変わらず止む気配のないカワウソブームの中で、その後輩もまたカワウソと言う動物に対して多大な興味を抱いていた。動物園で会うのも楽しいが、どうせなら一緒にたっぷり触れ合わないか、と言うリョウコ先輩からの誘いも当然断るわけがなかった。


「先輩、それでどんな種類のカワウソがいるんですか?」

『えーと、確か……コツメカワウソだったかな?』


 オープン以来何度も何度も訪れ、すっかり常連と化したリョウコは、『カワイイカワウソカフェ』の中身を熱く語った。美人店長に可愛いカワウソ、美味しいドリンクやスイーツも味わえる最高の空間だ、と説明する彼女の言葉を楽しそうに聞いていた後輩は、そのカフェで飼育されているカワウソの種類を聞いたのち、ある事を呟いた。どうせならニホンカワウソを飼育した方が楽しいんじゃないか、と。あくまで興味があるだけでそこまで生物に詳しくない後輩の発言を、先輩であるリョウコは一切咎めも皮肉ったりもせず、穏やかな笑顔のまま優しく否定した。ニホンカワウソが最後に確認されたのはずっと昔、既に絶滅宣言が出されてしまっている動物だから、カフェで飼育されている事はない、と。



『それに、ニホンカワウソはああ見えてちょっと()()からね……飼いきれないと思うなー』

「そうなんですか……残念だなぁ……」



 でも、もしかしたら案外()()に暮らしていたりして――少し落ち込むそぶりを見せた後輩をリョウコはそう言って励ましたのち、次の講義が終わったら一緒にカフェへ行こう、と改めて誘った。リョウコと共に常連となっている友達3人――後輩から見れば『3人の先輩』も含めて。



「全然大丈夫ですよー!うわぁ、楽しみだなぁ……」

『だけど、マナーはちゃんと守ってね?守らないと()()()()に……』

「大丈夫ですよ先ぱ……ん?」


 その時、一瞬だけ後輩はリョウコの様子が普段とどこか違うような、そんな不思議な感覚を覚えた。しかし、彼女はすぐそれを自分の気のせいだ、と理解した。隣にいるのは、いつもと同じように明るく知的、どんな生き物にも詳しい、魚が大好きな頼りあるリョウコ先輩である、と改めて認識しながら。



『それじゃ、そろそろ食器片づけようか♪』

「分かりましたー♪」



 ごちそうさまでした、と声を揃えて挨拶をし、これから自分を待つ楽しい時間に対する思いに夢中になり続けていた後輩は、全く気付く事がなかった。尊敬するリョウコ先輩が、その瞳を見慣れない女性のものに変え、まるで目当ての獲物を見つけた動物のように、ゆっくりと舌なめずりをした事を――。


『……ふふ♪』




 ――いや、正確にはリョウコだけではない。

 この学生食堂の中でずっと魚料理を貪り続けていた、後輩以外の『人間』全員が、静かに後輩を見つめながら、ゆっくりと微笑んでいた事を。そしてその顔が、瞬きするほどの僅かな時間だけ――。



『ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』ふふ……♪』…




 ――()()()()姿()()()()を持つ『美女』へと姿を変えていた事を……。

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