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きっと、僕の魂が覚えてる。  作者: 長月
第一章
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旅の途中で〈8〉


 

 それから3日間ダンジョンに(こも)り続け、いよいよ今日あたりにはダンジョンの最後まで辿り着けるだろうというところまで来ていた。今も4人でゴールに向けて魔物を倒しながら順調に進んできているところだ。


「普通ダンジョンのゴールってどんな風になってるの」

「大抵ボスの魔物がいるね。そいつと闘って勝てば、宝箱が出てきて何かアイテムがゲットできるのさ」

「へぇ……それは面白そう」

「だろ?ついでに宝箱は何が出てくるか一切規則性がないからそれもワクワクするんだよな、何が出るかって」

「なるほど」


 ランダムにアイテムが出現するということか。僕が頷いていると後ろで歩いているラファが、


「例えば珍しい魔術書だったり、何に使うのかもわからない魔道具とか、はたまためちゃくちゃ強い装備とか、いろいろ出てくるよ」

「へぇ」


 そんな会話をしながら進んでいくと、特に魔物に出くわすこともなくやがて大きな扉のついた部屋らしきものの前にたどり着いた。

 部屋の前には灯りが左右2つ灯っている。


「ここがボス部屋か」

「そうみたいだねぇ」

「扉を開けるとボスがいるの」

「そうだよ」


 ということで、それぞれ武器を手に持ち扉に手をかける。目を合わせて頷き合って、腕に力を入れてドアを開けた。


ーーギィィィィ…………


 重苦しい音を立てて開いた扉の奥、何かがいる。全員で一歩中に足を踏み入れると、一斉に中の部屋に灯りが灯った。

 灯りに照らし出されたのは、岩でゴツゴツした顔と身体をもつ3メートルほどの大きさのゴーレムだった。ゴーレムは魔術によって強制的に行使されている存在であるため、その息の根を完全に止めるまで無尽蔵に動き続ける厄介な魔物だ。

 僕は黒剣をチャキ、と握りしめて振り返らないまま言った。


「僕とマゼンタが前に出るからラファは遊撃を頼む。エレシアはいつも通り魔術で攻撃してほしい」

「「わかった」」

「わかりました」


 3人の返事が返ってきたのを聞いて、僕はおもむろにゴーレムに向かって走り出す。その際左手に氷槍(アイススピア)を準備して、いつでも発動できるようにした。

 ゴゴゴゴ……と岩が擦れ合う音を立てながら腕を振り上げるゴーレムの真下まで走り抜け、ゴーレムの目の部分に向かって氷槍(アイススピア)を発動させる。見事に突き刺さりガアア、と声を上げるゴーレムを尻目に僕は左足の関節部分を狙って剣を斬り上げた。キィン、という音を立てて関節に傷がつく。そして次も同じ部分を狙って再度斬り上げた。すると今度はギィン、と音を立てて関節部分が断ち切れる。ガシャア、と膝から崩れ落ちるゴーレムの背中に回って、その背中にも剣を叩きつけた。

 マゼンタも右足の関節を切り落としたのか、3メートルほどあったゴーレムの身長がぐっと低くなる。そのため僕はゴツゴツした背中を駆け上がってゴーレムの首を切り飛ばした。そして素早くその背中から飛び降りる。その間にもラファとエレシアが左手と右手をそれぞれ切り飛ばし、はね飛ばしていた。両手足を失い、頭も失ったゴーレムはズン……と重い音を立てながら地面に崩れ落ちた。衝撃で砂嵐が吹き荒れる。

 それを着ていたローブで防いで、顔を上げるとゴーレムは完全に沈黙していた。


「……倒せたみたいだな」

「そうだね」


 僕が近寄ってそう声を上げると、他の3人も近寄ってきてゴーレムの落ちた顔を覗き込む。それが完全に沈黙しているのを確認すると、僕たちは揃ってホッと息をついた。


「なんというか、あっさりボスの魔物も倒せたね」

「そうだな」

「このメンバーだと簡単すぎてつまらないねぇ」

「まぁいいじゃないですか、誰も怪我がないのが1番ですよ」


 と4人で会話をしてゴーレムの頭を収納袋にしまう。すると一瞬だけ部屋の灯りがユラッと揺れて、


「あ、ほら、宝箱が出てきたよ」

「……本当だ」


 マゼンタの指差す方には、先ほどまで何もなかったところに50cmほどの大きさの赤い宝箱がいつの間にか出現していた。4人で近寄って宝箱を見てみる。


「イオリ、開けてごらんよ」

「わかった」


 鍵も何も付いていない宝箱の蓋に手をかけ、上にぐっと押し上げる。錆びついた音を立てて開いた宝箱の中には、1冊の黒い本がポツンと置かれていた。


「おそらく魔術書だね」


 そう言うラファの声に従って、本を手に取る。パラパラと中をめくると、確かにそれはさまざまな魔術の種類が書かれた魔術書だった。


「それはあんたたちで使いなよ。あたしは魔術はからっきしだからね」

「そう?じゃあ交代で見ようか」

「あぁ」


 マゼンタはいらないと言うので、他3人で回し読みをすることに決まる。そして僕が魔術書を閉じて立ち上がろうとした瞬間、ふいに宝箱がピカッと光って魔法陣を僕とエレシアの下に映し出した。


「は……」

「えっ」


 困惑する僕たちをよそに、魔法陣はグルグルと回って徐々に輝きを増していく。すると身体の力がふっと抜けていくのがわかった。パタンと魔術書が手から零れ落ちる。


「イオリ!?エレシア!?」

「どうしたの!?」

「…………」


 マゼンタとラファが慌てて僕たちの身体を支えてそう尋ねてくるが、口が動かない。僕はそのまま意識を失った。




◇◇◇




 気がつくと、そこはいつもの夢で見る真っ白な空間で、僕はそこに横になって倒れていた。ただしいつもと違うのは、僕の横にエレシアが倒れている点だ。僕は何が起きているのかわからないながらも、座り込んでエレシアをそっと揺すった。


「エレシア、エレシア。起きて」

「……ん、ぅ……イオリ?ここは……」


 やがて翠の瞳を開けて上半身を起こしたエレシアも、今いる場所に混乱しているのか眉をひそめている。


「ここは……あの夢の中と似た景色ですね」

「僕もそう思う」


 ここにはマゼンタとラファはおらず、僕たち2人だけ。さらに言えば、あの夢を見ていたのも僕たち2人だけ。奇妙な必然性を感じずにはいられなかった。

 そのまま2人で座り込んだまましばらく途方に暮れていると、目の前に光る球がふっといつものように現れた。ピカピカと明滅するそれは夢の中の時よりも二回りほど大きいように感じる。

 思わずエレシアと顔を見合わせていると、中性的な声の主が、


『異世界からの勇者様。今回はあなたとお話するためにこんな形でここに呼び出させていただきました。……どうかこの世界を救ってください。あなたはこの世界の勇者として召喚されました。かつてと同じくあなたが世界を救っていただけると(わたくし)は信じております』


 と、これまでと違うハッキリとした口調で告げてきた。僕はその言葉に引っかかるものを感じ、


「あなたが僕をこの世界に召喚した女神ですか」

『そうです、勇者様よ』

「じゃあかつてと同じく、とは?」

『あなたはかつてもこの世界を救ってくださいました。だからあなたをこの世界へと呼んだのです』


 会話が噛み合っているようで噛み合っていないように感じる。エレシアはまだ混乱しているようでただ黙って首を傾げていた。

 僕が立ち上がって光に一歩歩み寄ると、光は僕が近づいた分だけ遠ざかっていった。


『今はまだ全てを話すことができないのです。しかしいつかは全てを知ることになるでしょう。その時までは……』


 そう告げた声が、だんだんと小さくなっていくのを感じる。


『どうやら時間切れのようです……また……たら……』


 声が遠ざかっていく。僕は思わずエレシアの手を握った。いつも通りであれば、この後僕は黒い闇の中に引きずり込まれるはずだ。

 しかし、今日は違った。すぐに意識が覚醒していくのがわかったのだ。


「エレシア……」

「イオリ……!」


 お互いに名前を呼び合いながら、意識が徐々に浮上していく。僕はそれに逆らわず瞼を開いた。


「……イオリ、エレシアちゃん!」


 ふっ、と目を開けるとラファが目の前に映った。どうやら僕は横になって、上からラファに覗き込まれている状態らしかった。


「良かった……目が覚めたんだね」


 ホッと息をついているラファをよそに、視線を泳がせる。横に向けると、ちょうどエレシアも目を開くところだった。


「エレシアも目が覚めたよ」

「良かったね……」


 そう言うマゼンタとラファの力を借りて、僕とエレシアはそれぞれ起き上がる。目が覚める前と同じここはボスモンスターの部屋で、灯りも同じように灯っている。


「僕たちはどれくらい寝てたの」

「30秒くらいだよ」

「そう……」

「いきなり2人して倒れるからびっくりしたさね」

「すまなかった」


 と僕が頭を下げると、ラファがゆっくりと立ち上がりながら


「でも、2人同時に倒れるだなんて……あの魔法陣も気になるし、一体何が起こったんだい?」

「………」


 不思議そうにするラファだが、今起きたことを話そうとすると僕が異世界から来たことも話さなければいけなくなる。僕とエレシアは素早くアイコンタクトを交わして、黙っていることにした。


「……よくわからない。急に身体の力が抜けたから」

「私にもわかりません。意識が急に遠のいてしまって」

「そっか」


 神妙な顔で頷くラファには悪いが、さすがにまだ話すことができない。するとマゼンタが心配そうな表情を崩さないまま、


「とにかく今日は2人とも早く休んだ方がいいねぇ。もう帰ろうか」

「そうだね」


 と4人で立ち上がり、僕たちはもと来た道を戻って宿に帰った。




◇◇◇




 宿に着くと、マゼンタとラファに強制的にベッドに押し込まれてしまった。


『とにかく休むんだよ!』

『大人しく寝ててね』


 という2人に従って、僕たちはいつものように同じベッドに入った。それを見た2人が安心したようにそれぞれ用事を済ませるため部屋を出ていくのを見送った後、僕はエレシアとの周りに盗聴防止結界を張った。


「今日のは不思議な体験だったな」

「そうですね、夢だったのかとも思いますけど、イオリも同じ体験をしている限り夢ではないですもんね」

「そうだな」


 夢の方がマシだったかも、とは思うけれども。


「やはり僕をこの世界に呼び出したのは女神だったみたいだな」

「はい、勇者様とも呼ばれていましたし、この前ラファが言っていたようにイオリは何かしらの使命があって稀人(まれびと)として女神に召喚されたと考えた方がいいと思います。ただその理由は今はまだ話せないみたいでしたが」

「そうだな」


 『今はまだ全てを話すことができないのです。しかしいつかは全てを知ることになるでしょう』という女神の言葉を思い出す。これから先、いつかこの世界に呼び出された理由を教えてもらえるのだろう。


「でもなぜあの場に関係ない私も呼ばれたんでしょうか……?」

「それも謎だな」


 そんなことを話していると、不思議とだんだん眠くなってくる。


「少し寝ようか……」

「そうですね……」


 2人でウトウトとしてくる。僕は盗聴防止結界を解いて、本格的に眠りについた。




◇◇◇




 目覚めると、マゼンタとラファがテーブルについて何かを話している。眠気を振り払うため目をパチパチと瞬いていると、マゼンタがこちらに気付いて声をかけてきた。 


「おぉ、イオリ。目ぇ覚めたのかい」

「ん……あぁ」


 エレシアと繋いでいた手をそっと(ほど)いてベッドから降りる。テーブルに着くと、


「体調は?大丈夫?」

「大丈夫。心配してくれてありがとう」

「それは良かったよ」


 と2人が心配してくれる。僕はそれに微笑んで頷いた。


「エレシアはまだ寝てるね」


 と小声で会話を交わす。僕たちはエレシアを起こさないよう、場所を移して食堂に行くことにした。

 食堂に着くと、2人はお酒を頼んで僕は柑橘ジュースを注文する。やはりまだお酒は飲む気になれなかった。


「ラファと話してたんだけど、明日はダンジョンには入らないでおこう。あんたたちを休ませてやりたいからね」

「ありがとう」


 マゼンタの言葉に頷く。僕も考えを整理するのに明日は休んでおきたかった。ラファは腕を組みながら、


「本当に夢の件といい、俺はイオリが心配だよ。いつか身体を壊さないかと思ってたけど。さっきの魔法陣だって見たことないものだったし、何か影響がないか心配だ」

「僕もあの魔法陣は見たことがないな」


 としれっと告げる。あれは女神があの空間に僕たちを呼び出すためのものだったとわかっているが、本当のことを告げるわけにもいかず咄嗟に半分だけ嘘をついた。


「そうだよね。でもイオリならあの魔法陣を暗記してるんじゃない?一緒に解読してみようよ」

「そうだな……」


 どうやら断れそうにないので、僕はその場でメモ用紙を取り出して先ほど見たばかりの魔法陣を記憶の通りに書き写した。魔法陣には召喚を意味する記号も含まれているのがわかる。僕は書き終わると、ラファの目の前に差し出した。


「これだ」

「さすがだね、あの一瞬で覚えてるなんて。……ん、これは……」


 とメモ用紙を片手に顎に手を当てるラファと一緒に覗き込む。


「これは召喚を意味しているな」

「そうだね。こっちはこれまでに読んだことのない文字だけど、何か空間を意味していそうだね」

「確かに。こっちは……」


 としばらくラファと白熱した議論を交わしていた僕は1人マゼンタが面白そうな顔で僕たちを観察していることに気づいた。


「……何、マゼンタ」

「いや、随分ラファとも仲良くなったなって思ってさぁ」

「あぁ……」

「なんかイオリといると楽というか、毒気が抜かれるんだよね。マゼンタもそうでしょ?」

「それはそうだねぇ」


 と会話を交わす2人を見回す。そう言う2人も出会った当初に比べて悪友感が増したと僕はこっそり思ったが口には出さなかった。


「エレシアちゃんも素直でいい子だしね」

「あの子はなかなかこの辺にいないぐらいいい子だからねぇ」


 マゼンタはそう言うとこちらに振り向いてニヤリと笑い、 


「それにしてもあんたたち、側で見てても本当に恋人同士みたいだしねぇ」

「……そう?」

「無自覚かい」

「これはなかなかだね」


 やれやれ、と首を振るラファ。それに釈然としないものを感じていると、ラファが


「だってイオリってばいつもエレシアちゃんのこと気にかけてるでしょ。そういうのも見てればわかるよ」

「それはもちろん一緒に旅に着いてきてくれてるから」

「それだけじゃない気がするけどね」

「……さっきから何が言いたいの」


 僕は勘が悪くはない。むしろ良い方だと思っている。なので2人が何を言いたいのかは何となくわかるが、僕が若干いらついた声を出すと、2人はさらにニヤニヤと笑っていやぁなんでもないよ、と誤魔化した。


「ふん……」


 僕がそれにじろりと視線を向けたところで、後ろに気配を感じた。振り向くとそこにはエレシアが立っていた。


「ごめんなさい、なんだか長々と寝ちゃって」

「いいんだよ、疲れてたんだろ。体調はどうだい?」

「寝たら元気になりました」

「それは良かった」


 と笑顔で答えて僕の隣に腰掛けるエレシア。その瞬間フワリと何かの花の香りがした。


「エレシア。明日はダンジョンに潜るのはやめて休ませてもらおうかって話をしてたんだ」

「そうなんですか?心配してくれてどうもありがとうございます」

「気にしないでいいんだよ」


 と笑顔で頷くマゼンタとラファ。それに安心したように微笑むエレシアに視線を向け、


「じゃあ明日はそれぞれ好きなように過ごすってことでいいか」

「賛成」

「いいよ」

「わかりました」


 3人が頷く。自分の言葉ですっかり僕が場を仕切っていることに気づいたけれど、このパーティーのリーダーは僕なのだと思い出して今更か、と開き直った。


「じゃあ今日はもう早めに食べてしまおうか」

「そうだねぇ」

 ということで早めに夕食を取り、その日も4人一緒の部屋で眠りについた。






今度転職をすることになり現在引っ越し中なので忙しく、更新も遅くなりそうです。

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