トイレ。
愚痴ではないです。
作り話の小説です。
このトイレを使い始めて2ヶ月になる。
大体人が来ない時間帯も掴めてきた。
お湯で落とせるマスカラが、目尻についていた。
涙も温かいせいか、すぐにマスカラがとれてしまう。
5分だけ、5分だけ。
落ちたメークを直しながら、お腹が鳴る。
もう3時か。
私宛に電話が鳴りませんように。
なんて祈りながら、会社に戻る。
「お昼行ってきます。」
係長に、今から私はいないから、どうにか対応してくださいねと遠まわしに伝える。
係長も、総務の仕事をそのままやりながら、いきなり営業サポートの仕事を押し付けられて、にっちもさっちもいかないのは分かってる。
「月曜に工場に引取りに行くから、言っといて。」
営業課長は簡単に言ったけれど、引取りを伝えるのはそんなに楽じゃない。
総務管理に仕上り時間の確認の電話をして、引取りについての出荷指示をパソコンに入力する。
それを大阪支店の業務の係長に電話で伝えて、月曜引取りが増えたと回覧板に情報を書き込む。
そこから、工場の出荷担当にFAXが流れる。
工場の出荷担当から電話がかかってきた。まさか、何か間違いでもあるのか?と、ヒヤリと背筋が凍る。
「月曜に営業課長が、この袋を引取りに来るって、FAXが来たんだけど!現場の人に聞いたら、そんなの知らないって!ちゃんと聞いたの?!それとも、パレットの上に置かれた荷物を勝手に持ってくつもり??普通、現場の人に確認するでしょ!直接営業から、電話来るもんだけど!総務も大阪支店の営業サポートも、昼休憩で電話に出なかったから、発信者のあなたに電話しました!」
総務管理と電話で営業引取りだと話したのに、現場の人は誰も知らないの??なんで?
総務管理の係長と話しても、その内容は誰にも伝わらないことが判明した。
大阪支店の営業サポートや、現場の人向けに、営業引取りになりますよと、別の回覧板を作って回さなきゃいけないと言うことが分かった。
ここは市役所か。
たらい回しにされて、これをやるなら、あっちで手続きしなきゃだめですと、簡単な内容も1ヶ所では完結しない。
いきなり怒られても、自分が何をしていなかったのか、何を今からしなきゃいけないのか、思い浮かばない。
ただ、その強い口調と気迫で、相手が怒っていると知るのには十分だった。
「工場から、直送も簡単に言うけど、他にどこの荷物も出荷するか、分かってるの!一日に3パレット分しか出荷出来ないんだよ?!これを載せたら、他の商品が残荷になるかもしれないんだよ?それでもいいの?!営業サポートは、自分たちのことしか考えないで、他のお客さんのことを考えてないから、だめなんだよ!」
「申し訳ないです。誰に何を確認したらいいですか?何をしなきゃ、いけないですか?教えてください。」
とにかく謝り、何をしないとまずいのか聞き出した。
受話器をとりながらうつむき、電話を終えた途端、トイレに小走りで逃げ込んだ。
5分後に会社に戻り、
財布を取り出して出ていった。
毎日電話でたくさん謝って、愚痴を話せる同僚もいなくて、色々教えてくれる上司もいなくて、ようやく仕事に区切りを付けたら、1階のパスタ屋さんのランチタイムはとうに終わっていた。
『2時からはカフェタイムです』
結局、拳ほどの小さなクロワッサン一つと、マッシュルームのスープ一杯を口に掻き込んで簡単に済ませた。
このまま事務所に戻りたくないな。
ビルが見渡せるテラスのような場所で立ち止まる。胸が熱い。
ノンシュガーのエナジードリンクを一本飲んだ。
このオフィス街で、
私は働かなきゃ。
頭の熱さをクールダウンして、
またビルの中に戻った。