地ヲ跋扈スルハ闇ノモノ
私がソレを視界に捉えた瞬間、自然と銃口を向けて撃っていた。
撃ち出されたプラスチックの弾丸がソレに触れると、ソレは途端に弾け飛んで灰になる。
ソレは……人の形をした悪魔。悪魔と呼ばれる存在に触れられた人は悪魔に、そしてまた人へ触れどんどん広がって行った。いまや人はその数を減らして地上のほとんどは悪魔の跋扈する危険地帯だ。
もう、あの頃のような普通の暮らしなんてありえない。
これが日常になっているから"普通の日常"に戻ったらそっちに違和感を覚えてしまうだろう。
そもそも、そんな普通の日常はもうどこにも存在していない。
世界は悪魔と州軍及びその保護下と私たちのようなを集団を作った生き残りと。
もうあの頃の日常は帰ってこない。いつものように授業を受けていた学校の生活も、あの頃の友達も、家族も。全部、みんな、なにもかも壊れてしまったのだから。
「街に入ったところで何もないから山に来たが……山菜は望み薄か」
「あの……」
街の方を見ればついさっきスコールさんに囮として街に取り残されたレイズさんが見える。
「助けなくて」
「いいんだよ。ほっとけ、どうせ危なくなったら自爆するから」
「じ、自爆?」
「こういうやつだ」
ガサゴソと音がしたかと思えば、茂みから黒い靄に包まれた人が飛び出してくる。私が狙いを付けるよりも速く、白い光がスコールさんの手の中に集まって、そして一気に爆ぜた。
光に呑まれた悪魔が赤熱して消えていく。灰が残らない。
「なんですかそれ!? そういうの使えるんならなんで今まで使わなかったんですか!」
「使っていたさ。ナイフに纏わせたり直撃受けたときのピンポイントの障壁とか。見えなかっただけだ」
「そうなんですか……」
ようやく原因不明の強さが分かった気がする。
だからこの人はナイフだけっていう軽装備で悪魔の群れに飛び込んでいけたんだ。
だから変異体……本物の悪魔を倒せたんだ。
だから……、守る力があるからこそ、守れずに失うことを怖がるんだ。
「まあ、悪魔にぶつければ雑魚なら一撃で消滅だし」
「ほぉ」
「人にぶつければ目眩とか感覚の麻痺、本気でぶつけたら殺せる」
「えぇ……」
な、なるほどぉ……。州軍の兵隊さんたちを一人で倒しちゃったのはそういうことなんだ。
「それにレイズの場合は」
指差された先、双眼鏡を渡されて見てみればそこには大きな交差点で完全に囲まれているレイズさんがおろおろしていた。
「焦ると周りが見えなくなるから危ない」
くいっと双眼鏡を動かされて、その先には全力ダッシュで逃げていくキリヤさんとソウマさん。ちょっと離れた場所じゃビルの上を飛び移りながら移動するベインさんがいる。
「とりあえず過去最大の被害は半径五十キロくらいが消し飛んで百五十までは余波で壊滅」
「……ひゃい?」
「ま、単純に今の状態でも半径一キロくらいは爆破圏内」
……もろに範囲内です。
「逃げ――」
ようとしたらいきなり襟を掴まれて倒されて、白い壁が私たちを覆った。
「間に合わねえっての」
瞬時に光の奔流がすべてを押し流した。台風でも来た時のように木が激しく揺れてバキバキと音が響く。白い流れの中に、あちこちで赤い光が輝いていた。悪魔たちがどんどん消滅していく。