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罪無キ命二救イヲ

「レイズのお腹には子供がいる。これはいいな?」

「いいって言うか、スコールさんとの、ですよね」

「違う」

「…………?」

「フェンリルベースで脱出するよりも少し前にレイズがヘマしてインキュバスに捕まってな……魔界にお持ち帰りされてレイプされてだ」

「え……っていうことは」

「魔族との子供。今までは何重にも魔法をかけて成長を遅らせて不調を肩代わりしてたが、さすがにどうにかしないと不味いんで……」


 ちらっとベインさんを見て、今度はベインさんが。


「そこで性魔術だ。基本的には名前の通りそういう系の魔法だと思っていい」

「いきなり魔法って言われても……」


 あぁ、でもありえるんだよね。

 キリヤさんは実際に魔法を使ったしベインさんも。

 そもそも私も魔法とやらで成長が止まってしまっている。


「あまり表には出ないが魔法はある。とかく魔術と呼ばれるのは、原始的であり正しい方法を知れば大抵のやつは使える」

「性魔術の説明、いるか?」

「い、いえ……つまりあれですよね、そ、そういうことするあれなんですよね」

「ちょっと簡単に知っておいた方がいいな。ベイン頼む」

「お前の方が詳しいだろうが」

「かみ砕いて説明するのは元魔王の方が得意だろ?」

「さらっと俺の素性を出すんじゃねえよ……。えっとだな、性魔術も何種類かあるが、主に使われているのはやっぱり強姦だとかで使われるのが多い。まあなにも性交渉までしなくても無理やり相手に触るだけでもいい、後はそこから互いの魔力を使った精神戦。屈伏してしまえば相手にすべてを奪われる、今回はそこの応用で、抵抗の無い腹の中の命を潰してしまおうと、そういうことだ」

「……だったら中絶でいいんじゃないですか」


 わざわざそんなことする必要があるの?


「最初はそれを考えたが……悪魔には触れた時点で終わり、そんなことを引き受けてくれる医者はいないし身内にできるやつもいない。そんでスコールが……」

「……言えばいいのか? レイズの腹を切り開くというのもあったが本人が拒否したもんでな」

「それであんなことしたんですか!?」

「したとも。レイズもレイズでいざ始めてみればまだ生まれてもいない命に謝り続けるし……結局失敗するし」

「失敗?」

「確かに子供は抵抗できなかった。でもな、レイズが最後の最後で、無意識に拒絶してたんだ。どんなに嫌なやつの子供でも、母親としては自分から生まれる命だから守りたいとでも思ったんだか……」


 はぁっとため息一つ。


「あれで全部失敗した、レイズの無意識の拒絶に負けた。どんなにレイズをイかせて狂わせても、普通ならそれで完全に無抵抗になるのに全然ダメだった。……ガードは固いし、完全に着いてしまったからもう切り離せない。それにレイズも怖がってはいるが、もう産む気でいる」

「ただし、それがもし害をなす魔性のものだとすれば俺がその場で殺すという条件付きで、だけどな」

「あの、レイズさんなら今のうちにお腹ごと吹き飛ばすとか」

「えげつないこと言うようになったなぁ。やったぞそれ? この前レイズの腹を撃ち抜いたの見てただろ、失敗だよ。子宮周辺に無意識の防護結界だとよ、あんなもん貫通できる術はねえ」


 言われてみれば確かに。あの夜、私が部屋を訪ねて取っ組み合いの大ゲンカで……。

 うん、確かにあの日レイズさんのお腹を撃ってた。


「スコールさん」

「なんだ」

「レイズさんのこと、どうするんですか」

「……隊長たちとの契約上、産んだ後はそのまま放り出すことになっているし、レイズ絡みのトラブルがあれば即問答無用で追放。サポートはしようと思うが」

「そうじゃなくてこれからです。正直スコールさんとエッチしたレイズさんは憎いですけど、妊婦さんならいろいろと必要になるじゃないですか」

「殴ろうとしたお前が言うか」

「あ、あれは……そのぉ……」


 つい短絡的な思考と会えなかったイライラとでついつい……。

 言えない。

 正直に言ったら嫌われる。

 でも言わなくても嫌われる。


「まあいい。こっちもレイズ絡みの騒ぎは起こしたくない」

「……はい」

「とりあえずな、嫉妬だけはするな」

「……はい?」


 隣からベインさんが口をはさむ。


「スコールはな、レイズの憧れなんだよ。レイズが望んだ理想だ……何よりも、誰よりも強くて本当に危ないときはいつだって守ってくれる頼りになる、そんな理想の存在だ」

「一方的な恋? ですか」

「恋ではないな。羨望だよ、とても強い嫉妬みたいなもんさ。ある意味でレイズはスコールを独占している、他人にとられるの酷く怖がってるのさ。恋ではないが、一方的な思いというところではあってるな、本人は全然気づいてないけど」

「えぇっと……どういう」

「下手すりゃレイズが無意識にユキを排除しようとするかもしれんということだ」

「……ユキ、怒りたくなるのは分かる。でも、それもお前の一方的な感情の産物だと忘れるなよ」


 スコールさんがいきなり姿勢を変えて、窓へと走った。


「スコールさん!?」

「おっとこりゃ不味い、キリヤ! ……って先に逃げやがったか!」

「こらパソコン返せ!」

「やーだよぅ」

「あたしらの端末の恨み!」


 ドタドタと走る音が聞こえ、ドアがぶち抜かれた。


「私のオモチャに変なことしとるのは誰かーーー☆!」


 ……あ、ナギサさん。


「やっべぇ!!」

「トーリテメェ」

「パソコン取ったのはあの女ど――」


 ゴズッっと嫌な音がして、それがナギサさんが資材で殴った音だと気付いた時には強風が吹きこんでスコールさんが逃げようとしているところで。


「逃がすかぁぁぁぁ--!」

「今度は裸で甲板に干してやろうか」


 そのまま近接格闘戦に入って……どっちともプロ並みの速さなのに全然当たらない。

 ……いや、違う。

 あれは本気の戦闘モードだ。


「おぉ……」

「ベインさん……」

「とりあえずな、これからもレイズはスコールとやるだろうが恨むな。なんだったらお前も混ざって一緒にやれ」

「な、ななんてこと言うんですか!」

「なにも妻一人夫一人なんて決まりはないだろう?」

「あります! ていうか浮気みたいなことは論外です!」


 目の前にナギサさんが割り込んできて、スコールさんの蹴りを流してベインさんにあてる。


「あ、悪い」


 たったの一蹴りでベインさんが完全にのびてしまった。


「ユキちゃーん変なことされなかった?」

「あ、いえ、今のところはなにも……」


 そのまま二人の戦闘は冷めることなく、数分後にやってきた隊長たちによって鎮圧されるまで続いたのだった……。


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