表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軟包装  作者: なるる
23/24

何度でも、前を向け。

「版代を下げることは駄目だ。一円も下げない。向こうから、言ってきたんだから、断れ。」


やっぱりな。

分かっていたけど、

部長に相談しても無駄だった。



一時間前に、

新規で進めていたお客さんに電話口で怒鳴られて、

非常階段で泣いたから、

もう、部長を説得する気力はなかった。


うちと取引を考えていると電話があったのは、

数ヶ月前。


何度か訪問をして、

見積もりを出して、

一部は値段があった。


注文を出したいけど、

版代が1本3万円が出ないから、

月の売上で金額がいくようにするから、

何とかならないかと話が難航していた。


上司を連れていった方がいいとなり、

最初は部長に断られて、

お客さんにも都合が合わないと言ったものの、

2回目は何とか部長を連れていく方に話を持っていった。


そして、

同行した日。


他社の納期対応の悪さに、

包材の仕入れ先を増やしたいと考えていると言ったお客さんに、

「うちも、注文が混む時期は似たようなもんなので、期待に応えることはできませんよ。」と、

ネガティブな返事の部長。


さらに、

他社では、

モノクロもカラーも版代は1万でやってもらっていると言うお客さんに対し、

「仕事が欲しいからと、版代を安くしているコンバーターがありますが、

それでは業界全体の値段を下げるだけになる。

だから、そういうことは、業界のためにもしたくないんです。」と、

かっこよく、

結局は版代は下げないという内容を部長が話し、

お客さんが再度社長に聞いてみるとの事で、

その日の同行は終わった。


1週間にお客さんに電話をしたら、

まだ社長と話ができていないと言われ、

2週目に電話で、

「仕事を出すことは社長に了解を得られたけど、

版代がやはり、

この金額が出せないと言われたから、

再度版代について、つめた打ち合わせがしたいんだよね。」と言われた。


「その件について、色々部長にも話してみたんですけど、やはり、なかなか下げることはできないと言われまして。」


「その点は、月の売上が50万欲しいとか、60

万欲しいとかなら、協力するって言ったじゃない。この前、部長さん来た時も、後ろ向きなことしか言わなくて、うちとやりたくないみたいな事しか言わなかったじゃないか!そんなにうちが信用できないのか!!」


「そんなことは、決してないです!取引がない事もあって、なかなか版代を下げる事ができなきなくて…。」


「最初は取引がないの、当たり前でしょ!そんなに、うちとやりたくないのか!D社さんなんか、うちと是非やりたいって来てるんだからな!!うちとやるか、やらないか、考えて返事して!!」と、

早口で怒鳴られ、

私の「信用していないとかじゃないです。私はやりたいんです!」という言葉も、

耳には届かなかった。


怒らせてしまったことや、

怒鳴られたことで、

非常階段で訳も分からず、

涙が止まらなかった。



そこで、

最終決断を、

部長に聞きに行ったものの、

返ってくる言葉は予想通りだった。


先週末に、

お客さんと専務と飲みに行き、

私が新規のお客さんと版代で部長とお客さんを行ったり来たりで、

解決してない件について専務から言われたことを、

思い出した。


「君が部長とずっと、ごちゃごちゃやっているのは、知ってる。

そんなの、版代はいらないと言うしかないぞ。

いいか?

上司の言っていることを、聞いていたら、仕事なんか、とれんぞ!」



全く、

その通りだ。


キレイ事じゃ、

新規はとれない。



部長に言われた通り、

版代をまける事はできないと、

新規を断ったところで、

部長たちから、

「よくやった。」と褒められる事も、

社内で会社方針を守ったと評価されることもなく、

新規の売上もなくて予算達成すら、

しないで終わるから、

確実にボーナスに響く。


ボーナスの査定基準が、

明確に、

年間新規500万円と記載されており、

金額から計算で60%達成と評価されるから、

自分がその新規のためにかけた時間や費用は、

全く評価はされない。


今回のお客さんも、

冒頭コンビニで9月から発売のラスクを探して欲しいと頼まれ、

土日の深夜2時に県内のコンビニを車でハシゴして、

そのラスクを探し回って、

何とか見つけて、

並んでいる分を買い占めて、

お客さんにプレゼントした。


金額は千円程度で安いかもしれないけど、

自腹で買ったから、

正直、安い買い物ではない。


時間やお金を使った新規を、

仕事を出すと言われるところまで来たのに、

版代がネックで断って、

振り出しに戻るしかないなんて、

勇気がいる事だ。


それでも涙をぬぐって、

やるしかなかった。


北山次長のその日の一時間の面談でも、

新規について、

「版代を安くするなんて、言われたら、上司はダメって言うしかないだろ。そんな風に聞いたら、上司はダメって言うしかないんだから、お前の聞き方が悪いんだよ。

で、新規は、どーするんだ?!」と、

いつもの捨て台詞を吐かれた。


次長の口癖だ。


「そんな事を言われたら、上司はダメって言うしかないだろ!お前の言い方が悪い。」


それこそ、

部下が相談して、

「そんなのダメだ」って言うだけなら、

子供でも出来る。


結局は、

責任を持ちたくないし、

部下が勝手にやっているだけと、

丸投げして、

何も考えずに、

責任放棄しているだけにすぎない。


自主性や、

自分で考える事が大事だと、

もっともらしい事を言っているけど、

新規をとってこない、

売上をとってこない、

部下の相談に的確なアドバイスさえしないなら、

そんな上司は必要がない。


ただの人件費の無駄遣いでしかない。


こいつの年収で、

若い営業マン二人雇った方が、

意味があるんじゃないかと思った。


こうやって、

新規がとれないという、

苦い失敗体験だけ、

ひたすら増えていく。


愚痴る同期もいない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ