遺サレタ時間
鳥のさえずりも虫の声もない静寂の森。
吹く風は灰色を運んで、辺り一面に雪のように降り積む。
「バカかあいつは」
そういうスコールさんは気絶したフラン君を介抱している。
「動けなくなるまで放出するのはねぇ……」
呆れながらアトリさんが目を向ける方向。街の中心部には白く変質した空間ができあがって、その中でレイズさんが倒れている。
優しい白っていうより、悪魔とかの黒と同じで近づきたくない白だ。
あの爆発から数十分ほどだけど、通信は全部ダメ。生き物の気配もなくなって吹いてくる風は遠くから灰を運んでくる。立っているだけでもピリピリした空気が分かる。
綺麗すぎて逆に気持ち悪い、そんな感じにこの辺り一帯がなっている。
「あーそういやユキだっけ? あんたらってこの状況下でコロニー作ってたんだよね?」
「そうですけど……スコールさんの方が詳しいですよ」
「だってさ、レ――」
一瞬、瞬きした瞬間にアトリさんの首元にナイフがあった。
「わ、分かってる。言わない、名前は言わないから。スコール、コールサインスコールでいいよね? ね? ねぇ……?」
「あのぉ……スコールさんの名前って……」
知りたい。他の人たちもコールサイン使っている人が居るけど、本名そのままの人も居るし。
「教える気はない」
ばっさりそう言い捨てる。この人は秘密が多いもんなぁ。
思えばコロニー時代もずっと部屋を探して結局分からずじまいで、フェンリルベースに移ってからも部屋はころころ変わって分からないしどこの所属かって言うのも正確には分からない。気付けば変わっているから。
……結局、お散歩どころか初めての経験だらけで疲れた。それにレイズさんの自爆? で周りの悪魔が軒並み消し飛んだから探索部隊が編成されて呑気に出歩ける様子でもなくなってしまった。
ベースのゲートが閉じられる前に帰還すれば、今日の変な一日は終わる。
いつもの夜と違うのはスコールさんが妙に体調を崩して、帰り着くなり姿を消してしまったことくらい。
血を吐くほどの体調不良……いや、それはもう病気だろう。
悪魔に触れられただけで人は"終わる"んだから、正確に言えば魔素による汚染らしい。スコールさんはずっと一人で、それも最前線でソレに触れ続けてきて、唯一の例外として今まで続いてきた。
もしかしたら……その限界が……。