旅の途中で〈10〉
翌日、僕たちは街に繰り出すことにした。まずはみんなで一通り街を見て回って、最後に本屋に寄ろうということに決まった。宿を出て、マゼンタとラファが並んで歩く後ろを僕とエレシアが手を繋いで着いていく。もう手を繋ぐのには慣れたもので、外に出るときにはどちらからともなく手を取るようになっていた。
ともあれ、マゼンタとラファとともに時折立ち止まりながら店を冷やかしていき、必要なものがあれば購入していく。以前エレシアがカーティス氏に手紙を書いていたが、僕もナノヤさんに書いてみようと思い立ち、シンプルなデザインの便箋と封筒を買った。
マゼンタは食べ物やお酒、ラファは何に使うのかよくわからない置き物、エレシアはこの土地限定のお菓子を購入していた。こういう時それぞれの性格が出て面白いと思う。
そんな風に街を進んでいくと、やがて魔石を売っている露店に辿り着いた。
「ここは魔石を売ってるんだねぇ」
「へぇ……これなんかなかなかいい品じゃないか」
「おぅ、兄ちゃんお目が高いねぇ!それは治癒の魔石だよ」
一つ魔石を摘み上げて呟いたラファの言葉に反応して、店主が声をかけてきた。どうやら魔力を注げば治癒の魔術が誰でも使える魔石らしい。ラファが言うことによると、旅をするにあたってはこういった魔石を常備しておくのが普通だということだった。普通の冒険者は怪我をしたとしても光魔術が使えない限り治癒を使えないからだ。傷を放っておくと悪化する可能性もあるため、魔石は必需品なのだそうだ。
僕たち4人は店主に話し声が聞こえないよう集まり小さな声で、
「治癒はエレシアが使えるけどねぇ……あんまり目立つもんでもないし、目眩し用に持っとくのもいいかもねぇ」
「俺もそう思うよ。まだエレシアちゃんが光魔術が使えるかもっていうのは噂程度だけど、正式に使えると周りに知れたら怪我人が集まってきちゃうよ」
「……なるほど」
そういった弊害があるのか、と思った。そのため僕たちは満場一致でその魔石を10個購入することにした。
「まいどありぃ!」
「ありがとうございました」
機嫌良く手を振る店主に会釈して、購入した魔石を収納袋にしまう。今後は誰かが怪我をした場合、人目があるところでは魔石を使って治療しようということになった。
ということで魔石の店を離れ、一通り店も回ったので今度は本屋を目指して歩く。
本屋は街の外れにあり、どこか古ぼけた外装がレトロな雰囲気を醸し出していた。中に入ると、本屋独特のカビた本の匂いがする。それぞれ見たい本のジャンルが違ったのでそこで別れ、僕はいつもの如く伝記のあるコーナーに向かう。
「これも違う……これも……」
小さな声で呟きながら棚の本を指でなぞっていくが、あいにくこれまでの街で読んだ本ばかりが棚に並べられていた。がっくりと肩を落としかけたその時、奥まったコーナーのところに本が積み重ねられているのを見つけた。なんとなくそこに近寄ってみると、その中に「異世界への考察」というタイトルの本を見つけた。
「!」
思わず手に取って逸る気持ちのままページを捲る。開いた最初のページには、興味深いことが書かれていた。
『この本を読んでいる読者には信じがたいことかもしれないが、異世界というものは存在している』
僕はこの導入部分で一気に引き込まれ、すぐに購入することを決めた。レジに並び会計を行う。この本が発行されたのは今から30年前と記載されていたが、満足のいく本が購入できたことに喜びながら収納袋に本をしまうと、僕は他の3人がどこにいるか探した。最初に見つけたのはエレシアだった。
エレシアは何かの本を熱心に読んでいて、こちらに気づいていない。僕はふと思いついて気配を消し、そっと後ろから近づいて耳元で囁いた。
「……エレシア」
「!イ……」
驚いて大声をあげそうになったエレシアの口を咄嗟に塞ぐ。もごもご、と話すエレシアに笑って手を離すと、不満げにこちらを見て小声で話しかけてきた。
「もう!後ろから驚かすなんてひどいです!」
「はは、ごめん」
「うぅ……」
「それで、何の本を読んでたの」
ぷく、と頬を膨らませるエレシアに微笑ましさを感じながらそう尋ねると、気持ちを入れ替えるように一息ついて本の背表紙を見せてきた。
「『魔術理論Ⅲ』です。最近イオリとラファがよく話しているので、私も勉強してみたくなって」
「そうなんだ」
確かに最近よくラファと暇さえあれば魔術について討論を交わしていた。それを聞いていて興味が湧いたということだろう。
「私はこの本を買おうと思ってますけど、イオリはもう何か買ったんですか?」
「あぁ。『異世界への考察』という本があったから買ってきた」
「そんな本があったんですか!それは為になりそうですね」
「あぁ」
嬉しそうに顔を輝かせるエレシアに僕は頷く。この前ラファが話してくれた情報以上のものが書いてあるといいが、と思いつつ早く読みたくて体がうずうずしていた。
「ふふ」
「?何」
「イオリが珍しく楽しそうに見えて」
「……そうかもしれない」
自分では無表情でいたつもりだったが、バレていたことに若干の気恥ずかしさを感じる。僕はその場を仕切り直すようにんん、と小さく咳払いをしてからラファたちを探しに行こうか、とエレシアの手を引いた。
その後、マゼンタは流行りの小説コーナーに、ラファは隣の魔術に関するコーナーにいたのを発見した。それぞれ好きな本を購入したのを確認した後、本屋を後にした。
「いやー、久しぶりに本なんて買ったよ」
「マゼンタは普段本は読まないの」
「読まないねぇ。本屋自体行かないしねぇ」
というマゼンタ。聞けば、この世界では本は高価なものとして捉えられているので娯楽として気軽に購入することはお金に余裕のある人たちだけだということらしい。マゼンタやラファはBランクでそれなりに稼いでいるから話は別らしいが。
そんなことを聞きながら歩いていると、あっという間に宿へと戻ってきていた。宿の部屋に入ってからは、またそれぞれ好きな作業に戻る。僕は買ってきた本を読みたい気持ちがあったけれど、まずはナノヤさんに手紙を書いてみることにした。
デスクに向き直ってペンを握る。最初は何を書くか迷ったものの、素直に思ったことや近況報告をすることにした。
『ナノヤさん
お久しぶりです。その後お元気に過ごされているでしょうか。最近の様子が気になり、こうして筆を取りました。
僕は今ワークスの街にいます。旅の途中、ギルドの依頼を受けてお金を得ながらここまで来ました。あれからギルドランクもCになったので、最近は短い期間でCになった冒険者がいるようだと周囲から目立っているのが悩みです。
旅の中で、獣人の女性と情報屋をしているというハーフエルフの男性と出会い仲間になりました。彼らはとても気の良い人たちなので会えばナノヤさんも気にいると思います。
もちろんエレシアも元気です。彼女には本当にいつも助けられているし、最近は彼女の笑顔にとても癒やされている自分がいます。きっとナノヤさんたちもこんな気持ちだったのだろうなと想像しています。
これからもギルドの依頼を受けながら、中央図書館を目指します。まだ僕の欲しかった情報は集まっていませんが、焦らず収集していこうと思っています。ナノヤさんも何か情報があれば連絡いただけると嬉しいです。
今仲間たちと旅をしている中で、世界には初めて知ることや見るものがあって僕はとても楽しいと感じています。ナノヤさんに拾っていただいたこの命、これからもめいっぱい楽しんでいこうと思っています。
最後になりましたが、これからもご家族とお元気にお過ごしください。旅を終えてまた会える日を楽しみにしています。
イオリ』
カタッ。ペンを置いて、手紙の文章を点検する。誤字脱字がないのを確認して、二つ折りにして封筒に入れた。のりをつけて封を閉じて一息つく。チラリと3人を見るとそれぞれ好きな作業に取り組んでいたので、僕も大人しく先程購入したばかりの本を読むことにした。
収納袋から「異世界への考察」を取り出し、ページを捲る。そのまま僕は本の世界に没頭していった。
どれぐらいの時間が経ったのか、集中して読んでいたので1冊が読み終わる。その1冊の内容を要約するとこうだ。
『異世界からやってきた人間のことは稀人と呼び、数百年から数千年の単位でこの世界に現れている。彼らは稀人であると同時に勇者とも呼ばれ、世界の危機に立ち向かう存在である。世界の危機とは、前回の300年前は魔物の大量発生、その前の1000年前は封印されたドラゴンの討伐という記録が残っている。稀人は決まって地球という世界から、この世界を創造した女神イルヴェールによって召喚され、使命を果たしたと言われている。使命を果たした後は、元の世界に戻ることは叶わずこの世界で生を終えることになると言われている。資料が少ないため確実ではないが、稀人は使命を果たすため、特殊な能力を持ってこの世界へとやってくることが多い。それは魔力量が多かったり、魔術適正属性が多かったり、剣術が得意だったりと様々。それらの能力は元からあったものなのか、それともこちらの世界にやってくる時に得たものなのか、謎は多い』
……ということだ。ラファから聞いた話と同じものもあれば、興味深い考察もあった。特に『稀人は使命を果たすため特殊な能力を持ってこの世界へとやってくることが多い』という部分だ。
クロアドールの街で調べた通り、僕は火・水・風・地・雷・闇の6種類と数的にも種類的にも珍しい魔術適正を持っているし、魔力量もおよそ130万と通常の魔術師の4300人分を持っている。これが特殊な能力というのであれば、確かに本の通り辻褄は合っていると思った。
あと気になることといえば、『使命を果たした後は、元の世界に戻ることは叶わずこの世界で生を終えることになると言われている』という部分だ。この考察によると、僕はもう二度と地球の日本の地は踏めないということになる。これは作者の考察なので確定事項ではないが、これまでにも感じていた漠然とした不安感が増したのは確かだった。思わずギュッと心臓のあたりを掴んでその不安感に耐える。そして一つゆっくりとため息を吐いた。
ともあれ非常に読み応えのある本だった。僕は気を取り直すように腰をグッと伸ばしてストレッチした後、みんなに紅茶でも淹れるかと立ち上がった。部屋に備え付けてあるキッチンでお湯を沸かし、4つのティーカップに注ぐ。お盆に並べてテーブルへと運ぶと、座って本を読んでいたラファが顔を上げた。
「みんなそろそろ休憩にしないか」
「そうだね」
「あ、じゃあさっき買ってきたお菓子も食べませんか?」
「いいねぇ」
ベッドに座って本を読んでいたエレシアがお菓子を持ってテーブルへとやってくる。マゼンタも手入れをしていた剣をしまってテーブルへとついた。4人揃ったところでエレシアのお菓子に手を伸ばす。お菓子は日本でいうマドレーヌのようなもので、ほんのりレモンの味がした。そのレモンの味から、日本にいる頃翔と行ったカフェを思い出す。そこはレモネードやレモンのデザードなどが人気の店で、学校帰りに寄った記憶がある。今では懐かしいその思い出を振り返りながら、僕はお菓子をごくりと飲み込んだ。
「……このお菓子は何ていう名前なの」
「ジェーヌです。初めてジェーヌさんという方がこのお菓子を作ったからその名前が付けられたそうですよ」
「へぇ」
初めて作った人の名前が付けられるのはこの世界でもよくあることなのだな、と僕は心の中で思いながら紅茶を啜った。
「そういえばイオリ。昨日の夜情報を集めに行ってきたんだけど、中央図書館には異世界に関する本が置いてあるらしいよ。なんでも稀人本人が執筆したもので、題名は『異世界手記』だって」
「そうなのか。助かる、ありがとう」
「いえいえ」
にっこりと笑うラファにそう返して、僕は中央図書館まではあと3週間くらいかな、と地図を思い浮かべた。歩いて行くだけならもっと早く着くだろうが、それぞれの街で依頼を受けたり買い物をしたりするとそれぐらいかかるだろうと思ったのだ。
その後、紅茶を飲みながら明日は依頼を受けに行くことに決め、しばし雑談を楽しんだ。
◇◇◇
それから3日間、ワークスの街に滞在したが、そろそろ次の街に行こうということになった。僕たちは朝早くから出発することにして、今は次の街を目指して森の中を歩いているところだった。
時折やってくる魔物を倒しながら進んでいくと、ふとラファがこちらを振り向き、
「そういえばさ。ワークスの街にいる時に他の情報屋から聞いたんだけど、最近話す魔物が現れたって本当?それに君たちが関わってるって聞いたんだけど」
「……」
思わず3人で顔を見合わせる。マゼンタに目で合図され、仕方なく僕が口を開いた。
「……それ、どのぐらい話が広まってるの」
「今のところ一般人には伝わってないよ。俺ら一部の情報屋ぐらいかな」
「一応ギルドの第一級優先事項だったはずなんだけど……」
「そんなもの、ギルドがいくら隠したって怪しい動きをしてればすぐバレるってもんだよ。ってことは、君たちが関わってるのは本当なんだね」
「あぁ。話す魔物を最初に見つけたのは僕とエレシアだから」
「そうなんだ。魔物はどういう風に話すの?」
一瞬そこまで話していいか躊躇ったものの、ラファのことはここまでである程度信頼している。とはいえ一応釘を刺しておくことにした。
「……ギルドからも口止めされてる。誰にも話すな。例え他の情報屋に聞かれても」
「わかったよ。最初に君たちが周りに話しておきたくない事柄は話さないって約束だったからね。誓うよ」
「その言葉を信じる。……そうだな、魔物は『人間、倒す』『痛い』とか話していたな」
「えっ、そんなはっきり話すんだ。それじゃイオリたちの聞き間違いってこともないね」
「あぁ」
「へぇ……何かこの世界に異変でも起きてるのかね」
その言葉にドキッとする。この話題は僕がこの世界にやってきた理由と関係しているかもしれないからだ。
「最近は魔物が群れで行動してるとこも頻繁に見られるようになったとも聞いたからねぇ。その辺も異変っちゃ異変だねぇ」
「確かにそうだね」
と話すマゼンタとラファに沈黙を返す。下手に何か返すと思わぬことを言ってしまいそうだったからだ。無表情のままそんなことを考えていると、隣を歩いていたエレシアがあっ、と声を上げた。
「魔物が来たみたいです」
「おっ、じゃあ倒さないといけないさねぇ」
話題が切り替わったことに内心ホッとしつつ、戦闘態勢に移る。その後問題なくCランクの魔物8匹を倒した僕たちは、そのまま前へと歩みを進めた。
その日は魔物の襲撃が多かったためなのか暗くなるまでに次の街まで辿り着けなかったため、野宿をすることになった。
マゼンタとラファがテントを組み立てている間に僕とエレシアは食事の準備をする。水魔術で水を鍋の中に入れ、乾いた干し肉と野菜を入れ、調味料を入れて簡単なスープを作る。その間にエレシアは僕が前に教えてからハマってしまったらしいサンドイッチを作っていた。
食事の準備が終わると、灯り代わりに火魔術で起こした焚き火の周りに集まって、出来上がったばかりのスープを注いだ。食べている最中、ラファが再度問いかけてくる。
「というか、君たちもだいぶ気を抜いてるよね」
「何が」
「エレシアちゃんは使えるのは風と光属性だけのはずなのにさっき火魔術を使ってたし、イオリもこの前窓から飛び降りた時に使えないはずの風魔術を使ってたしさぁ。俺に情報を売られちゃったら困るんじゃないの?まぁ今のところ売ってないけどさぁ」
と呆れた顔をするラファに僕は笑った。すると彼はムッとした様子でスープをスプーンで掬ったまま動きを止める。
「忠告してくれたんだろう?ありがとう、これからは気をつける」
「うっ……その笑顔はズルいって……」
とブツブツ呟くラファにもう一度笑って、
「実は僕は火・水・風・地・雷の5属性と、闇属性が使えるんだ」
「私も5属性と、光属性が使えます」
と僕の言葉にエレシアも続くと、マゼンタもラファも心底驚いた表情をした。
「えっ、イオリ闇使えるの!?」
「あたしは魔術適性がどれもからっきしだから魔術には詳しくないけど、それって相当凄いことなんじゃないかい?」
「凄いどころじゃないよ!一つのパーティーに光と闇両方揃ってるなんて見たことも聞いたこともないよ!しかも5属性全部なんて!」
「でもラファは5属性使えるんだろう」
「それはハーフエルフだからっていうのが影響してるからだよ。普通の人間でそんなに属性が多い奴なんていないよ」
「そうか」
「はぁ……」
なんだか疲れた様子で頭を抱えてしまったラファ。彼はそのままゆっくりと顔を上げると、
「じゃあ今このパーティーに5属性使えるのが3人いて、さらに光と闇も使えるってわけだね。最強だよ」
「心強いじゃないか」
「心強いどころじゃないよ……」
「一応僕もエレシアも他では隠しているから、これも他には言わないでくれ」
「言われなくともわかるよ!そんなの周りに知られたら人目が集まって冒険どころじゃなくなるよ」
正直ラファがここまで興奮する理由がわからなかった。とにかく5属性と希少属性持ちは相当珍しい存在なのだな、と実感した。
「はぁ……とんでもない人たちとパーティーを組んじゃったな、俺」
「ははっ」
もはやスープを放ってそう話すラファに僕は声を立てて笑った。
「それ!それもだよ!イオリの笑顔はなかなか見られない貴重なものなんだから、他で誰彼構わず振りまいちゃダメだからね!」
「ふふっ。ラファ、イオリのお父さんみたいです」
「お、お父さん!?お兄さんじゃなくて!?」
「ふふ」
とエレシアが笑ったところでもうダメだった。僕たち3人はお腹を抱えて笑う。しばらくムスッとした顔でそれを見ていたラファも、やがて僕たちの笑い声につられて笑い出した。4人で笑い合いながら、こんなに笑ったのはこの世界に来て初めてかもしれないな、と僕は心の中で呟いていた。
◇◇◇
それから順調に進み、次の街、アイルの街に辿り着いた。ここまで来れば中央図書館まであと街はここも含めて2つとなる。いつものように正門で手続きを済ませると、一旦マゼンタたちの選んだ宿に荷物を置きに入った。今日はお昼前には街に着くことができたため、昼食がてら店を見て回ろうということになったからだった。
「あれは?」
「あぁ、あれは……」
目についたものをラファに尋ねながら街の中を進んでいく。するといつの間にかこの街のギルドの目の前へとやって来ていた。なんとなくそこで立ち止まると、マゼンタが振り返り、
「そういえば、そろそろイオリとエレシアもBランク昇格の話が出てもおかしくない時期だろうねぇ」
「確かにそれなりに依頼の数はこなしてきたんだろうしね」
「Bランク以上に上がるには試験が必要だって聞いたけど」
「そうさねぇ。ギルド員と戦ってランクに相応しいか判断されるのさ。それに合格したらBランクさね。挑戦は何回でもできるよ」
「ふぅん」
聞けば、Cランクまでは依頼達成の数などを見て自動的に昇格することができるが、Bランク以上からは正確な個々の実力が求められるため試験が必要となるということだった。ちなみに、マゼンタもラファもAランクの試験を受けるようギルド側から言われたことがあるものの、Aランクに上がるのは面倒で試験を受けていないのだそうだ。
世界には全部で5つの大陸があるが、Aランクというとこの大陸でも3桁に届くか届かないかくらいの数だと言われている希少な存在なのだ。そのためAランク合格者が現れた時は街を上げてのお祭りとなるらしいので、あまり面倒事を好まない2人としては面倒を避けたいといったところだろう。
「マゼンタとラファと同じランクになっておくのもいいかもしれないな」
「そしたらギルド側から声かけられたら試験を受けるんだよ」
「わかった」
エレシアも同意のようで、頷いている。マゼンタとラファによると、僕とエレシアは既にBランク中位程度の実力は持っているとのことなので、試験を受けたら問題なく合格できるだろうとの話だった。
「この街でどんな依頼があるのか、ちょっと見ておこうかね」
「そうだな」
大体依頼の出ている内容を見ることでその街のギルドのレベルがわかるとされている。高ランクの依頼が多ければ多いほど、それだけ高ランクの冒険者も多いということなのだ。この街のレベルはどれくらいなのか見ておこうということで、僕たちはギルドへと寄ってみることにした。
ギルドの扉を開けて掲示板へと4人で歩いて行くと、ギルド内部から視線が集まる。もうこれはどこに行っても同じことなので、半ば諦めつつあった。
「どれどれ……ふぅん、なかなかじゃないか」
「お、Aランクの依頼もあるよ」
「Aランクの依頼?」
「そう、これだよ」
これまでにAランクの依頼というのは見たことがない。思わず首を傾げると、ラファが一枚の紙を指差した。
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▪️対象ランク:A
▪️依頼目的:討伐
▪️討伐対象:メタルモンスター1匹
▪️達成日時:5の月25まで
▪️達成報酬:白金貨75枚
▪️依頼者:ギルド
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「Aランクともなると報酬も桁違いなんだな」
「それだけ難しいってことなんですね」
「そうさね」
「確かこの街には今Bランクの冒険者が何人もいたはずだから、そのせいじゃないかな」
「ふぅん」
とするとこの街のレベルは高いということになる。
そんな話をしていると、マゼンタがあ、と声を上げて左の方の紙を指差す。
「今日はさすがに無理だけど、これ受けたいねぇ」
「どれですか?」
「これ」
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▪️対象ランク:B
▪️依頼目的:盗賊討伐
▪️対象:盗賊ニーグルム・フェールム団(計26人との情報あり)
▪️達成日時:無期限
▪️達成報酬:1人につき白金貨9枚
▪️依頼者:ギルド
▪️特質事項:①盗賊の生死は問わない。
②2パーティー以上で行くことを推奨
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「あたしはさ、誰かのものを盗むっていう盗賊の根性が気に入らないんだよ」
「マゼンタらしいな」
ふん、と鼻を鳴らしながら話すマゼンタにそう返す。普段は適当にしているが、案外正義感の強いマゼンタらしいと思ったからだ。そして僕は依頼用紙の1番下を指でなぞる。
「それで、この特質事項の2パーティー以上で、ってところは?」
「あぁ、それは1パーティーだと荷が勝ち過ぎるから、2パーティー以上合同で行くように、ってことだよ。まぁさすがに26人もいたらいくら実力があったとしても取り逃すこともあるだろうからね」
「なるほど。でもそんなにすぐパーティーって見つかるの」
「受付にこれを受けたいって伝えておけば、同じように受けたいパーティーとギルドが引き合わせてくれるよ」
「へぇ」
複数パーティーで依頼に取り組むこともあるのだな、とぼんやり思う。ともあれ、僕たちはこの依頼を受けてみることにしたので、受付に並んで声をかける。
「こんにちは。本日のご用件を伺います」
「こんにちは。この依頼を受けたいのですが」
「かしこまりました。……既に1つのパーティーがこちらの依頼を受けたいと希望されているので、これで条件は達成となります。そちらのパーティーにも連絡を取らせていただくので、少々お待ちください。後ほど連絡がつき次第宿まで連絡にあがります。現在宿泊されている場所はどこでしょうか?」
先ほど出てきたばかりの宿の場所を教える。すると受付嬢は宿の場所を知っていたようで、1つ頷くとわかりました、と答えた。
「では後ほど連絡にあがります」
「よろしくお願いします」
受付から離れて、ギルドを出る。宿へと戻る道中、相手はどんなパーティーかね、などと話しながら歩いた。
◇◇◇
その日の夜、そろそろ夕食を摂りに出ようかと準備をしていると、宿の部屋がコンコン、とノックされた。
「はい」
「ギルドから参りました、ヘルと申します」
「あぁ、今開けます」
外から聞こえる声に昼間の件か、と納得しているとラファが立ち上がってガチャリ、とドアを開ける。廊下を覗き込むとギルドの制服を着た1人の若い男性が立っていた。
「お休みのところ失礼します。盗賊討伐の依頼の件で、もう1つのパーティーと連絡が取れましたので報告に参りました」
「はい」
「ついては明日、顔合わせをしようと考えておりますので朝10時頃にギルド受付までお越しください」
「わかりました、ご連絡ありがとうございます」
「それでは失礼します」
丁寧に頭を下げる彼に僕たちも会釈を返す。パタン、とドアを閉めるとラファは僕たちの方に向き直った。
「だってさ」
「明日ってことはギルド側も結構急いでるんだねぇ」
「それだけ盗賊の被害が大きいってことですかね」
とマゼンタとエレシアが話す。そんな中、僕は自分が多少ワクワクしていることに気づいた。
「あまり他の冒険者とも話したことがないし、少し楽しみかもしれない」
「そりゃ良かったねぇ」
「でも、あんまりいい冒険者ばかりとも限らないからね。二つ名持ちってだけで敵意を向けてくる冒険者だっているしね」
と話すラファはこれまでに経験したことがあるのかもしれない。苦々しい顔で肩をすくめていた。聞けばマゼンタも複数パーティー間での合同依頼に参加したことがあるようで、ラファと同じく遠い目をしていた。
「まぁとりあえず明日の予定は決まったんだ。早く食べて早く寝ようさね」
「あぁ」
ということで全員立ち上がり、1階へと向かった。
◇◇◇
次の日、盗賊討伐の依頼を受けるにあたって別パーティーと顔合わせをすることになった僕たちは待ち合わせ時間より前に着いた。受付に行くと、まだ別パーティーは来ていないということだったので、脇にどいてそのまま立ち話に移行する。しばらくすると、受付嬢から声がかかった。
「イオリ様。別パーティーの方々が揃いました」
「はい」
受付へと近づくと、6人の若い男女が立っており、僕たちを見つめていた。僕はここに来るまでに被っていたローブのフードを下ろした。
「やぁ、君たちが俺らと依頼を一緒に行ってくれるパーティーかい?俺はパーティーリーダーをしているウルドだ。気軽にウルドと呼んでくれ。ランクはBだ。……それにしても氷王子に蒼槍、疾風のマゼンタに銀の聖女とは豪華なメンバーだね」
「はじめまして。パーティーリーダーのイオリと申します。Cランクです。よろしくお願い致します」
「マゼンタ、Bランクだよ」
「俺はラファエル、ラファでいいですよ。Bランク」
「エレシアです、Cランクです」
友好的な笑みを浮かべて手を差し出す20代後半ぐらいに見えるウルドさんの手を握り返す。次いで自己紹介を行うと、ウルドさんも自分のパーティーメンバーを紹介するように右手を広げた。
「紹介ありがとう。こっちが俺のパーティーメンバーだ」
「ギョームだ、ランクはCだ。よろしく頼む」
そう言って前に出てきたのは金属鎧を着込んで大斧を担いだ20代後半ぐらいの大柄な男性で、ニカッと気持ちの良い笑みを浮かべていた。
「リンです、Cランクです。よろしくお願いします」
次に出てきたのは身の丈ほどの杖を持った小柄な20代前半くらいの女性で、静かに頭を下げている。
「あたしはアトラだよ!ランクはC、よろしく!」
続いてはボーイッシュな髪型と服装をした10代後半くらいの女性で、両腰に剣を吊り下げている。
「俺はノルン。Bランク」
続いて腰にレイピアを下げ無表情のまま頭を下げる20代前半くらいの長身痩躯の男性。
「……ムトだ。Cランク」
最後に出てきたのは左腰に剣を下げている中肉中背の20代半ばぐらいの男性だ。何故かはわからないが僕の方を睨みながら紹介をされた。知らないうちに何かしてしまったのかもしれない、と不思議に思っているとウルドさんが全員を見渡し、
「2パーティー合同で依頼を受けるにあたって、指揮が混乱しないように全体のリーダーがいた方がいいんじゃないかと思うんだけど、どうする?」
「でしたら僕は合同依頼を受けたことがありませんし、ウルドさんにお願いしてもよろしいですか」
「はっ。合同依頼も受けたことないのかよ。大体なんでCランクのお前がパーティーリーダーなんだよ」
「ムト!」
僕がウルドさんにお願いをすると、ムトさんが横からボソッと呟いて噛み付いてきた。本当に何故敵意を向けられているのだろう。
「すまないね、イオリ。いつもはこうじゃないんだけど……」
「いいえ。事実ですから」
「じゃあ今回は俺が全体のパーティーリーダーということでいいかな?」
異義なし、と全員が頷く。それを見て微笑んだウルドさんが話し始める。
「今日は中途半端な時間だし、用意もあるだろうから討伐は明日にしようか」
「そうですね」
「後は達成報酬の分配はどうする?」
「それは全員等分でいいんじゃないかい?余った分は多く倒した人に渡すとか」
「そうだね……」
ウルドさんとラファ、マゼンタが話している間、ふと彼らのパーティーを見るとムトさんが頬を赤くしているのが見えた。何気なく視線の先を追っていくと、マゼンタたちの話を真剣な表情で聞いているエレシアがいる。おや、と思った僕は思いつきでエレシアの右手をおもむろに取って握ってみた。
「イ、イオリ?どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
「そ、そうですか……」
顔を赤くして俯くエレシアを微笑んで見つめていると、横からムトさんが僕のことを射殺しそうな目で睨みつけているのを感じる。これはあれだな、と僕は確信した。
「……じゃあそういうことで」
「そうだね」
と、そんなことをしているうちに話が終わったようだ。僕たちは明日の再会を約束して、そのまま解散した。最後までムトさんに睨みつけられながら。
とはいえ装備の用意と言っても特にすることもないため宿に帰った僕たちは、4人でお茶にすることにした。
「イオリ、ムトさんにすごい睨まれてましたね」
「それはあれだねぇ」
「あれだね」
「あれだな」
「え!?あれってなんですか?」
どうやらマゼンタとラファも気付いていたようで僕たちは顔を見合わせ、それにエレシアが焦ってティーカップをテーブルに置く。僕がチラリとマゼンタに合図すると、やれやれ、というように肩をすくめながら説明してくれた。
「あれはね、ムトはエレシアに惚れてんだよ」
「え!?私ムトさんと話したの今日が初めてですよ?」
「そりゃ知ってるさね。大方一目惚れでもしたんじゃないかい」
「一目惚れなんて……」
「君はいい加減自分が美しいということを自覚した方がいいな」
「なっ……!」
困った顔をするエレシアに、思わず僕が横から口を挟むと、エレシアは一気にその白い肌をボッと赤くした。
「そ、それを言ったらイオリもです!ギルドでローブのフードをとった瞬間、リンさんもアトラさんもイオリに見惚れてました!」
「そうなの」
「2人とも鈍感だねぇ」
「いや、そういうマゼンタとラファだって美形でしょ」
「あんたたちには負けるよ」
呆れたようにそう首を横に振るマゼンタに黙り込む。何故この話の流れになったんだろうか。そうだ、と思い出す。
「とにかく。ムトさんが君を気に入っていることは確かだ。エレシアはどう?エレシアがムトさんを気に入っているなら僕たちの恋人設定は一回無しにしようと思っているんだけど」
「私は……ムトさんのことは何とも思っていませんのでたとえ告白されてもお受けできません。ですから、イオリ。恋人のフリを続けてもらえませんか?」
「君がいいならいいよ。じゃあいつも通りで」
「はい」
ということでムトさんには悪いが、積極的に僕たちが恋人であるアピールをしていこうということに決まった。
「まぁイオリたちは普段通りで大丈夫だよ。そしたら自然と諦めるよ」
「そうだといいんだけど」
あまり面倒なことにならなければいいが、と今思うとフラグになりそうなことをこの時の僕は思っていた。
最近筆がよく進みます。




