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久方ブリノ大地二立ツ

 およそ一月ぶりにフェンリルベースが地上に降りた。

 この日はずっとフェンリルベースに籠もりきりだと体に悪いとか、物資補給だとか、散歩したいとかでそれぞれが地上へと出て行った。

 私も外に散歩に行こうかなーとか思っていると、いつものメンバーが揃いも揃って隊長さんに呼ばれて特別編成で"浄化部隊"として出撃してしまった。地上は変わらず悪魔の跋扈する危険地帯。フェンリルベースの接岸した付近には即席の結界バリケードが展開されているけど、それでも危ないことに変わりは無い。

 そんなに広くないけど結界の中を歩いてみようかと、ベースから降りようとしていると、


「ねえもしかして一人? よかったら一緒に外行かない?」


 女の人に声を掛けられた。


「あ、はい……一人ですけど」

「うにゅ? あたしはアトリ。独立部隊の所属だよ」

「……え? フェンリルの独立部隊は」

「あーっとねースコール配下の部隊だね。フェンリル傘下でもないし、外部組織みたいなもん。キリヤとか同じでね」

「は、はぁ……」

「で、どう、一緒来る? 他にも何人か居るけどどう」


 ぐいぐい誘ってくるお姉さんはもう逃がさないという様子で……断りづらいというか、もう後ろが壁しかない。


「じゃあ一緒に」

「はい決まりー! 変なやつばっかだけど怖がんなくていいからね」


 と、いきなり手を取られて引っ張られて降りていく。下には今から外に行こうとする人、結界の中でのんびりする人、軽い運動をしている人で賑わっている。やっぱりずっと艦内よりは外がいいんだ。

 降りて行って岸壁近くの一つの集団に近づいていくと、知っている顔と知らない顔があった。知らない方は部外者だ。フェンリルの人とは雰囲気が違う。


「ちょっと待った。向こうで吐いてるから」

「まぁたスコールが?」

「あぁ……レイズが……たぶんアレだな、もう確定だな」

「うん、そっか。じゃあ今回は長めにこの世界にいるんだね」


 ちょっと怖い感じのお兄さんの向こう側を見れば、海に向かって赤いものを吐いているスコールさんが居た。フェンリル最強と言われているけど、最近絶不調でいつもの喧嘩騒ぎも静かになっている。


「大丈夫なんですか」


 聞いてみればちょっと怖い感じのお兄さん、ベインさんが答えてくれた。


「とりあえずあと一月はあのままだな。食べれば吐き気、腹が空けば吐き気、臭いにも敏感になって部屋から出られない、倦怠感にエトセトラエトセトラな感じだ」

「な、なにがあったんです? だってスコールさんいつもは」

「いつものこと、定期的に体調崩すからしゃーないの」


 パンパンと、これでおしまいと手が叩かれる。


「くそっ」


 ペッと血を飛ばしながらこっちに来たスコールさんの顔は、なんというか……病人の顔になっていた。いつもの無表情の怖さがない。

 無線機を取り出せば乱暴に言う。


「AP、コールサイン・スコール、これよりフェンリル所属ユキと部外者数名を連れ行動を開始する」

『了解しました……あの』

「仕事は取るぞ?」

『申請書類の記入欄全部書いてくれるのは嬉しいんですけど、いつも書かずに適当にあげているので全部書かないでください! チェックするのが大変なんです!』

「だったら記入欄作るなよ……」

『……決まりですので』

「で、許可は」

『いつも通りです。単独行動も交戦も全部許可が出てますよ』

「オーケー、定時連絡は入れないし何かあっても基本無視するからそのつもりで」

『ちょっとま――』


 ぷつんとスイッチをオフにして。


「よし行こうか。ベインと配下ソウマ&キリヤ。それからアトリとフランとユキと……あとバカ二人はどこに消えた?」


 きょろきょろとあたりを見てもそれらしい二人はいない。


「あ、そういえばさっきサクラちゃんとレイズ、先行くとか言ってたけど」

「…………。」


 スコールさんが何かを掴む動きをして、ぐっと引っ張ると薄らと鎖のような靄が見えた。


「あっちだな。行くぞ」


 その言葉にベインさんと部下? の二人であるキリヤさんとソウマさんが結界を飛び越えていく。……さすが魔法使い。私たちはきちんと結界のゲートから出て行く。というかそこからしか出て行くことが出来ない。

 そもそもアレは飛び越えるものじゃない。


「あ、そういえばユキ」

「はい?」

「傷はもういいのか」

「スコールさんに付けられたのは一生残る傷です」

「……悪い」


 あの日のことは今でも思い出せる。

 スコールさんに後ろからやられた……すごく痛かったあの日のこと。赤い血がつーっとこぼれ落ちて、痛すぎて意識が落ちたアレ。

 もうお嫁に行けない、絶対に責任は取って貰いたい。


「でも、あれでよかったんです」

「なぜ」

「内緒です!」


 だって、あれのおかげで本心が聞けたから。

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