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崩壊ヘノ兆シハスグ其処二

 あれからしばらく。

 ふらふらと歩いているとトイレの前で膝を抱えて座り込んでいるレイズさんを見つけてしまった。出会ってしまった。遭遇してしまった。


「…………あの」


 どう話しかけていいのか。

 そもそも話もしたくない。

 でも避けてもいられない。

 するとレイズさんは無言で、涙目で、ただただそれを、一本の棒のようなもの、検査薬のそれを見せつけてきた。

 それにははっきりと分かる線が出ていて……。


「で、できちゃっ……」


 気付けば拳を振り下ろそうとしていた腕を後ろから掴まれていた。


「やめろユキ」

「っ……スコールさん、どうしてレイズさんと……」

「アトリ、フラン。レイズと一緒に部屋に帰ってろ」

「なにぃ? イイことでもすんのー?」

「黙れ、早く行け」

「はいはい」


 アトリさんたちが向こうに行くと、スコールさんは私の手を強く掴んで引っ張った。


「…………。」

「大人しくついてこい」

「どこにですか」

「いいからこい」

「嫌です、放してください」


 舌打ちが聞こえた、その瞬間にスコールさんの手が私の顔を覆っていて。


「嫌なら無理やりだ」


 白い光が見えたかと思えば力が抜けて、はっと気付けば倉庫区画にいた。

 まわりにはキリヤさん、ソウマさん、ベインさん、トーリさん。コンテナ向こう側からは血の臭いが漂ってくる。


「起きたか……ちょっと待ってろ、向こうで吐いてる」


 あちこちにガーゼや包帯を巻いたベインさんが言う。


「私になにをする気ですか」


 この倉庫区画は滅多と人が来ない、そして周りには男の人ばかりで、私は縛られてベッドの上にいる。


「さあ? ついさっきスコールがお前を連れてきて縛って、そのまま吐きに行ったから知らん」

「……変なことしたら隊長たちに言いつけますよ」

「俺たちはそういうことはしない。スコールは知らんがな」


 と、そこでちょうど口元の血を拭いながらスコールさんが来た。


「さて、と」


 座ろうとしてそのままバタリと倒れた。


「大丈夫か?」

「…………レイズに吸われ過ぎた」

「空になるまで搾られたか」

「……九割九分ほど」


 座りなおしたスコールさんから血の臭いが猛烈に流れて来る。


「あのな、ユキ」

「早く解いてください。聞きたくありません」

「何に対してそんなに怒る?」

「スコールさんが……スコールさんがレイズさんとエッチしたことにです」

「ふむ……」

「俺を睨むな。止めはしたぞ、止めは……強行突破されたが」

「やられたのか」

「いや、階段から落ちて自滅した」


 呆れた顔のまま向き直ってくる。


「言い訳は聞きたくありません」

「ああそう。こっちも言い訳しかするつもりはない」


 すっと寄ってきて、手早く拘束を解くと離れる。

 普通そこは聞きたくないと言われても言うところじゃないの。


「聞きたくないならレイズに手を出すな。こっちからもこれ以上言うことはない」

「……なんですか、それ」

「ユキが聞きたくないなら言わないし、お互い理解し合う必要がないと言われているのだから、はいお終い。ただそれだけだ」

「ふざけないでくださいよ」

「ふざけてないし、こちらからすればお前の気持ちは分からない。どういうことを知りたいのか分からないし、言えないこともあるから説明しようにもまずは何を知りたいのか、そこが分からないと答えようがない」

「じゃあ……なんでこんなところに連れてきて縛ったんですか。他の人に聞かれないところで全部言うつもりだったからじゃないんですか」

「最初はな。聞きたくないなら言う必要もない。悪かったな、連れてきて」


 そのまま立ち上がって、コンテナも向こうに行こうとしたところでまた倒れた。

 今度は動かない。数秒しても動きがない。


「スコール……さん?」


 ベインさんが真っ先に近づいて慌てた顔になる。


「キリヤ!」

「不味い状況?」

「お前の魔力無属性だろ、半分ドレインしろ」

「半分って、今度は僕が倒れるよ……もう」


 陽炎のようなのが部屋中に溢れはじめて、それをベインさんが引き寄せてスコールさんに流し込む。


「おぉいスコール、もどってこい。死ぬには早いぞ」

「バカなこと言わないでよ。ミナがそう簡単に死ぬわけないじゃないか」


 キリヤさんがどこからか取り出した杖でつんつんと突くと、ぴくっと反応を示して起き上がった。

 顔色が酷く悪い。


「なあスコール、一つだけ答えろ」

「なんだ」

「何回やった」

「あの日の夜中までで十八回」

「……死ぬぞ、それ」

「……死んでないから良しとしようじゃないか」

「俺でも性魔術系の術は一日一回で倒れるぞ」

「はっ……ものの性質を書き換えるんだ、それ相応の処理能力がないとできやしない」


 げふっ咳をしてまた血が出た。


「あの、スコールさん」

「聞きたくないんだろう、鍵はかけてないから出ていけ」

「……教えてください」

「何を」

「ベインさんが言っていた、一人殺すっていうのを」

「……そこに喰いついてくるか」


 嫌な顔に、それでも若干の笑みを含んだ顔になる。


「トーリ」


 カチッとパソコンのキーを叩く音がして、倉庫のドアがロックされた。


「はーいそこの君たち隠れてないで出ておいでー」


 キリヤさんが杖を振ると、見えない手に引っ張られるようにホノカさんとミコトさんが出てきた。


「なんでバレちゃうかな」

「やっぱりトレーサー?」


 ぶつぶつ言う二人にスコールさんが近づいていくと、いきなり二人のポケットに手を入れて携帯端末を奪う。


「あ、ちょっと」

「それだけは」


 ぽいっとトーリさんに投げる。


「全部消しとけ」

「了解っと……ホノカの方、コピーしてる」

「え、えへへぇ……隠し場所は喋らないよ」

「そうか」


 手を取るとそのままコンテナの積み上がっている奥の方へと引き摺って行って、しばらくすると叫び声と一緒にショーツ一枚だけのあられもない姿で泣きながら走ってきた。


「そんなことまでするなんて信じらんない!」

「素直に出せば脱がしはしなかったんだが」

「ぬぅぅぅっ! とにかく服返して!」


 スコールさんの片手にはホノカさんのシャツと短パンとキャミ……。

 投げ渡されるとそれをもって物陰に入ってごそごそと。


「さて、と。一人殺すことについてだが」


 ホノカさんにあんなことしたのに平然と話し始めるのはどうかと思う。


「あ、ミコトのほうもコピーした形跡がある」

「ゲッ」


 ミコトさんが逃げようとしたが遅かった。


「隠し場所は」

「い、言うと思う?」

「だろうな」


 いきなりミコトさんの胸を触ると、次の瞬間首元から手を入れてまさぐり始めた。


「ちょとやめて、くすぐった、そんなとこ触んないでぁぁぁぁっ!」


 抜かれた手にはマイクロSD。スコールさんは容赦なく踏み砕いた。


「残りは」

「んー……コピーしたのはどっちともそれだけっぽいねぇ。終わり、復元できないようにしといた」


 置かれた端末を二人ともすぐに取って確認して。


「ストレージの領域ごと壊すとかあり!?」

「うっわぁ……容量が減ってる」


 ミコトさんとホノカさんに文句を言われるトーリさんを置いて、スコールさんは話し始めた。

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