仙台と名古屋と袋。
フィクションです。
仕事の中で、
仙台出身で名古屋で働いていると、
言葉のイントネーションがおかしいと、
上司や取引先の人に言われる事がよくある。
「一宮」「安城」「柿」の3つは特に違うと指摘される。
こんなことがあった。
一番最初に働いたドライラミネートの会社でのこと。
営業主任と同行。
街中にある△△ケミカルと言う商社さんでの新版の打合せ。
「いちご~パックを作りたいんだ。サイズは××で、ドラッグストアーで販売するんだ。袋の構成はこれで…。形はスタンドパックで吊るし売りするから、フック穴もつけてね。」
デザインデータは支給で、
30分の打合せ。
化粧品分野の仕事は初めてだ。
親はパックをよく使うが、
私自身はスキンケアにはうといから、
パックはしたことがない。
苺のエキスでも入ったパックなんてあるんだ。
苺の絵を入れるから、
ピンクの袋だろう。
かわいい絵の袋を作りたい。
主任は羨ましいなぁ。
私もそういう袋に携わりたい!
そんなこんなを妄想していたら、
お客さんと主任はお米の品種は何が美味いか話してる。
正直、
米の品種は詳しくない。
お昼前だから、
お腹空いてるんだろうな。
簡単に話を聞いてメモをした。
その後、
会社に戻り、
主任が課長に報告をした。
「新版は米袋でした。でも、スタンドパックでやりたいそうです。」
え?
米袋?!
その瞬間、
すべてが分かった。
会社名が△△ケミカルで、
ドラッグストアーで売ると言う台詞から、
「いちごパック」=苺の風呂上りに顔に塗るためのパックを入れる袋だと私は思い込んでいた。
袋のサイズもチューブを入れるようなサイズだし、
フックに吊るす話だったから、
顔に塗るためのパックとつじつまが合う。
実は、
お米の一合分を小分けで入れた、
新しいタイプの販売方法用の袋だった。
名古屋の二人はイントネーションで、
お米の一合だと理解していた。
仙台出身の私が聞くと、
米の一合じゃなくて、
明らかに果物の苺に聞こえるイントネーションだった。
帰り際に急に米の話題を話し出して、
おかしな二人だと思っていたら、
おかしいのは私の方だったのだ。
もう一つ。
上司と好きな食べ物の話をしていたら、
「カレイの煮込んだものが好きなんだよ」と言われた。
40代の男性だ。
「2日目の煮込んだカレイが好きなんだ。」
「そうなんですね。私も好きです。」
仙台にいた時は、
ほっけの塩焼き、カレイの煮込み、ほやの水煮、牡蠣の湯豆腐がしょっちゅう出た。
おにぎりはもちろん、すじこに限る。
小さい頃からお魚はよく食べる。
それについても、
数ヶ月後に衝撃を受けた。
上司は辛いカレイが好きだった。
そう。
上司が好きだったのは魚のカレイじゃなくて、
カレーライスのカレーが好きだったのだ。
完全にイントネーションが、
魚の方のカレイと言っている。
他の名古屋人たちと、
話していても、
みんなカレーを「カレイ」と言う。
年配の男性だから、
余計に和食や煮こみ魚が好きだろうという偏見も相まって、
カレーだとは思わなかった。
柿の話をしていると思っていたら、
名古屋人に牡蠣の話をしていると思われたりもした。
関西弁よりも、
仙台から名古屋の方が、
言葉の壁は質が悪いかもしれない。
ことさら、
お客さんとの意思確認は大事だ。
「若い女性向けのデザインの袋」と言えば、
お互い分かった気になるが、
実際は50代の部長さんの頭の中の若い女性は、
メイクもネイルもばっちりなキャバ嬢で、
私にとっての若い女性は、
化粧っけも少なくて、
アイドルの追っかけをやっていて、
仕事も腰掛けの同じ会社の事務員だったりする。
恐らく、
50代の部長さんのイメージの若い女性の買うお菓子はデパ地下にあるような、
一粒500円もするようなチョコだ。
そして、
私のイメージの若い女性が買うのは、
ドン・○ホーテのような激安ショップで100粒入って500円程度のチョコだ。
デザインを出して、
ダメ出しを食らうパターンだ。
「いちごぉ」と言うイントネーションから、
かたや果物、
かたや米を指している。
育ってきた環境の違いが、
袋にはさらに顕著に現れる。