表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

偽リノ人類ト本物ノ人間ト

 あたりで撃ち合う人たちを避けて、拠点にしている家までたどり着けば血の惨状だった。

 玄関のところでアトリさんが事切れていて、中に入ればクルスっていう人と同じような格好の人が死んでいる。

 リリィちゃんの泣き声だけが響いて、足音を殺して一部屋ずつ見て回る。

 一階は弾痕と、手榴弾が投げ込まれたのか鉄片が壁のいたるところに突き刺さっていた。

 二階に上がってみると天井に大きな穴が……そして先に落ちていった悪魔さんが見えた。

 そっと近くに行くと、体のほとんどが灰になっているレイズさんが。


「あともう少しはやければ……」

「死んじゃったん、ですか」

「肉体を失った魂は、新たな生命の礎となるために分解されます……。しかしレイズ様は呪いにより決して滅びることはありません。少しすれば生き返りますよ」


 その言葉の証拠なのか、灰が蠢いて少しずつ集まり始めている。

 リリィちゃんを抱きかかえてあやそうとするけれど、全然泣き止む気配がない。


「ユキ様」

「は、はい」

「世界には三つの人類がいます。現実の世界に生まれ本当を生きる真実の生を謳歌する者。こちら、仮初の、現実を模倣して作られた世界で何も知らずに自身を本物と思い生きる者。そして現実からこちらに入り込み、またはこちらから現実に飛び出た者。あなたは三番目、こちらに入り込み理から外れてしまった者です。敵に殺されてしまえば高確率で完全消滅します、気を付けてください」

「あの、消滅って」

「最初からいなかったということに、現実が改変されます。誰にも覚えていてもらえない、なにも証拠が残らずそこに居たということさえも無かったことになる。写真があればその人物だけが消えます、それでも誰もそれをおかしいとさえ思わなくなるのです……これも、覚えておいてください。彼がしようとしているのはそういうことです、完全に、消し去るということを彼は平気でやりますよ」


 ……スコールさんはそんなことを平気でする。

 でもそれは、そうしないと失ってしまうから。

 失うのが怖いから、やられる前にやってしまえってことで、悲しみの連鎖を創り続けるってこと。


「スコールさん、守るためにやってるんですよね」

「ええ、そうです。彼は……しかし最後には……ユキ様も身を引く時期を考えておいた方がいいです。彼の目標は――」


 いきなり悪魔さんが窓側に手を突き出して、途端にガラスが砕け散って見えない壁に阻まれる。

 壁に光の点。

 レーザーサイト……撃ち込まれた方向を見てもすでに隠れた後で分からない。

 スコールさん曰く、撃って外したら的になるからすぐに隠れないといけないとか。

 私は狙いを付けやすくなるからいいと思うけど、周りで使っているのを見たことはあまりない。


「ずいぶんと近い距離から、しかしまあ銃弾程度なら大丈夫ですね」

「どうしますか」

「カーテンを閉めてしばらくはここで。どのみち外の方が危険ですから、しばらくここにいるべきでしょう」

「もし敵が入ってきたら」

「そのときはお任せください。こう見えても戦争を経験しておりますので、ある程度は戦えます」


 せ、戦争……私もやってきたことと言えば州軍相手の……あれは戦闘かな。

 とりあえず戦える悪魔さんが近くにいてくれるのはいいけど、リリィちゃんが全然泣き止まない。


「怖かったのかなぁリリィちゃん」


 すっと悪魔さんがリリィちゃんの口元に指を近づける。

 するとリリィちゃんが吸い付いた。


「……王女様のときは泣いたり泣き止んだりを繰り返してずいぶんと困らされたものですが、この子は泣き続けるタイプのようですね」

「えっ、あの大きな音に驚いたとかじゃなくて」

「おそらくは空腹でしょう。魔族の子供は人間とは少し違いますから。粉ミルクはありませんか」

「無いです。ずっとレイズさんの母乳だけです」

「でしたら粉ミルクを嫌がる可能性もありますか……。ついでに聞きますが」

「おしゃぶりとかもありません」

「そうではなくてですね、出なくてもいいのでユキ様のを吸わせてはあだっ!」


 ゴンッと、Vz85のグリップで殴る。

 そういうこと言うかな、女の子の前でそういうことを!


「……なぜ障壁の穴をピンポイントで狙えるのです」

「靄がちょうどなかったので魔法がないと思いまして」


 この悪魔さん、黒い靄というよりもほとんど透明な靄で陽炎みたい。


「とりあえずですね、泣き続けられると近場の敵兵が寄ってくると思いますのでなんとかするためにお願いしごっ!」


 もう一回殴った。

 どうせ実弾撃っても効かないから無駄打ちはしない。


「…………。」


 でも……み、未来でいつかやることの練習とでも思えば。

 そっと服に手を掛ける。


「少し哨戒に出ます」


 悪魔さんが外に消えていく。


「吸っても出ないけど……リリィちゃんごめんね」


 そして、吸わせてすぐに後悔した。

 めちゃくちゃ痛い!

 乳首が千切れるんじゃないかってくらいで、すごい吸い付きで全然離れてくれない。

 レイズさん……毎日数時間おきにこんなことしてたら、うん、ダウナー入るのも分かる。

 にしても痛い!

 出ないからさらに強く吸って、しかも胸が小さいから先っぽばかり吸われて余計に千切れそうなくらいの痛みがする。


「り、リリィちゃんもうちょっと……」


 言っても無駄だ、痛い痛い!

 無理矢理引き剥がそうとしても、想像以上に強い吸い付きでもう諦めてくれるまで我慢するしかない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ