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きっと、僕の魂が覚えてる。  作者: 長月
第一章
36/39

イシュの街〈1〉




 それから約1週間、図書館に通う日々が続いた。今日も読みたいものは読み終わったため1人宿への帰路に着く。図書館に来た時には青々と晴れていた空は今雨が降っていた。傘はもちろん持っていないので仕方なくローブのフードを目深にかぶって早足で歩く。宿の軒下へと着くと、ずぶ濡れのローブの裾からぽたぽたと水滴が滴っている。素早く脱いでザッと水分を落とした。


 そしてあらかた水分が落ちたところで部屋へ行く。中に入ると3人がテーブルについて談笑していた。僕も濡れたローブを椅子に引っ掛け腰掛ける。


 聞けば3人は今日もギルドで依頼を受けて来たらしい。やはり魔物討伐の依頼が多いらしく、今日は2つ受けたのだと言っていた。それほどギルドも忙しいということだ。


「そっちはどうだい?もう読み終わった?」

「あぁ。あらかた読みたいものは全部読んだ」

「そうかい」


 僕が返事をするとそうマゼンタが微笑む。僕がテーブルの上の紅茶を飲みながらそれを眺めていると、ラファが横から口を挟んできた。心なしかニヤニヤとしている。


「そういえばさ、ここ最近中央図書館に若い女の子がいっぱい来てるって話は聞いた?」

「いや、知らない」

「やっぱりそうか。その女の子たち、全員イオリ目当てだよ」

「……僕?」

「そう!普段はエレシアちゃんがいるから話しかけられないけど、図書館なら話しかけられるかもって機会をうかがってた子たちが図書館に行ってたらしいよ」

「へぇ……」

「興味なさそうな返事だねぇ」

「実際興味はない」


 ラファの話は僕にとって興味を惹かれるものではなかった。確かにここ2週間ほど女の子たちの視線を感じていたし、実際に話しかけられることもあったので、あれはそういうことだったのかと納得したくらいだ。僕がそう伝えると、ラファが面白くなさそうにため息をついた。


「はぁ……イオリってば本当に興味がないんだね。逆に聞くけど、どんな女の子なら興味が湧くの?」

「どんな、ね……」


 地球でのことも思い返してみる。告白されたことはあるけれど、その想いに応えたことは1度もなかった。どの女の子のことも嫌いではないが好きでもなかったからだ。いわゆる無関心といえるかもしれない。とはいえ地球での話はできないので、適当に誤魔化すことにした。


「記憶を無くす前のことはわからないはし、今もそういったことに興味はないな」

「え〜つまんないな。せめてタイプとかないの?」

「タイプ……僕が相手のことを好きになれたなら、その人がタイプだと思う」

「うわ、言うねぇ」


 マゼンタまでニヤニヤとした表情で紅茶を啜っている。何が言うねぇ、なのかはわからないが揶揄(からか)われているのだけはわかった。


 ふとこれまで黙ったままのエレシアの方を見ると、どこか居心地悪そうに座っていて僕と目が合うとすっと視線を逸らした。


「?」

「でもエレシアちゃんも同じだよ。普段はイオリがついてるから話しかけられないけど、本当は話しかけたいって男はいっぱいいるからね」

「えっ……」


 心外だ、と言った顔をするエレシアに自分は棚に上げて納得する。エレシアはその美貌で常に周囲から視線を集めている。男たちが機会をうかがっているというのも頷けた。


「エレシアはその辺どうなんだい?まぁ今はイオリと恋人同士のフリをしてるわけだし男はしばらくいらないって感じなのかい?」

「そ、そうですね……私もまだ好きになれる人を見つけられていないので、しばらくはイオリとこのまま恋人のフリを続けていきたいです。……もちろんイオリが許してくれるなら、ですけど……」

「もちろんいいよ。お互い虫除けになるし」


 と僕が頷くとエレシアはほっと安心したように肩の力を抜く。


「なーんだ、結局そうなるのかぁ。まぁいいけどね」

「そうさねぇ」


 と何かに納得しているようなラファとマゼンタが2人で顔を見合わせている。僕がそれに首を傾げていると、エレシアが顔を赤くしているのに気づいた。


「エレシア?顔が赤いけどどこか具合でも悪いのか」

「えっ!?何でもないです、大丈夫です」

「そ?」


 ぶんぶんと首を振るエレシアにそう返す。それに頷いたエレシアは、触れられたくないというように話題を切り替えた。


「そ、そういえば!いよいよ明後日が出発ですね」

「そうだねぇ。明日は買い出しだからねぇ」

「あと荷造りもしなくちゃね」

「意外とここに来るまでに汚れてしまったし、テントとかも磨かないとな」

「そうですね。収納袋も片付けないと」


 意外とやることはたくさんある。収納袋も何でも入る分つい物を入れがちだが、そのままにしておくと容量を超えてしまう。そうならないために定期的に中の整理が必要だった。


「明日は依頼もなしだねぇ」

「そうなるだろうな」


 マゼンタの言葉に頷く。明日は1日準備する時間になりそうだった。


「でもまたマゼンタたちと旅を続けられるなんて、とても楽しみです」

「そうだな」

「あたしもワクワクしてるさね」

「俺も。君たちといると何か起きるし、また何が起きるか今からドキドキだよ」

「人をトラブルメーカーのように言うな」

「実際そうでしょ」


 あっけらかんというラファに反論の言葉を失くす。確かに日々何かしら起きているような気がして反論できなかった。僕が黙り込むと、ラファはさくっと話題を切り替えた。


「そういえばさ、旅を続けるにあたってただ歩く他にも移動手段を持っておいた方がいいと思うんだよね。具体的には移動魔道具(モバイルマジックツール)とかさ」

移動魔道具(モバイルマジックツール)?」

「そう。魔力を流すと人を乗せたまま移動できる魔道具のことだよ。時速100キロぐらいは出るかな。馬を借りるのもいいけど、せっかくこのパーティーは魔力が豊富な人間が3人もいるんだし、早く移動したい時に使えるから持っておいても損はないと思うんだ」

「なるほど」


 確かに早く移動したい時も出てくるかもしれない。そんな便利な道具があるとはさすが異世界、と思った。


「それはどこで売ってるんだ?実物を見てみたい」

「魔道具店にあるよ。この街の魔道具店の場所はわかったから、明日案内するよ」

「お願いする」


 ということで明日の予定が決まる。その日はみんなでお酒を飲んで楽しく笑いながら夕食を終え、早めに床についた。




◇◇◇




 次の日、僕たちは買い出しに出かけることにした。まずは保存食を買った後、ラファの案内のもと魔道具店に向かう。


 魔道具店は裏道を幾度も曲がった先にあり、薄暗い通りにあった。「アース魔道具店」と書いてある看板が今にも地上に落ちて来そうなボロさだ。


 胡散臭さを感じないでもないが、ラファは気にせず中に入っていく。僕たちも後に続いた。


 店内に入ると、あの外装に反して中は綺麗だった。所狭しと並べられている商品たちがどこか美しい。店員はニコニコとカウンターに立っていて、いらっしゃいませー、と声を掛けられたため会釈をして返した。


「あ、あった。これだね」


 と店内を見回していたラファが立ち止まったのは、片耳用のピアスのようなものが並べられた棚だ。僕にはこのピアスのどこが魔道具なのかわからない。ただ美しいそれらを眺めていると、ラファが一つ手に取って僕たちに見せてきた。


「ほら、これなんてどうだい?これに魔力を注ぐと耳飾りの部分が大きくなって人が乗れる大きさに変化するんだよ」

「へぇ」


 ラファの掌の上に載せられたそれは、地球でいうサーフボードのような形をした耳飾りがついたピアスだった。まるでルビーを彷彿(ほうふつ)とさせる赤い色をした耳飾りだ。魔道具と言われなければ傍目にはただのピアスとしか思えないだろう。


「意外とちゃんとしたアクセサリーなんだな」

「そうだよ。色違いもあるみたいだね」


 と言われて棚を見回すと、紫、青、黄色、赤、緑の5種類が並んでいる。


「どう?気に入った?」

「僕はいいと思う」

「私もいいと思います」


 ということで、それぞれラファが青のピアス、エレシアが紫のピアス、僕は緑のピアスを買うことにした。マゼンタは魔力が少なく魔道具の使用ができないため、移動する時には誰かと同乗することになった。


 白金貨3枚を払って、その場で片耳にピアスをつける。僕は耳に穴が開いていなかったのでラファが持っていたピアッサーでその場で開けてもらった。ちくりと痛みがしたが、すぐに痛みは引いていった。


 何はともあれそれぞれ購入したピアスをつけ、お店に備え付けてある鏡で見てみる。僕の右耳で揺れる緑のピアスを見ていて、ふとエレシアの瞳よりは濃い色だな、と気づく。でもエレシアの瞳の色の方が僕は好きだ。


 そんなことを考えていると、ラファがふいにエレシアの耳に口を寄せて何かを(ささや)く。それを聞いたエレシアは一気に顔を赤く染めて、違います!と叫んでいた。


 僕は頭の上にクエスチョンマークがいっぱい浮かんでいたが、マゼンタはなぜか理解したようでケラケラと笑っていた。


 それにさらに顔を赤くしたエレシアと目が合う。するとぷいっと顔を背けられてしまい地味にショックだった。


 と店の中でいつまでも騒いでいるわけにもいかないので、外に出る。


 日の下に出るとエレシアとラファのピアスがキラキラと輝いて綺麗だった。


「エレシア、ラファ、そのピアス似合ってる」

「ありがとー」

「ありがとうございます」


 ようやっと顔の赤みが引いてきたエレシアが笑顔で頷いてくれる。それに僕も微笑み返すと、ラファがじゃあ宿に戻ろうか、と言った。


「そうだな。荷物の整理をしなければいけないし」

「まとめるのがめんどくさいんだよねぇ」

「まぁまぁ。すぐ終わるよ」


 とめんどくさがってあくびをするマゼンタにラファが苦笑を返す。僕とエレシアもそれにつられて笑った。


 それからこの魔道具の詳しい使い方についてラファから説明を受けているとあっという間に宿に着いた。


 部屋に戻って片付けを始めようとするが、こちらの世界に来てからだいぶ伸びた藍色の髪が視界を邪魔する。仕方なくエレシアの方を向いた。


「エレシア。ヘアゴムとか持ってない?髪が邪魔で縛りたくて」

「ありますよ。私はもう1個ありますから、どうぞ使ってください」

「ありがとう」


 ともらった黒いゴムを口に咥えて髪を縛る。後頭部のあたりで顔周りの髪を一括りにし、邪魔な髪をどかした。


「お、似合ってるよ。その髪型」

「顔がよく見えて美少年っぷりが増したねぇ」

「そ?」

「すごくかっこいいです……!」

「ありがとう」


 褒めてくれるラファとマゼンタと顔を赤らめて興奮気味に話すエレシアにお礼を述べる。それから本格的に片付けを始めることにした。まず収納袋から荷物を一度全部取り出し必要なものと必要でないものとに分けていく。いらないものは即捨てて、いるものだけ収納袋にもう一度しまい直した。


 ついでに旅の途中で汚れてしまったテントや椅子の汚れも拭き取って綺麗にする。全部終わらせた時にはちょうどおやつどきに差し掛かる頃だった。


「キリがいいところで休憩しよう」


 はーい、と返ってくる返事を背にしてキッチンに立つ。紅茶を淹れて運び、テーブルに4人でついた。


「はぁ……やっとめんどくさい作業が終わったさね」

「俺も終わったよ」

「私も終わりました」

「イオリは?」

「僕も終わった」

「じゃあ全員終わったんだね。良かった良かった」


 とマゼンタの言葉に頷いて首肯する。僕は話がひと段落したのを見計らってラファに声を掛けた。


「明日イシュの街に移動するまでは、移動魔道具(モバイルマジックツール)で移動してみないか?試しに飛んでみたい」

「いいねぇ。あたしはエレシアのところに乗せてもらおうかねぇ」

「いいですよ!」

「じゃあ俺とイオリは1人ずつだね」

「あぁ」

「せっかくなら後ろに可愛い女の子を乗せたかった……」

「なんだそれは」


 残念そうに唇を尖らせるラファに笑って、僕は無意識に右耳のピアスに触れた。そこでエレシアもピアスに触れていることに気づく。そしてその色が僕の瞳の色であることにも今更ながら気づいた。


「……」


 エレシアが気づいているのかはわからないが、なんとなく気恥ずかしくなってエレシアから視線を逸らす。恥ずかしさを紛らわすため、まだぐちぐち言っているラファに話しかけた。

 

「このピアスは飛ぶ高さは変えられるの」

「あぁ、耳飾りを大きくしたらボタンがあるから、それを押しながら魔力を注ぐともっと高いところを飛べるようになるってさ」

「それは便利だな」

「そうだよね」


 ピン、と耳飾りを指で弾きながら言うラファに頷く。空を飛ぶなんて経験は飛行機ぐらいでしかしたことがなかったので、ワクワクしている自分がいた。


「ふふ、イオリがワクワクしてます」

「え?そうなのかい?」

「あぁ」

「あんた最近は表情豊かになってきたと思ってたけど、あたしらもまだまだだねぇ」

「そうだね。わからなかったよ」


 と悔しそうに呟くマゼンタとラファ。逆に僕の今の無表情からどうやって感情を読み取ったのかエレシアに聞きたいところだった。


「まぁ何にせよ明日はイシュの街に出発だからねぇ。歩きだと2日くらいかかるけど移動魔道具(モバイルマジックツール)に乗ったらどれぐらいで着けるのやら」

「1日で余裕で着ける距離だと思うよ」

「そんなにかい?魔道具ってのはすごいんだねぇ」


 収納袋から地図を取り出して計算しながら言うラファにマゼンタが驚く。僕もすごいことだと思ったが、さすが異世界、と思うことで納得することにした。


「……よし。じゃあそろそろ夕食を食べに行くとするか」

「そうですね」


 と会話を打ち切り、4人で夕食を食べに行くことにする。机の上に放り出されていた鍵をかけ、部屋を後にした。




◇◇◇




 次の日、僕たちは早朝7時には正門から出た。今日は体力づくりのためのマラソンは一旦休みだ。ともあれ正門から少し森に入った広いところで立ち止まる。


「そろそろ乗ってみようか」

「そうだねぇ」


 ということで耳飾りを摘んで魔力を込める。すると耳飾りの装飾部分が自然と外れ、1メートルくらいの高さで宙に浮く。そしてどんどんと大きさを増すとサーフボードより小さいくらいの大きさになったところで変化を止めた。


「おぉ!こりゃすごいねぇ」


 1人耳飾りを持たないマゼンタがエレシアの紫の移動魔道具(モバイルマジックツール)の周りを回りながらまじまじと見つめている。


「じゃあとりあえず乗ってみようか」

「わかった」


 ラファの一言でおのおの自由な姿勢でそれに乗る。僕はボードの上であぐらをかいて座った。


「あとは前にボタンがあるでしょ?それで高さを変えるんだよ。ここは森の中だから低いと飛びにくいし、森の上を飛んでみようか」

「わかった」


 座った目の前に1つついている黒いボタンを押しながら魔力を流すと、高度がどんどんと上がっていく。そして森の木々より高くなったところで、魔力を流すのを止めた。


「おぉ……見晴らしがいいねぇ」

「ほんとですね!」


 3つのボードが並んで宙に浮いている。横座りをしているエレシアの後ろに僕と同じようにあぐらをかいて座っているマゼンタが目の上に手を当てて辺りを見回しながら言う。それを見て僕も辺りを見渡すと、遠くまで鬱蒼(うっそう)と広がる緑の景色が視界に飛び込んできた。空の青とのコントラストが非常に美しい。しばらく4人で言葉もなく見つめていたが、やがて我に返って僕は口を開いた。


「……じゃあそろそろ行くか」

「そうですね」

「ボードに直接魔力を注げば前に進んでいくからね。流した魔力量によってスピードが変わるから気をつけてね」


 とのラファの話で、おそるおそるボードに体が触れた部分から魔力を流し込んでみる。するとゆっくりと加速して前に進み出した。体感で時速20キロぐらいだろうか。


「もうちょっとスピードを出してみよう!」


 徐々にスピードを上げていく。やがて体感で時速60キロ程になったところでみんな魔力を注ぎ込むのを抑え、横並びに飛んだ。車と違って直接風に当たると予想以上に速さを感じる。


「いやぁ、風が気持ちいいね!」

「はい、涼しくて気持ちがいいです!」


 バタバタと風が(なび)く音が聞こえるためみんないつもより声を張って話している。僕は反対側の端を飛んでいるラファに声を掛けた。


「ラファ、この風はどうにかできないのか!?」

「風魔術で結界を張れば風を抑えられるよ!」

「ありがとう!」


 ということで即、不可視の結界を張る。すると心地よい涼しさはなくなったが風がぴたりと止まり、音も小さくなった。


「ふぅ……」


 ラファとエレシアも結界を張ったようだ。魔力を使う気配がした。


「じゃあこのままイシュの街まで行こう。途中昼食を摂れそうなところがあったら言ってくれ」

「はーい」

「わかったよー」

「わかりました」


 ということでそこからはひたすら前に進んだ。




◇◇◇




 それから飛び続けて約5時間ほど、少し遠くに森の中で開けた場所があるのが見えた。


「あそこに降りよう」


 3人でボタンを押しながらボードに注ぎ込む魔力を少なくしていき、高度を下げていく。地面に足が届く高さまで下がったところで、ボードから飛び降りた。


「ん〜!気持ちよかったなぁ」

「いい気分転換になりましたね」


 背伸びをするラファとエレシアがそう話している。


「ラファ。これはどうやって耳飾りに戻すんだ?」

「あぁ、それはね。『戻れ』って言えば耳飾りに戻る便利仕様だよ」

「そうか。……戻れ」


 瞬間ボードが縮んで耳飾りの位置に戻る。右耳で揺れる耳飾りを指でピンと弾いて確かめて、前を向いた。


「じゃあ食事の準備をしようか。いつも通りで」

「はーい」


 いつも通りラファとマゼンタがテーブルや椅子を準備している間に僕とエレシアで食事を作る。


 今日はパスタにした。完成したところでエレシアと2つずつ皿をテーブルに運ぶ。4人全員で席についたところで、両手を合わせた。


「いただきます」

「「「いただきます」」」


 フォークでパスタを巻き付け、口に運ぶ。もぐもぐと食べていると、口いっぱいに頬張っていたマゼンタがふと顔を上げた。


「いやぁ、移動魔道具(モバイルマジックツール)ってのはほんとにすごいんだねぇ。この調子じゃ夕方前にはイシュにつけるんじゃないかい?」

「多分着けるね」

「その分ゆっくり休めますね」

「本当に便利だな」

「というよりみんなここまで魔力が続いたのもすごいよね。普通は魔力が尽きかけてるよ」

「魔力量には自信があるからな」


 と食べながら会話を交わす。やがて食べ終わると、食器を洗って収納袋にしまう。テーブルや椅子も片付けて、再び耳飾りからボードを出した。


「じゃあ行こう」


 それからさらに約2時間半くらい、話をしながら飛んでいると夕方前にはやがて遠くに白い建物が並ぶ街が見えてきた。太陽はまだ高い位置にあって白い建物に光が反射している。


「着いたか」

「いや〜ほんとにここまで魔力が持つとは……イオリもエレシアちゃんもなかなかだねぇ……」


 とエルフの血を引くというラファが目を細めて僕たちを見る。僕はその視線を受け流しながら、エレシアの方を向いた。


「エレシア。体調に違和感はないか?」

「はい、大丈夫です」


 にっこりと笑うエレシアはいつも通りだ。魔力量が多いというのにも納得である。


 そうこうしているうちに正門が見えてくる。門番が2人立っており、そこには誰も並んでいない。そして門番の1人がこちらに気づいて指を指すと、もう1人の門番もこちらを見上げてきた。


 それをよそに僕たちはボードの高度を徐々に下げて門番たちの前に降り立つ。門番たちは武器を抜きながら僕たちを警戒した目で見ていた。戻れ、と告げてボードを耳飾りに戻す。その一連の動作をビクッと身を震わせながら見る門番。


「何者だ!?」

「驚かせて申し訳ありません。僕たちは冒険者です。これは移動用の魔道具(マジックツール)です」


 と簡潔に伝えてギルドカードを差し出す。それをおそるおそるといった様子で受け取った門番は、ざっとギルドカードに目を通すとハッとしたようにこちらを見た。


「失礼しました。魔道具であると知らなかったので……冒険者であると確認したため通っていただいて構いません」

「ありがとうございます」


 先ほどとは一転丁寧なお辞儀で通してくれる門番に会釈をしてそのまま通り過ぎる。正門が遠くなったところで、マゼンタが口を開いた。


「いきなり空から人が飛んできたら知らない奴は驚くだろうねぇ。騒ぎになるんだったら正門の少し前で降りとけば良かったねぇ」

「それもそうだな。配慮が足りなかった。次からはそうしよう」


 頷いてそう言うとラファとエレシアも同意する。


「まぁ何にせよ夕方前につけたのは良かったね。早速宿でも探す?」

「あぁ。今日はゆっくりして明日から活動しよう」


 ということでいつも通りラファとマゼンタが宿を選んでいくのを眺める。やがて見つかった宿で受付をした後、部屋に入ってベッドに腰掛けた。


「ふぅ。今日はあたしは何もしなくて悪かったねぇ。おかげさまで楽させてもらったけど」

「気にしなくて大丈夫ですよ。私たちの魔力も結果的にもったんですし」

「そうだな」


 と話す。その間にラファが紅茶を淹れてくれたので、テーブルに移動する。その日は翌日の予定を話して眠りについた。






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