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きっと、僕の魂が覚えてる。  作者: 長月
第一章
22/39

旅の途中で〈5〉



 翌日、僕はエレシアと2人で警備兵の詰め所へとやってきていた。今日はギムルさんと盗賊たちの懸賞金を受け取る約束をしていたため、取りにやってきたところだった。マゼンタは途中で武器屋に用があるというので分かれていた。 

 僕は横を歩くエレシアに顔を向けながら、


「懸賞金て、普通どれぐらいなの」

「そうですね……私も今回盗賊を捕まえるのが初めてだったので詳しくはないんですが、その盗賊の有名度にもよるので、金貨3枚〜30枚ってところでしょうか」

「幅広いんだな」

「そうですね」


 ということは、ギルドの依頼以外で思わぬ臨時収入となりそうだった。

 詰め所へと着くと、自分たちの名を名乗ってギムルさんを呼び出してくれるように頼む。するとすぐにギムルさんが穏やかな笑顔を浮かべながらこちらにやってきた。


「おぉ、わざわざ来てくれてありがとう。渡しに行く手間が省けて助かるよ」

「いえ、このくらいなんとも」

「そうかい?こちらとしては助かったことに変わりはないんだけどね」

「こちらこそ、宿も教えていただいてありがとうございました。とても居心地が良くていい宿でした」

「それは良かった!あそこの宿はよく俺たちも使うからな。……それじゃ早速だけど、懸賞金の件だ。合計で白金貨60枚。首領が白金貨15枚、残りの9人がそれぞれ金貨5枚ずつだった」

「白金貨60枚?随分多いですね」

「あぁ、奴らはここらじゃそこそこ有名な盗賊団だったからな、懸賞金も跳ね上がっていたんだ。遠慮なく持っていってくれ」


 と言うと、ジャラ、と音が鳴る皮袋を差し出される。受け取るとずっしりと重みが僕の腕にかかった。日本円にして今60万円を手に待っていることに気づいて若干たじろいだ僕は、すぐに収納袋にお金をしまった。


「帰り道はお金を引ったくられないよう十分に気を付けなさい」

「はい、そうします。ありがとうございました」


 忠告してくれるギムルさんにお礼を言って、その場を離れる。僕たちはそのまま宿へと向かった。


「思ったよりいい金額だったな」

「そうですね。いい収入になりましたね」


 そんなことをエレシアと話しながら歩いていると、おーい、と手を振りながら向こう側からマゼンタが駆け寄ってきた。


「ちょうど会えたね。詰め所にはもう行ってきたのかい?」

「あぁ。金額は中で話そう」

「わかったよ」


 ひとまず宿に入り、部屋のテーブルに集まる。収納袋から皮袋を取り出してテーブルに乗せると、ジャラッとお金が擦り合う音がした。


「こりゃまた多そうだねぇ。いくらだったんだい?」

「首領が白金貨15枚、それ以外の9人が金貨5枚だから合計で白金貨60枚だ」

「60枚かぁ、そりゃまた稼いだね。じゃあ一人当たり20枚ずつだね」

「そうだな」


 頷いて、それぞれ皮袋から硬貨を20枚ずつ取り出していく。僕は残った分の硬貨の数を数えて間違いがないのを確認してから、また収納袋にしまった。


「これで久しぶりにいい酒でも飲もうかねぇ」

「マゼンタはお酒が好きなの」

「そうだよ、普段はあんまり飲まないようにはしてるけどね。旅に差し支えたらいけないからねぇ」

「なるほど」

 

 普段あまり飲んでいるところを見たことがなかったため質問すると、そんな答えが返ってきた。ちなみに、この国では成人は16歳となるため16歳から飲酒も可能になると言うことだった。つまり、僕もエレシアもこの国では成人扱いとなるわけだった。しかし、日本で飲酒といえば20歳からというのが常識だった僕は、なんとなくまだお酒は飲んだことがなかった。


「あんたも飲んでみたら美味しいよ?今度美味しい酒でも教えてやろうか」

「いや、まだしばらくは飲む気もしないからいいよ。ありがとう」

「ふん、そうかい」


 飲み相手が見つからずつまらなそうな顔をするマゼンタにエレシアが苦笑していた。


「……ところで、今日はこれからどうする?それぞれ好きなことでもするかい」

「いや、良ければマゼンタ。また訓練に付き合ってくれない」

「そりゃもちろんいいさ。あたしも相手になる奴がなかなかいなくて困ってたところだからねぇ。あんたもCランクになったしすぐBランクにもなれるだろ」


 そうなのだ、僕はつい先日ギンドランクがエレシアと並んでCランクに昇級した。Eランクからここまで短期間で昇級すると言うのはなかなかない話らしく、またギルド内で噂のタネとなってしまったのは頭の痛いことだった。

 確かに、マゼンタから”身体強化“という魔術書でも読んだ身体能力を上げる方法を教えてもらい、素早く動き回れるようになってパワーも上がった僕は、前より強くなれたとは思う。今はその調整をしている段階だった。


「ま、じゃあギルドに行くかね」

「よろしく頼む」

「私も行きますね」


 3人で行くことにした僕たちは、そのまま部屋を出た。



◇◇◇


 

 訓練を終えた後、僕たちは食堂で夕食を摂っていた。先ほどの宣言通り、マゼンタはお酒を飲んでいる。ただし、マゼンタはいわゆるザルらしく酔わないたちのようで、顔が赤くなるということも全くなかった。雑談を交わしながら平和に食事をしている中、その空気を壊す者たちが現れたのはもう少しで食事が終わるという頃だった。


「よぉよぉ兄ちゃん、いい女2人も連れてるじゃねぇか。俺たちにも貸してくれよぉ」


 若干呂律の回っていない様子でこちらに近寄ってくるなり話す男は、片手にビールを持っておりかなり酔っ払っているようだった。近くにいる彼の仲間と(おぼ)しき男たちもギャハハハ、と下品な笑いを零すのみで男を止める様子はない。


「おい兄ちゃん聞いてんのかぁ?」

「……聞いていますよ。ですが、彼女たちは貸せません」

「あぁ!?俺に逆らうってのか?このCランクのタグ様にかぁ!?」

「どなたか存じ上げませんが、お引き取りを」

「このっ……!」


 僕がそう返すと、タグと名乗った男が顔を酔いでなく怒りで真っ赤に染めた。片手に持ったビールジョッキを僕の頭に向かって振りかぶる。それに反応しようとしたマゼンタを片手で制して、僕は短く詠唱した。


氷結(フリージング)

「なっ……!?」


 逆さになろうとしていたジョッキが彼の手元からパキパキと音を立てて凍りはじめ、彼の片手ごと氷漬けにする。それに驚いた男が慌ててジョッキを手放そうとするが、ジョッキごと手が凍りついてしまっていたためできなかった。


「なっ、お前魔術師かよ!」

「えぇ」


 パチン、と僕が指で音を鳴らすと瞬間氷が溶けてジョッキが床に落ちる。バリン、と音を立てて割れたジョッキのことは気にせず、


「この野郎……!」


 男は今度は激昂(げっこう)して僕の胸ぐらを掴んできた。その力に逆らわず、椅子から立ち上がる。


「こいつ……舐めやがって!ふざけるなよ!」


 そういって殴ろうと振りかぶられた腕を短く詠唱して身体強化を発動し、パシッと逆手で受け止める。そのまま握っている拳を(ひね)ると多量の酒で震えている手はあっさりと僕から離れる。その隙に僕はくるりと半回転して男の(ふところ)に入ると、背負い投げの態勢に入った。


 ダァン!


 テーブルとテーブルの隙間の床に激しい音を立てて男が叩きつけられる音がして、ついでに僕の足元でジョッキの欠片をブーツがジャリ、と踏みつけた音がする。僕はふぅ、とため息をついた。


「これに懲りたら二度と僕たちに手を出すのはやめてください」

「イオリ、多分そいつ聞こえてないと思うよ」

「確かに……」 


 マゼンタの言う通り、男は完全に床に仰向けで伸びていて白目を向いている。それを仲間たちが慌てた様子で引きずっていくのを見ながら、僕はその場にしゃがみ込んで割れたジョッキの欠片を拾った。 


「あ、お客様!それは私たちがやりますから!どうぞお食事に戻ってください!」


 と、騒動の間顔面蒼白になって遠目に見ていた女性店員が慌てた様子で駆け寄ってくる。それにそっと手を差し出しながら、僕はそのまま拾う作業を続けた。


「騒いでしまった僕たちに責任はありますから。それに、あなたも怪我をしてはいけない」

「えっ……」


 下を向いて一生懸命欠片を拾っていた僕は、それに女性店員が頬を赤らめるのも、エレシアが不満げな顔をするのも、それを見てマゼンタが笑っているのにも気づかなかった。

 何はともあれ若干のいざこざがあったこともあって食堂でさらに注目を集めてしまった僕たちは、残りの食事を終えると早々に立ち去ることにした。


「すまなかった、騒ぎを大きくしてしまって」

「いいんだよ。あんたは私たちを庇ってくれたんだからね」

「そうですよ。むしろありがとうございました」

「……そうか」


 彼女たちを守らなければと思ってした行動は無駄ではなかったらしい。僕はほっと胸を撫で下ろした。


「にしても目立つってのも大変だねぇ。あたし1人で旅してた時はこんなことなかったんだけどねぇ」


 しみじみと言うマゼンタに、僕とエレシアは目を合わせて軽く頭を下げた。


「それは申し訳ない。僕たちと一緒にいる分注目が集まっているんだろう。それに僕たちはCランクでマゼンタよりもランクが低いし、喧嘩を売っても勝てそうに見えるんだろうな」

「あんたは私が稽古つけてるんだから弱いわけないのにね」

「それはみなさん知らないからですよ。イオリがどれくらいの実力なのか」

「それはそうだねぇ」


 と言っても、僕の実力なんて自分の身を守れる程度であってたかが知れている。本来は二つ名をつけられるほどのものではないのだ。ただ見た目で“氷王子”なんてつけられているだけで。


「とにかく今後もこういうことはあるだろう。お互い気をつけよう」

「そうだねぇ」

「はい」


 認識を新たにして、僕たちは雑談に戻った。



◇◇◇



 翌日、この街を出ることになった僕たちは正門へとやって来ていた。門番にギルドカードを見せると、門番が「ちょっと待っていてください!」と警備兵の詰め所へと走っていった。

 しばらく待っていると、奥からギムルさんが門番とともに駆け寄ってくる。


「やぁ、おはよう。もう出発するのかい?」

「えぇ。予定通りそろそろ次の街に移動しようかと」

「そうか、それは残念だ。盗賊を倒す実力のある者たちがいてくれればいつも心強いんだがね」


 と肩をすくめるギムルさんに、僕たちは微笑む。


「また何かあった時にはこの街に寄ってくれよ。歓迎する」

「ありがとうございます、お世話になりました」

「お世話になったのはむしろこっちだがね」


 ニコニコと笑うギムルさんと歩きながら、街の入り口へとやってきた。そこでギムルさんと門番が立ち止まったのを見て、僕たちは門の外に一歩踏み出した。


「では」

「あぁ、行ってらっしゃい」


 会釈してくるりと振り返る。街に背を向け、次の街へと進み始めた。

 次の街はここから約1週間のところにあるポパイという街だ。


「ポパイにはダンジョンがあるからねぇ。稼ぎどきさね」


 ダンジョンとは、直訳すると地下牢のことで、迷路に似た通路で中に魔物たちが出現する。その魔物たちを討伐すると、何かしらのアイテムをドロップできるというもののことだ。ギルドからも討伐依頼が出ているため、魔物を討伐すればするほど稼ぐことができるとマゼンタとエレシアから教えてもらった。


「ダンジョンか‥‥楽しみだ」

「お、やっぱりイオリも男の子だねぇ。こういうのに興味があるのかい?」

「そうだな。僕の記憶にもダンジョンに入ったというのはないから、初めて見るのが楽しみなんだ」

「そうかい」 


 そう穏やかな声で話すマゼンタに僕は頷いた。


「でも、ポパイのダンジョンは中規模でしたよね?マゼンタは大規模なダンジョンに行ったことはありますか?」


 エレシアがマゼンタにそう問いかける。中規模のダンジョンとは全長数百メートルであるが、大規模のダンジョンとなると全長数キロメートルにも及ぶらしい。

 マゼンタは首を縦に振って、


「入ったことはあるよ。そりゃ広くて魔物を探すのも大変だったし、見つけても逃げられないようにするのが大変だったさ」

「そうなんですね……」


 僕はエレシアとマゼンタの会話を聴きながらそんなものか、と思っていた。

 以前地球にいた時に翔からダンジョンをテーマにした漫画を借りたことがあったため、なんとなく空想上のイメージはついていた。そしてそのイメージに間違いはないだろうとも感じていた。


「じゃあ街に着いたら最初はゆっくり休んで、次の日からダンジョンに入ることにしよう」

「わかったよ」

「わかりました」


 そんな会話をしながら、森の中を進んでいく。もう森の中の歩みにもだいぶ慣れたもので、僕もエレシアも進むスピードは上がってきたように感じられた。

 途中、エレシアと曇り空を見上げる。


「今日は雨が降りそうだな」

「そうですね、空がざわめいてる様な気もします」

「そんなことが分かるのかい?」


 驚いたような顔をするマゼンタに、僕とエレシアは顔を見合わせる。なんとなくではあるが、今日雨が降りそうだ、と感じたのだ。理屈ではない、感覚と言えた。もっとも、エレシアはそれを感覚ではなく言葉で説明できるようであったが。


「分かるな、なんとなく」

「はい。魔術師はそういった感覚に優れていますから」

「はー……魔術師ってのはすごいんだねぇ、あたしは魔力がそんなにないから羨ましいよ」

「あはは、無い物ねだりですね」


 ここで僕が一般人の4300人分の魔力を持っていることを伝えたらどんな反応をするのだろうという悪戯心が湧いてきたが、理性でなんとか抑え込んだ。パニックになるに違いないからだ。


「じゃあ雨が降るなら早めに拠点を見つけといた方がいいね、今日は」

「そうですね」


 と首肯するエレシア。僕たちは曇り空を見上げて再び先に進んだ。

 そろそろ夕方になるかという頃、曇り空はさらに黒くなり時折ゴロゴロと雷の音が遠くから聞こえ始めてきた。僕たちはその場で荷物を置いて、早々にテントを組み立てることにした。

 結界を張れば雨を弾くことはできるが、なるべく魔力を使わないに越したことはないからだ。

 テントを張って夕食を食べていると、ふいにザーッと雨が降り始めた。慌てて周囲に結界を張って雨を避ける。


「こりゃ降ってきたねぇ」

「どしゃぶりですね」

「そうだな」


 結界で弾かれる雨を見ながらそんなことを話す。食べ終わった後、僕たちはすぐテントの中に避難した。


「まださすがに寝るには早いねぇ。何かするかい?」

「あ、それなら私トランプ持ってますよ」

「用意がいいねぇ、いいじゃないか。イオリ、ルールは覚えてるかい?」

「多分そのゲームの内容による」

「そうだねぇ……じゃあ簡単にババ抜きでもやろうか」

「なら多分覚えてる」


 地球でのババ抜きのルールと同じとは限らない。そのためそう曖昧にぼかしながら答えると、マゼンタは「まぁわかんなくてもやってくうちに理解できんだろ」と言って早速エレシアが取り出したトランプを切り始めた。

 僕はそれをぼんやりと見ながら、昔小さい頃両親と一緒にトランプで遊んだなということを思い出していた。


「……よし、こんなもんだろ」


 トランプを切り終わったマゼンタは、3人分にカードを取り分けるとそうひとりごちた。


「ありがとう」


 お礼を言ってカードを受け取って中身を確認する。僕の手持ちの中にはジョーカーは入っていなかった。となると残り2人になるが……なんとなく表情を見てマゼンタが持っていると予想した。ルールは地球でのものと変わりないようだ。そのまま淡々とカードを引いていき、僕は1番に抜けることができた。


「あ、1番だ」

「なにっ!?運がいいね、あんたは」

「そうみたいだな」


 ぐぬ、と口をへの字に曲げるマゼンタに対し、エレシアは楽しそうに笑っている。

 結果、1位は僕、2位はエレシア、3位はマゼンタということになった。それに納得がいかなかったのか、マゼンタが再戦を申し出てきたが何度やっても順位は変わらなかった。マゼンタはそれに悔しそうに歯噛みしていた。

 やがて、ババ抜きで白熱しだいぶ時間を潰した僕たちは寝ることにした。その日も結界が正常に作動しているかチェックをした後、いつものように眠りについた。



◇◇◇



 それから1週間後、やっとポパイの街に着いた。早速街に入り宿を取って休んでいると、マゼンタがベッドに寝そべりながらそういえば、と切り出した。


「この後街に行かないかい?来る時出店があるの見えたし、なんか珍しいもんでもあるかもしれないぞ」

「いいですね、私も見てみたいです。イオリはどうですか?」

「2人に任せる」

「じゃあ行こう!」


 と言ってベッドから勢いよく起き上がるマゼンタについて、部屋を出る。僕たち3人は街の中心部にある出店へと向かった。

 出店のある通りへと出ると、商人たちの声がそこかしこから聞こえてくる。


「今ならブラウンアップルが甘くて美味しいよ!そこの兄さんたちどうだい?」

「こっちの壺は異国から輸入した珍しい品だよ、見ていかない?」


 時々かけられる声にお店を冷やかしながら進んでいく。

 すると、行列している一つの店が見えてきた。


「並んでるな」

「あ、看板にクレープって書いてありますよ。私食べたいです!」

「じゃあ並ぼうか、たまには甘いもんもいいだろうねぇ」


 ということで行列の1番後ろへと並ぶ。列には15人ぐらい並んでいて、全員女性だった。僕だけ場違い感甚だしくチラチラと見られていたが、もう気にしなかった。


「2人は何味にしますか?」

「そうだねぇ……私はバナナクリームにでもしようかねぇ」

「私はいちごチョコクリームとベリーレアチーズケーキで迷ってるんですよね」

「じゃあ僕がベリーレアチーズケーキにするから、エレシアはいちごチョコクリーム頼んだら。半分こして食べよう」

「え、でも悪いです……」

「気にしなくていいよ。僕もどれを選べばいいか悩んでたから」

「……ありがとうございます!」


 にっこりと笑顔を見せるエレシアに僕も笑いかける。それをマゼンタがにやにやとした笑みでこちらを見ていた。

 しばらく待って、僕たちの順番が回ってきたため注文して待つ。


「はい、バナナクリームといちごチョコクリーム、ベリーレアチーズケーキのお客様!」

「はい」


 できたクレープを受け取って、列から外れる。近くに設置してあったベンチに3人並んで座り、クレープを食べ始めた。


「はい、エレシア」

「ありがとうございます!」


 一口食べた後ほら、と差し出したクレープにエレシアがそっと齧り付く。反対に僕もエレシアの持ついちごチョコクリームに齧り付いた。


「……甘いな」


 僕がペロリ、と唇についたクリームを舌で拭うとそれを見ていたエレシアがボッと顔を赤くした。


「で、でも美味しいですよね!ね!」

「?そうだな」

「これもなかなかいけるよ」


 と言うマゼンタの言葉に、結局みんなで食べ比べをしてみることにした。

 確かにマゼンタのバナナクリームもさっぱりとして美味しく、甘さもあったが満足感はあった。

 お腹も膨れた僕たちはしばらくそのままベンチに座って人の流れを見てぼーっとしていた。


「もうあんたたちと会って1月以上経つんだねぇ……なんだかもっと長く一緒にいた気もするよ」


 ふいにそう話すマゼンタに、僕も頷く。 


「僕もそんな気がする」

「私もです」


 しみじみとそう話すマゼンタに、3人顔を見合わせて笑い合う。いつの間にかそんな風に笑い合うのが自然と感じられるようになっていた。マゼンタの人の心に寄り添うのが上手いところが影響しているのだろうか。僕たちはもうしばらくそこで佇んだ後、再び出店の冷やかしへと戻っていった。




 

今年初投稿です。今年もよろしくお願いします。

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