非日常ノ現実二
よく晴れた日のお昼過ぎ。いつものように大の字になって甲板に寝ていた私に影が差した。
「やあ」
目を開けてみればキリヤさんがいる。私たち魔狼とは違うところの所属だけど、よくフェンリルベースに顔を出す謎の人だ。この基地は空を飛んでいて簡単には近づけないし入ることも出来ない。なのにこの人はよく出入りしている。
「な、なんですか」
「ちょっと聞きたいんだけどさ、これ、見える?」
キリヤさんが指を立てると、その先にぼうっと霞んだ赤、青、緑、黄、紫……他にもいろんな"色"が現れた。
「見えますけど……」
「うん。オッケーやっぱり君、危ないね」
何が? そう訪ねる前に紫色が溢れ出してすごい風が吹き荒れた。
「ホノカとミコトは適性があったけど、君は全く無い。その代わりに魔力の流れを見ることに関しては秀でた才能がある」
赤色が溢れて私に向かってくる。
それはすぐに燃え盛る炎の形になって――
「ひゃっ――あつっ」
直撃は避けた、でもヒリヒリする。
「完全に見えてるね。発動の初期段階から察知するのはレイズくらいのものだけど……君ももしかしたら」
「魔法……悪魔の力」
「心外だなぁ。魔法は誰もが心に宿す願いの力でもあるのに」
「でも魔法は地上で悪魔たちが使っていただけですよ」
「うーん……それ多分日本付近に魔法使いがいなかったから見なかっただけだと思うよ?」
ちょっと前までは地上で悪魔相手に戦っていたのに……今度は空の上で魔法使い? どんどん私の帰りたい日常からかけ離れていく。離れて行ってしまう。
「でもまあ、とりあえず」
銀色が輝くと杖がキリヤさんの手に現れた。とても大きな、キリヤさんと同じくらいの杖。さきっちょに透明な宝石がついているけど……そこから陽炎のようにゆらゆら何かが出ている。
「人って言うのは追い込めば才能がいきなり咲き開くものだよ」
「だからって――」
いきなり攻撃して来るのはないと思う。あっちこっちに魔法の予兆である靄みたいなのが発生して、次々に現実の脅威に変化して襲ってくる。
悪魔相手にさんざん戦ってきたけど、人間相手の戦いはほとんどしたことがない。しかもそれが魔法使いだなんて、なおさら。
「おいで、水の乙女、波の乙女」
飛んでくる魔法を避けていれば、雲が急に集まって水の塊になって人の形を創り上げる。
ただでさえ必死に走り回っているのに、すべる動きで迫ってくるそれにもう諦めかけてしまう。
「おいで、風の」
「ブレイク!」
次は背後から来た。白い波が全部を押し流して壊し尽くした。体が押されて倒れてしまう。
「キーリーヤー」
「げっ……ミナ、ちょっと待とう? 別に殺すつもりだったわけじゃないからさ」
「とりあえず――吹き飛べ!」
ボンッ! と白い光が吹き荒れると、魔法の形にもならずに白い靄というか光の塊のままキリヤさんを甲板の外側まで……。
「ちょっ! ちょっ落ちたら死っ――」
トドメに真上からもう一つ落とされてキリヤさんが消えた。
「落としていいんですか!?」
後ろを振り返れば十代の中では最年長、先日までの地上の戦闘ではたった一人で悪魔を倒すとかしたフェンリル最強の人が居る。
「大丈夫、飛べるから。ほら来た」
ヒュウと。サーフィンでもするかのように杖の上に立って飛んで上がってきた。
「僕じゃなかったら死んでるよ!?」
「死んでないからいいだろう?」
「結果的にでしょ!?」
「うるさいな。もっかい落とすか」
「やめて、もうやめて? 次は魔力が無くなるから、ミナの神撃は一気に魔力消し飛ばすからやめて!?」
そのまま逃げるように飛んでいって、ミサイルのように撃ち出された白い光に打ち落とされていくキリヤさんでした……。ちょっと可哀想。