ソコ二在ル現実
空き部屋に連れ込まれると、スコールさんはさっと鍵を掛けてドアの方に立つ。
その動作だけで私をここから出す気がないこと、誰にも知らせることができないようにしたことが分かる。
昔ならこれでドキドキしてはずなのに、今は怖いとしか思わない。
二人きりが嬉しくない、むしろ怖い。
「まずは何を聞きたい」
「ホノカさんとミコトさんにしたことを」
「そうか……言うよりも同じことをした方が早いな」
「えっ……スコール、さん?」
近づいてきて、怖くて下がるがすぐに壁に当たる。
スコールさんは黙ったままの無表情で、私に手を伸ばしてくる。
「な、なにをするんですか」
「あの二人にしたのと同じことを」
いきなりキスされて、そのまま優しく抱かれて。
なのに不快感しかない。
「やっ、やめてくだ、さい」
スコールさんを押し返していた。
触れられていたところから気持ち悪さが広がる。
嫌悪感しか感じられない。
「そう、それが正しい反応だ」
「なにが正しいですか」
「魔力をいきなり流し込まれて気持ち悪いと思わないやつは慣れたやつだけだ」
「ミコトさんたちは……」
「口付けの時点で盛ってたな。一通り終わった後で妙にべたべたしてきたのも気になるが」
「むぅっ」
「次で終わりだ、声が聞こえたら取れ」
お札が撒かれた。いろんな色を出しながらそれは宙に浮いて、全部私の方を向く。
「声って、なんですか」
「なんでもいい、とにかく呼びかけがあれば答えるそれだけだ」
よく分からないまま、時間だけが過ぎていく。
嫌悪感が完全に消えるころにはお札もはらりはらりと落ちていく。
「声は聞こえなかったか」
「……なにも、聞こえませんでしたけど」
「やはり、ネーベルが言っていた通り珍しいな、お前は」
「なにがですか」
「魔力も神力も見えるのにどっちとも扱えないどころか強い拒絶反応を示すってところが」
拒絶反応っていうか……何回か吐きそうにもなったし倒れそうにもなって、すごくお腹が痛くなったこともあった。
「……。で、そのミコトさんやホノカさんとは」
「今やったこと以外は触るくらいしかしてない」
「さわる?」
「正確にはあの二人にさわらされた」
「ななななんでですか!? ていうかどこをどう触ったんですか!?」
「あっちこっち色々と。ユキと比べてどうだとか言われたが知らんとしかいいようがない」
な、なにやってるんだろあの人たちは!
「で、他の聞きたいことは」
「あの二人と私だだだだたったりゃだりぇがいいんですか!」
「あんなことがあった後でまだ言うのか」
「だ、だって……やっぱり、スコールさんが女性関係で残念な人でも、その……好きなんですもん!」
「後悔するぞ」
「えっ?」
スコールさんが足音もなくドアに近づいて、鍵を開けると聞き耳を立てていたであろう皆さんがなだれ込んでくる。
き、聞かれてたのぉ……。
ナギサさん、ハルカさん、ユキネさん、ツバキさん、アヤノさん、トーリさん、キリヤさん、ソウマさん……エトセトラエトセトラ。
「お前らー……盗み聞きとはいい趣味だな、まとめて吊るす」
悲鳴を上げてみんな逃げるけど、スコールさんが端末を操作すると防火壁が下りた音がした。
「トーリ急いで!」
「あ、無理だこれ。時限式の閉鎖ロジックだ」
「嘘ーーーーー!」
「主犯はナギサとトーリあたりか」
ギャーギャー悲鳴が聞こえる。
廊下は地獄だろう。
「でもまあユキちゃんの告白聞けたしいいかな」
「浮気前提のお付き合いですねえこれ」
「ツバキ、後ろ後ろ」
「へぁ!?」
「ふじゅんいせーこーゆー」
「アヤノ……いつも無口なのにこういうときだけ喋るか」
「こらキリヤてめぇだけ逃げんじゃねえ……!」
「壁抜けで僕は逃げるんだ!」
「コウタ! 外から開けてー!」
「ゼファー!! 爆破爆破!」
「お前ら……纏めて吊るすぞ」
お札を散らせば空間が揺らいでいくつも鎖がじゃらりと……。
スコールさん、やりすぎです。
「いやーユキちゃんもまさか女誑しと分かって交際申し込むとは……ってやめ――」
「余計なこと言うとぎゃ――」
「ちょ、ちょっと待とうよ……ぉ?」
「いくらなんでも首は――」
廊下がどんどん静かになっていく。
一騎当百を地でいくフェンリルの正規戦闘員をいとも簡単に……。
「あ、れ……?」
いきなりくらっときて、そのまま崩れ落ちて……。
あぁこれは……目の前が真っ暗に、力が入らない……。
音が、感覚が遠くなる。
「ユキ!」
完全に倒れる間際にスコールさんに支えられて、意識が落ちた。




