相対スルハ光導ク神ノ使徒ナリ
雷の轟く嵐の日だった。
私の心も同じような感じだ。
なんだか最近周りの人に怖がられてる。
もうどうしようもなくて嫌になる。
自分でもこのままじゃいけないと分かっているのに、押さえが効かなくなりそうで怖い。
理由もなくレイズさんが憎い。
いや、理由は……スコールさんを独り占めしているから、羨ましいから、私も隣に居たいから。
でも入り込める余地がない。
私が、彼と同じ場所に立ちたいだけで、彼は私のことを同じ場所に立たせないようにしている。
理由は話してくれる。
それでも周りにいる人たちはもっと高いところに、もっと危ないところで戦いながら生きている。
私があの場所に立てば間違いなく邪魔者になる。
同じ場所に居たい、でもそれは私じゃ無理だ。
ゴロゴロと雷が響いて、大きな雨粒が私を叩く。
ただの我儘なんだろう。
そこがどういう場所が知らないのに、ただ一緒に居たいだけという理由でついていきたいだけ、一緒に居たいだけ。
ふと、雨音の中に水を散らす音が入り込んだ。
一人の音、知っている。
足音がないけど雨の当たる音が違う、これはスコールさんだ。
「遅いやないの、雨の中で待たせてなんのつもりですかえ」
「待たせた覚えも呼んだ覚えもないが……。人気のないところで気配を出すからには、そういうことだろ」
「えぇ、そういうことやなぁ」
空は黒い、雨音は続く。
だというのに雨が止んだ。
「高くつくぞ」
「初めてでもないんでなぁ、悪く思わんといてな」
「悪くはない。経験なしの素人が相手だとやりづらいからちょうどいいさ」
何事かと覗いてみれば、水の槍をいくつも従えたスコールさんと濡れてスケスケの巫女さんが対峙していた。
「あんさんの彼女、という訳でもないんやろう?」
「護るべき存在、とだけ返しておこう」
「珍し、あんさん護るものがあると邪魔言うてましたやん」
「邪魔に変わりはないが、失いたくないからな」
辺りに赤い光を放つお札と青い光を放つお札が舞う。
「さ、ちょうどええことやし、今日で仕舞いにしましょか」
「そうだな……どこの宗派か知らんが法力使い、お前を殺す」
「そないに怖いこと言わんでな、神力使いのあんさんこそ覚悟しなさんね」
静かな衝突だった。槍が飛んで雷が撃ち落として、札が舞って絡み合って千切り合う。
幾度目かの落雷の光、収まった時にはスコールさんの姿がない。
「あら、どこ行きましたん? まさか逃げはっ――」
甲板の水が渦を巻いて巫女さんに絡みつく。
そして甲板が光り始める……魔方陣だ。
とても大きな魔方陣。
私が引っ掛かりそうになったあの小さな魔方陣でさえもかなり危ないモノだったのに、この大きさじゃ……。
「食い散らせ、水狼」
絡みついた水が激しく動いて、あちこちから波が巫女さんに迫る。
「残酷なことしますなぁ……」
光が放たれて波が押されるけど、それもすぐに収まって巫女さんが波に呑まれた。
ぐるぐると激しく竜巻のように巻き上がった水の流れが赤色に染まって辺り一面に飛び散る。
骨すら残らない……。
そして今度は波がこっちに――
「えっ……?」
スコールさんは私も殺す気?
信じられなかった。
逃げようとしてもいつの間にか足に纏わりついた水が放してくれない。
「スコールさんどうしてっ!」
波が私を呑み込もうとした瞬間に、雷と炎が波を打ち壊した。
血の臭いがする水飛沫の向こう側にはミコトさんとホノカさんがいる。
二人からは黒い靄のようなものが昇っていて……。
そう、悪魔たちと同じような靄が。
「ホノカさん、ミコトさん……それ……」
「やっぱり見えてるんだよね、ユキ」
「ごめんねーユキ、しばらくお別れ」
「ちょ、どういうことですか!」
走りだせば、空間が揺らいで二人の後ろに悪魔が現れる。
見たことがない悪魔だった。
普通の悪魔は一般人がそのまま堕ちて、姿がそのままなのに、その悪魔は貴公子のような立派な格好をしていて黒い靄がとても濃い。
そう、まるで変異体。
いわゆる本物の悪魔と同程度の力がある存在。
「なんで……こんなところに」
今まで悪魔たちはこんな高空には来なかったのに。
私が驚いていると、悪魔が口を開いた。
「申し訳ありません。突然のことで驚かれているようですが、私どもも急いでおりますのでご友人をしばらくお借りします」
落ち着いた声で言うと、深く礼をして靄を広げる。
ミコトさんとホノカさんがそれに包まれて、一緒に空間の揺らぎに包まれていく。
初めてだ、悪魔があんな言葉を発したのは。
「じゃあね、ユキ」
「私たちスコールと初めての――」
続きが聞こえる前に消えた。
続きは!?
初めてのなに!?
「ぼさっとするな!」
いきなり現れたスコールさんに手を取られ、一緒に水の上を滑る。
そしてすぐ後ろ、私たちが滑った軌跡に棺桶が降る。
「スコール、さん」
「隊長たちを呼んできてくれ、一対一じゃ手間がかかりすぎる」
いきなり止まると降ってきた棺桶を水の槍で弾き飛ばして、投げる。
空には無数の棺桶を従えた神父さん? が浮いていた。
また別の場所ではキリヤさんが天使相手にドッグファイトを繰り広げて、ソウマさんが無茶苦茶な動きで白い靄を纏う化け物と空中戦を展開している。
「あれは……」
「ようやくレイズのことを嗅ぎ付けてきた、自称光の勢力だ。悪魔と見れば容赦なく消しに行くから今までは放っておいたが、これからはそうもいかんのでな」
レイズさんのお腹にいる悪魔との子供が、それの原因……。
また棺桶が降ってきて、今度はキリヤさんの砲撃で破壊された。
「トーリ」
『専門外』
甲板放送用のスピーカーから声が響いた。
「囮にはなるだろう」
『……デコイはあんまないけど、やるだけやろか』
「ユキ、行け。隊長たちに伝えたら上がってくるなよ」
「私も戦えます」
「ミコトやホノカならともかく、お前じゃ話にならん」
「っ……あの二人と何をしたんですか」
「……言えばまた不機嫌になるから言わない」
え、あ、あれ……もしかして。
「したんですか!!」
「…………。」
「スコールさん!?」
無言は肯定!?
「さーて戦争だ戦争」
いくつもの槍を創りながら水の上を滑って、空からの棺桶を躱しながら槍を投げて反撃して。
というかいま私から逃げた。
「…………そういう、人なのかなぁ」
なんだか私の中のイメージが崩れていく。
なんかこう、いつも一人ですごいことやってる人って感じから女性関係にだらしがない人に変わっていく。




