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動キ始メタ魔性ト壊レ始メタ世界

 フェンリルベースの甲板にはあちこちに昼寝スポットがある。

 私がただそうよんでいるだけだけど、強い風が当たらず日差しも当たらない気持ちのいい影がある。

 天候や時間帯によって変わるそんな場所を探して、今日も散策していれば出くわした。


「待てキサラギィィッ!!」

「ごめーーーーーん!!」


 すごい速さで駆け抜けて行った女の子と、それを全力で追いかけるスコールさん。

 走っていった後には点々と血の雫が落ちている。

 なんていうか……珍しく本気で怒ってる。

 なにしたのかな、あの子。

 フェンリルベースじゃ見ない子だし、キリヤさんたちみたいな外部の人なんだろうけど。


「んースコールは」

「あ、フラン君」


 寝ぼけ眼のフラン君がまぶたを擦りながら歩いてきた。


「えっと……ユキ?」

「う、うん。覚えてくれたんだ」

「いっつもスコールが話してるから覚えた」

「いつも……?」

「レンとユキのことを話すときのスコールはなんか違う」


 と、そこでさっきの女の子が戻ってきて私を盾にした。


「ちょ、助けて!」


 強風が吹いて影が差す。


「伏せろユキ!」


 そう言われてもすでに強風でバランス崩してこけた後。

 人を蹴り飛ばす音がして、肌を裂くような風が吹く。


「いっっつぅ、最悪」

「人の顔面に降ってきておいて言うか」

「そ、それはぁ……そのぉ、ねえ。てかぁ後ろが……」


 手すりの無いこの場所で落ちるギリギリまで追いつめるのはダメだと思う。


「スコールさん落ちたら危ないから」

「大丈夫だ。いまから落とす」

「え――ちょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………」


 ドンッと、いきなり突き落とした。

 振り返ったスコールさんは顔面血だらけ。


「これでよし」

「良くないです!!」


 下を見下ろせば、赤い色の靄が見えるだけ。

 ゴツッという音に振り向けば、さっきの女の子がスコールさんの顔面に蹴りを……。


「…………。」


 そこからさきは見なかった。

 いくらなんでもやりすぎだったから。


「あの……」

「一日はこのままにしておけ」


 鎖でぐるぐる巻きにされた裸の女の子が、暴れている。

 散らされた衣服は風に運ばれて遥か遠く。

 そのすぐ近くではいつの間にかモップとバケツを持ってきたフラン君が血の後始末をしていた。


「まったく……」


 歩いていく方には血に染まったシートがある。

 お昼寝中の不意打ち?


「フラン、掃除はしなくていい。流す」


 いつものようにお札を手に取って、青い光を放ちながら大量の水を放射する。

 スコールさんのあれも魔法なんだろうけど、靄が見えないことが多い。


「わっ」


 つるっと水で滑ってフラン君がびしょ濡れになり、鎖でぐるぐる巻きの女の子はそのままさぁっと滑っていってまたも落ちた。

 の、次の瞬間にはスコールさんの顔面に蹴りを。


「べーーだっ」


 裸のまま走って逃げて、倒れて頭を打ったスコールさんは座り込んで大量のお札を取り出した。


「召喚は山猫リンクス波の乙女(ウンディーネ)と、場の制圧はフルクトゥスでいいか」


 すごい数のお札がいきなり吹き始めた風に乗って散って、辺り一面に青い光を散らす。

 鋼鉄の甲板から水が湧きだして、猫や乙女の姿をとって動き始める。


「捕まえて来い」


 まるで海にいるかのような波の音を立てながら、恐ろしい数のそれが一斉に追いかけ始める。


「あのースコールさん」

「これについては気にするな。昔からだ」


 離れたところで真っ赤な炎と蒸気が立ち上る。

 あーぁ、隊長たちが出てくるよこれ。

 なんて思えばすぐに放送が掛かる。


「不味いな……死人がでるぞ」

「あの女の子は大丈夫なんですか」

「レイズじゃ勝てないほどに強いからな。隊長たちだと返り討ちにあう」

「え、そんなに」

「例えるなら……」

「ねースコール、服乾かして」


 空気読まずにフラン君が割って入ってくる。

 そういえばさっきのでべちゃべちゃだ。


「全部脱げ、絞ってから乾燥だ」


 目の前で脱ぎ始めたフラン君を見てびっくりした。

 下が……男の子じゃなかった。

 ランニングシャツとブリーフじゃなくてスポーツブラとショーツ。

 女の子だった!?


「えっ、えっ女の子!?」

「そうだが?」

「え、でもだってみんなフラン君フラン君って男の子だって」

「そりゃいつもはフランシスって名前で登録してあるし、声もなるべく意識して変えるようにさせてるし」

「なんでそんなことしてるんですか……」

「……聞くと不機嫌になるぞ」


 もういいです、慣れましたこのパターン。


「教えてください」


 スコールさんは服を乾かしながら、フランちゃんを膝の上に座らせて言う。


「こいつの――」


 いいところでまたあの女の子が蹴りを打ち込んでくれた。


「…………。ユキ、悪いがちょっとキレる」


 ……わざわざ言う人も珍しい。

 そっと立ち上がったスコールさんは、お札を取り出して舐める。

 途端にそれがアサルトライフルになって、BB弾の入ったマガジンを差してガシャッと装填。


「あ、ね? それはやめて……ごめんなさい、ほんとごめんなさい、それだけはやめ、やめて!?」


 叫ぶ女の子に向かってセミオートで四発。

 右肩、左肩、右足、左足と命中して、灰を散らした。

 女の子じゃない……悪魔だ。

 身動きの取れなくなった女の子を引き摺ってスコールさんは物陰に消え、出てくると聖水の入った小瓶を開けて投げる。

 悲痛な叫び声が響く。


「終わり!」


 パンパンと手を払うと戻ってくる。

 ……普通に見ていたけどこれは不味いことじゃないのかな?

 私もいままで悪魔相手に戦ってたけど、あんなふうに転移してくるのはいなかった。

 なのにこんなところに転移してくるってことは……空の上も相当に危なくなるんじゃ。


「ったく……」

「あの、スコールさん……後ろ、なにか来てますけど」

「ん?」


 物陰からゆらりゆらりとものすごい黒い靄を放ちながら女の子が出てきた。

 べちゃっ、べちゃっと音を立てながら、もとの姿になりながらもふらついて。


「おぉおぉ再生が早いな」

「す、すこーるさんこれはまずいんじゃぁ」

「色々と不味いな」

「服」

「後にしろフラン」


 女の子がすっと腰を落として、蹴りを放つ体勢に移ると同時にスコールさんが飛びついてぎゅっと抱きしめた。


「ブレイク!」


 瞬間、黒い靄が一気に吹き飛んで青と赤の靄が溢れだす。

 女の子が拡散して消えて、靄の塊からそっくりな双子が生まれる。

 青い髪の女の子と、前にも見たことのある赤い髪の女の子。


「姉さんやりすぎ」

「いやぁだって、久しぶりに元の身体に戻れたんだから」

「お前ら、ちょっとそこに正座」


 キレたスコールさんの声は怖い。

 完全なまでに平坦で体の芯まで響く低い声。

 スコールさんは裸の女の子たちの前でグーを作ると、赤い女の子に容赦なく振り下ろす。


「ぎゃっ」

「姉さん、とうぜんのむくいだから」

「でも――」


 もう一回落ちた。

 今度は酷い音がして、女の子は頭を押さえながら転げまわっている。


「…………。」

「痛っ」


 青い女の子には軽いデコピン。


「とりあえずは」


 腰を下ろせばフランちゃんが無言で服を出す。

 スコールさんも準備がいいのかすぐにお札を取り出して、服を凍らせて霜を叩き落として温風乾燥。

 確かそれは生地が傷むような……。


「ありがと」


 そう言って服を着ると、当たり前のように膝の上に座る。

 なんだか羨ましいような……。


「スコール。レイズは?」

「そろそろ産むころか。お前の魔法なら消すこともできただろうが、あれまで育つとな……」

「スコールがやってダメならわたしの魔法も効かない。わたしの魔法はスコールのれっかばんなんだから」

「劣化版と言わず発展型と言ってくれ」

「スコールがそういうなら。それよりわたしのふく」

「ない」


 すると女の子はスコールさんに近づいて、腕に抱き着いた。

 ……なんでだろう、なんでイライラし始めるんだろう。

 明らかに私より年下なのに、なんでこうイライラするんだろう。

 やっぱり……私は、スコールさんが残念な人でも、やっぱり好きだからだろうか。


「離れろ」

「やだ、さむい」

「……はぁぁ」


 ため息一つで緊張感がなくなる。

 裁きの一撃を叩き込まれた女の子はいつの間にか丸まってシクシクないていた。

 殴ったスコールさんの手が腫れているんだもん、やられた方はすごく痛いだろう。


「さっきの続きといこうか」

「えっと、フランちゃんの……」

「そうだな。少し前のことになるが――」


 と、そこでまたも赤い髪の女の子が仕掛けてきて、スコールさんが咄嗟にフランちゃんを押して二人で落ちた。


「落ちたー」

「スコールさん!?」


 下を見ればいつも通りというか……鎖につかまって壁を走りながら何もなしに壁を走る女の子に対してまた撃っていた。


「姉さんもいいかげんやめればいいのに」

「あのぉ、あなたたちはいったい」


 人間じゃないのは確定だけど悪魔とも言いづらい。


「かんたんにいえばゆうれい」

「幽霊?」

「あなたたちからみればあのあくまとおなじぶんるいでいいよ? どうせわたしたちはずっとかわらないばけものなんだから」


 言うことが大きすぎて理解できない。

 そもそもいきなり幽霊って言われても普通に身体があるし……。


「化物って……。でも女の子なんだし」

「みためはね……。わたしはあまりもので、姉さんはレイズの力でそんざいをたもっているだけ。わたしたちはね、あくまにたましいをけがされているの」


 魂を汚される……それは分かる。

 悪魔に触れられると悪魔になるのはいまや常識、感染した人間は問答無用で消される。


「……感染した身体を捨てて、魂だけで生きることができるんですね」

「できないよ。あるべきばしょをうしなったそんざいはやがてきえるの。わたしたちはそれをレイズのちからでさきのばしにしてもらっているだけ」

「そう、ですか。悲しくないですか?」

「ううん、スコールがいっしょにいてくれるから」


 そう言いつつも、どこか寂しげな顔でスコールさんの方を見る。

 つられて視線を移せば隊長たちが出てきて大ごとになっていた。


「フランだって、スコールにかぞくをころされてるのに、いっしょにいるといつもたのしそう。もうわたしたちのよりどころはすくないの、だからうばわないでね」

「う、奪うってそんなこと」

「スコールはほんきになればひとりのためにだれでもころすの。だから、どんなにすきにでもひとりじめはだめ」


 フランちゃんもそうだと頷いて、ベースの中に帰っていく。

 女の子もすぅっと薄くなって消える。

 独り占めはダメだって言われても……じゃあ、レイズさんは。



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