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君時雨(きみしぐれ)  作者: 葉月 ひより
9/12

汽車

最近、筆が良くのる。私偉い子えへへ

 急に降り出した雨は気温を一気に下げ、体温を奪っていった。身体が芯から冷えるとはこの事を言うのだろう。指先の感覚がなくなっている。はやく汽車来ないかなと、申し訳程度に付いた屋根から出ないように遠くを見るがまだ姿は表さない。腕時計をチラチラと見ながら時刻表通りならもう来ても良い頃なのだがとそわそわとしていた。

 汽車は時刻通りに一両でやってきて、乗ると効きすぎた暖房が身体を温めてきた。汽車には誰も乗ってなく、ボックス席に腰をかける。冷えて縮こまった身体は席に座るとようやく緊張が解けたのか力が抜けていった。

 田舎特有の何でもないような駅で数分止まっている汽車で、外の景色を何も考えずに眺めていた。雨は激しいとは言えないがそれでもかなりの量が降っていた。


 前方の扉が開き、人が入ってきたのでチラッと覗くと黒いコートに白いマフラーをした女の子だった。スカートから女子高生だと分かった。

 マフラーから覗く頰が赤くなっており、外は寒かったのだなというのが伝わってくる。

 一列になっている席の真ん中あたりに腰をかけると、ボーとし始めていた。なんだか先ほどの自分を見ているような気分になる。

 汽車が動き始めて、ずっと彼女に目がいっていたことに気がつき視線を外の景色の方へ向けた。相変わらずよく降っている。

 終点まですることもなく時折スマホを見るがこれといってすることもなくその度に顔を上げると彼女の方に目が向いていた。

 自分でも女子高生をずっと見てるというのはかなりまずいと思ってる。今時なら見ていただけで痴漢呼ばわりなんてされかねない。流石にそれで職を失うのは馬鹿馬鹿しいとは思うが、どういうわけか彼女に目がいってしまうのだった。

 彼女はマフラーを巻いたままでスマホを突くこともなく、汽車が動くとすぐにウトウトと舟を漕ぎ始めていた。そういえば彼女は僕のことを一瞥さえしなかった。汽車に入った時に見られたのだろうか。

 こんなことを淡々と考えていると汽車は一つ、二つと駅に止まっていく。彼女は駅に着くたびに目を覚まして、駅名を見るとまた目を瞑って眠っていた。


 しばらくして汽車は対向列車を待つとかで途中停車をした。彼女は目を覚まして駅名を探すが駅に着いてないことに気がつくと、こちらに視線を移す。初めて彼女と目が合いようやく、しまったという感情が出てきた。

 彼女は僕の方に近づいてくる。

「あの、今ってどのへんですかね?」

「あ、えぇと……。赤崎の手前かな」

「ようやく半分くらいか。ありがとうございます」

 お礼を言い座ってたところに戻るのかと思いきや立ち止まったまま動こうとしない。先程までずっと見ていたのにこうも近づかれるとなぜか見ることができない。

「あの、良ければ向かいに座ってもいいですか?」

「えっと?どうして?」

「暇だからです、お兄さんも暇そうでしたし」

 自分がそんなに若いとは思わないが、お兄さんだなんて女子高生に呼ばれるとなんともむず痒い気分だ。そして、暇そうと言われ見られていると気がついていたのだなと申し訳なく思う。

 僕がいいですよと言うか言わないかで向かいの席に座ると勝手に話し始めた。先ほどのウトウトとしている子とは思えない。

「今日、スマホを家に忘れちゃって暇だし時間分かんないんだよね」

「腕時計とかしてないの?」

 彼女は手を上げて手首を見ながら苦手なんだよねと言った。袖から覗く手首は白く若々しくて少し眩しく思えた。


 一駅二駅の間、彼女は話したいことをただ話し僕はそれに相槌をうっていたが、彼女は眠いと言ってまた目を瞑って静かになった。

 先ほどまでより近くにいる彼女を僕は、これは彼女から近づいてきたのだからと後ろめたさを抑え込み、また見ていた。

 近くで見ると睫毛が長いのだと気がついた。窓の方に寄りかかり細くサラサラとした髪が寝顔を隠そうとしているように揺れていた。しかしそのせいで小さくて形の整っている耳が露わになっている。口元はマフラーが隠していてよく見えない。

 二駅ほど汽車が走るとまた目を覚まし、今どこですか?と尋ねてくる。

「どこで降りるの?僕は終点までだから起こすよ」

「……降りたら足湯のあるところです」

「えっと、公園にもモアイ像の足湯のあるところ?」

「詳しいんですね」

 そういって彼女はクスクスと笑った。


 大きめの駅で止まると彼女はオススメのカフェがあると話してくれた。

「小学校近くにあるんですけど雰囲気が良くてご飯も美味しいんですよ。最近は良くわからないもの作ってて人が増えちゃったんで嬉しいやら寂しいやらですけどね」

「へぇ、良くわからないものって?」

「見に行けば分かりますよ」

 そう言ってイタズラっぽく笑うと、じゃあ起こしてくださいね、と言い残しまた寝始めた。

 取り残された僕は何もすることがなく、やはり彼女を見ているのだった。

 ふと、写真に残しておこうかな、なんてとんでもないことを思いついてしまう。周りを見ると大きめの駅に止まったのに人一人乗客はいなかった。

 いやいや、流石にそれはまずいだろう。いくら彼女が話しかけてくれたからといってもそんなことをしようものなら警察沙汰になってもおかしくはない。

 チラリと彼女を見る、彼女はスヤスヤと寝息をたてていた。


 彼女の降りる駅の手前で彼女を起こす。触れても良いものかと悩んだが、これは彼女を起こすためと後押しして彼女の肩を揺らす。

「もうそろそろ着くよ」

 彼女はほんの少しボーと僕を見つめると、あぁ……ありがとうございます、と言った。

「そういえば、見たところ学生だよね?学校遠くない?」

 実は大きめの駅に着く前あたりから気になっていたことを尋ねたところで彼女の目的地に到達してしまった。

「あー、家出です。まぁ、おばあちゃんの家に転がり込むんですけどね」

 そう言ってリュックを背負うと、早口でお兄さんと話せて楽しかったですよ、と言い扉の方へ早歩きで向かって行った。扉の前で立ち止まり、開閉ボタンを押すとフシューと音を立てて扉が開く。彼女は下車しようとホームに一歩を踏み出すと、言い忘れていたことを思い出したように身体だけ仰け反らして僕の方を見る。

「写真、消さないでくださいね」

 そう言うと彼女は小走りで無人改札を通り抜けていった。


 終点の駅に着き、僕は汽車を降りた。階段を降りていくと有人改札があり切符を手渡し駅舎を出ていく。まだ雨は止みそうにない。

 僕は傘をさす気になれないでいた。コンビニにも寄らず、地下道も使わずにわざわざ雨を避けられない開いた通りの方に進む。

 すぐに信号に引っかかってしまった。立ち止まったのでスマホを取り出す。

「ずっとバレてたんだな」

 そう言い僕は情けなく笑い、雨粒の乗った画面を見つめていた。


舞台になった地元民や鉄オタからそんなにスカスカの線じゃないだろ!って言われそうだけどもそこはご愛嬌ってことにして下さいね。

良ければ舞台を当ててみてください。そして是非お越しください。良いところですよ。

カフェと足湯は私のお気に入りの場所です。

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