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軟包装  作者: なるる
16/24

坪内先輩の闇。

こいつの方が給料高いのかー。

なんて、無能な上司や低レベルな先輩を見てため息。

さらには毎日残業して、20年以上会社に尽くして、嫌な仕事も引き受けて、課長止まりで残り3年で定年退職を迎える上司を見て、ため息。

10年以上必死に雑務を引き受けて、毎日お前はダメだと罵られ、なかなか係長にしてもらえず安月給の主任を見て、ため息。

仕事は頑張った分お金をもらえるわけではない。

目の前の鮮やかな緑色のパソコンの画面に、

ぼんやりと自分の影が浮かんでいた。


「今日残業してもよろしいでしょうか?」


17時になる3分前。

自分がどんなに忙しい人間か、

坪内先輩が営業部長に説明をしている。


「次長に明日の朝までに、この仕事をやるよう、今朝頼まれまして。」


営業でも残業代支給の会社で、

例え1年目の社員でも残業をする権利はある。


「朝言われたのか。やり方をちゃんと教わったやり方でやっているのか。この前、やり方が違うと言われていただろう。」

嫌だと言う感情を隠そうとしない声の部長。

残業をするなという雰囲気を察知する。


明日に回せる仕事であればいいのに。

一瞬で社内がみんな思う。


基本的に17時になる頃には、

『今日中にやらなくてはいけない仕事』はなくなってる。

営業担当があるなら、

突発的なトラブルはあるが、

営業サポートの仕事をしている私や坪内先輩にそんなものはない。


今日中に出荷しなきゃいけない商品なら、

出荷時間は5時前に終わるし、

今日届かなきゃいけない商品が未着だとしても、

こんな夕方に「届かないんですが」と電話してくるお客さんはいない。


売上に関わる入力は朝の10時までだし、

今日付けでやらなきゃいけない仕事が17時に残っていても、

今さら何もできない。

つまり、今日中にやらなきゃいけない仕事はないから、

残業をやらずに翌日に回せばすむのだ。


また、

坪内先輩が変なことを言っている。

大卒新卒で正社員として採用されているから、

4月から数えて9ヶ月は経つ。

工場研修までさせてもらっているが、

とにかく典型的な頭の弱い人だ。


私が働き始めて1週間は平和で、

こんな穏やかで働きやすい会社があるんだと関心した。

2週目ぐらいに工場研修を終えた坪内先輩が本社に戻り、

社内の空気が一変した。


毎日営業の誰かが、

坪内先輩に対して怒ったり説教をしているからだ。

可哀想だなぁと思ったのと、

営業の人たちってあんなに怒ったりするんだとびっくりした。


坪内先輩が来て2週間過ぎて、

本当に頭の弱い人だと分かった。

見積りの練習をしている最中、

「|原紙巾≪げんしきん≫はいくつですか?」と坪内先輩が次長に質問をしていた。


次長が間髪いれず、

「げんしきん??まさか、お前、巾着の巾って読んだの?!」

本人は何が悪いのか理解していないようだ。

今まで見積り練習をして、

さらには工場研修もして、

何度も「|巾≪はば≫」と言う単語を目にしたり、

聞いてきているのに、

そんな簡単な漢字が読めないのだ。


その後も1ヶ月見ていたが「|伸氏≪しんし≫な会社」「|原始≪げんし≫」など、

とにかく簡単な漢字の間違いが多かった。


原紙にいたっては、毎回原始と書くほど理解していない。


他には、うちは宅急便の荷物を入れる箱と郵便物を入れる箱がある。

場所は間違えないように離れた場所に置いてある。

夕方4時近くに宅急便の人が荷物を取りに来るのだが、宅急便の箱に料金後納と書いてある会社の封筒に、

住所と宛名が直接ボールペンで書いてあるものが一つ混じっていて、

宅急便屋さんが「間違って入ってますよ。」と親切に渡してくれた。

字を見たら坪内先輩の字なのと、

そう言えば今朝課長になんか送るように頼まれていたなぁと思い出して、

坪内先輩に「これ、間違って入ってましたよ。」と渡した。


受け取った瞬間、「あっ!これ宅急便で出すやつだ!」と外に走っていった。

暫くして戻ってくると課長が「どうしたんだ?」と聞く。

「|封筒≪このタイプ≫でも、送り状がいるなんて知りませんでした。」と答えた。


宅急便で荷物を送るのに、送り状がいるなんて大学では教えてくれなかっただろうが、会社でも普通は教えない。

初めてならまだしも、この8ヶ月で何回か宅急便で荷物を送っているし、毎日受け取っているのに、何を今さら初めて知ったような顔をしているんだ。


本当に知らなかったとしたら、宅急便を送る時は封筒なら送り状を貼らなくていいですか?ぐらい、確認すればいいのに。


何回もやっている事を、あたかも今初めて聞いているような顔をするから、不思議な人だ。

また、他の会社の送り状も、住所を書いた直後にそのまま会社名の西東を詰めて書き、次の行にゆったりと「工業株式会社」だけを書いていた。相手に失礼だし、大体のマナー本に封筒などの宛名の書き方が載っているのに、そういう一般常識以前の事が身に付いていない。

親の育て方が悪いんだろうなぁと強い印象を受ける。

自立できるように、社会に出て恥をかかないようにと社会のルールを教えていない。

過保護に育てられた部分が垣間見える。


そんなやりとりさえも、横目だから笑って見ていたが、

実際に自分の仕事に関わってきたら、

一気に嫌いな人間になった。

仕事を10個渡すと、11個間違える。

(余計なことを勝手にするのだ。)


そして、2回も3回も教えた事を、

平気で初めて聞きます!と言う顔で聞いてくる。

そこでわざとらしく、小さなノートにメモをとる。

「こうやるんですね!」

メモをとると、ちゃんと勉強しているように見えるが、それは逆に言えば、メモした内容を同じ相手に2度目聞けなくなる。

なのに聞いてくる。

メモをした時間が無駄だし、私の話なんて聞いちゃいないんだろうなと失礼な人にしか思えなかった。


ファイルは番号順に閉まって下さいと言っても、番号をぐちゃぐちゃにしまう。

仕掛かりのファックスはこのファイル、出荷指示はこちらと言っても、毎回あちこちにしまう始末。


お客さんに送るファックスに「御中」も着けずに会社名だけを書くのも、12月にも直らず。

ファックスをお客さんに送らなきゃいけないのに、

外注先の規格袋を送った会社にファックスをしていた事もあった。

見つけた瞬間、(うわっ。なんだこれ、間違えてる)と思い、

次長に「この送り状、間違えているんですが」と話した。

次長が坪内先輩に説明しても、「ファックスが届きましたよ。とこの会社に言っているんです。」とひたすら反論して、自分の間違いに気づかない。


「送り状が必要なのはお客さんだろ。送り状の原本を持っているところに、送り状が来ましたと返信ファックスをしても意味がないだろ。」

と、こんこんと説明しているが、腑に落ちない顔をしている。


私も「これ、ここに入っていましたが、こちらに出荷指示をしまうファイルがありますよ。」と、やんわり伝えるが、「ふーっ。ふーっ。」と鼻息を荒くし、いきなり怒っているぞ!という表情で「わかりましたぁ。」と毎回言ってくるので、気持ち悪くて恐くなっていった。


先輩だから注意しにくい上に、

言っても理解してもらえずに、

どうせまた同じミスをして、

同じ質問をしてくるのが目に見えてるから、

自分でやった方が良いのだ。

先輩に教えて、

時間がかかって他の仕事に手が回らず毎日上司から帰り際に注意を受ける。

理不尽極まりない。


頭の弱い人が嫌いと言う訳ではなく、

どこの会社にも明るいバカはいたし、

そういう人は大概社内のムードメーカーで、

取引先からも愛されるキャラだったので、

私もそういうおバカキャラの先輩は好きだった。


できない子ほどカワイイのだ。


ただ坪内先輩は例外である。


間違えた時にすこぶる嫌な顔で反論したり、そうかと思えばおどおどとか細い声で話して暗いのだ。

会社にダメージを与えるようなヤバいミスをした時ほど、へらへら笑って誤魔化すため、

「笑い事じゃない!」と注意をされる。



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