尻ぬぐい。
派遣は辛いな。
「12時の回で来たデータで、送り先が北海道なんですが、今日出荷の明日着になっているものがあるんですが。商品コードは・・・」
物流会社の担当さんから電話がきた。
毎時00分に物流センターに入力したデータがとぶ。
実際に確認できるのは、
20分くらい経過したあと。
何か間違えていれば、
このくらいの時間に電話がくる。
送り先が北海道。
北海道に納品先があるお客さんが頭に浮かぶ。
今週から総務の係長と、
先輩と3人で出荷指示の入力をしている。
どちらかが間違えたな、とため息がでる。
「北海道だから、翌日なんて着きませんよね。分かりました。確認してすぐ折り返します。」
当日出荷のタイムリミットは13時。
自分が今やっている作業の手を止めて、
すぐに確認して正しい情報を伝えないといけない。
隣の席の係長に声をかける。
「今日出荷指示を入れたもので、北海道に送るものありませんか?今日出荷で明日着になっていると連絡が来たんですが・・・」
「あぁ。北海道のあったよ。」
1枚のプリントを差し出す。
そこに北海道工場への出荷指示を印刷した紙に、
坪内先輩のハンコの付箋が貼ってあった。
「次長より。第2工場へ全量送る。坪内。」
第2工場??
北海道工場への送り先に、
第1工場や第2工場なんて登録はない。
「第2工場?これって、本当に北海道に送るように言われたんですか?第2工場なんて聞いたことないんですが。」
「いや、分かりません。第2工場に送るように次長から頼まれただけなので。」と、坪内先輩が断言する。
第2工場と言われたら、どの場所なのか普通確認するだろう。
派遣として働いて2ヶ月。
最初の配属は希望していない営業サポートと呼ばれる、内勤事務。
派遣ともなると、「それは○○係長がやりました。」「××先輩が指示したやつなんですが。」なんて、気軽に言えない。
「人のせいにするのか」と陰口叩かれそうだし、無責任な人だと思われたくない。
怒っているように、周りからみられないように、慎重に言葉を選びながら、先輩と係長に聞く。
「北海道だと、今日出して明日には着かないんですが、本当に全量を北海道に送ってくれって言ってたんですか?」
「あっあっ。次長から頼まれただけなので、分からないです。」
坪内先輩が吃り出す。
時間の無駄だと思い、
左手はすでに受話器をとって次長にかけていた。
「剣先袋を今日出しで、北海道工場に頼まれましたか?」
「違うよ。うちの大口工場に検品で全部戻してくれって頼んだんだよー。」
「分かりました。ありがとうございます。」
先輩がしっかり納品先と何故送るかを確認してない。
さらに係長も第2工場と書いてある付箋を見ずに、デフォルトで登録してある『北海道工場』にそのまま翌日着で入力している。
北海道なんて、
常識的に考えたら翌日に着くわけないから、入力時に気づくはず。
2人のミスの連発のせいじゃん。
そんなことを言っても解決するわけもなく、相手が2人とも自分より上の立場だから、間違えてるよ!と注意もできない。
苛立ちと仕事が進まなくて半泣きの気持ちをこらえて、
受話器を再びとる。
「申し訳ありません。北海道送りのデータは間違いです。弊社の第2工場に戻していただきたいのですが、今から切り替えられますでしょうか・・・」
一日に何回、私が謝らなきゃいけないんだ。
全部、私が悪いのか。
言われた通り引き受けた内勤の仕事は、誰も長続きしないと上司から聞いていた仕事である。
私に任せてください!と、3週間前に宣言した自分が恥ずかしくなる。
今週月曜から、毎日他の人のミスの電話がとまらない。焦って自分もしたことのないようなミスをする。
自分のカバーをするだけでも精一杯なのに、人の分も降ってかかる。
ミスが更なるミスを呼ぶ。
これも私の仕事だ。
これは私の仕事だ。
これが私の仕事だ。
ひたすら謝って、
納品先を変えてもらった。
社内では全てうまくいっているように、ふるまうしかない。何か人に言われないように、泣いてるところも、怒っているところも見られてはいけない。
目に熱いものを感じながら、「納品先、第2工場に変えました。」と、にこっと先輩に笑って、またパソコンに向かった。