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君時雨(きみしぐれ)  作者: 葉月 ひより
7/12

空き教室

 雨がひどく強い。窓に打ちつく音と雨粒が流れていく様子をただ何も考えずに見ていた。教室は暗く、使われることも少ない空き教室のお陰で一人でいることができる。机に腰掛け、止みそうにない雨がせめて弱まるのを待ってみた。

 吹奏楽部の練習している音がどこか別の教室から聴こえてきた。私は何やってんだろうな。練習している音は雨をその瞬間だけかき消してくれるが音が止むとすぐに雨は窓で音を奏で始めるのだった。

 あいつ、用事あるとか言って置いていくことないだろ。いつまで待ってれば良いんだ。まぁ、どうせ私もすることないしな。待ってあげよう。律儀に学校ではスマホを使わないことを守っているがあいつからLINEとかきてそうな気がする。

 突然、教室に電気が点く。急な明るさに目を細めながら扉前に立つ人を見る。思った通りの人だった。放課後にこの教室に入る人なんて私かあいつくらいだからな。

「用事は?」

 こちらに歩いてくるあいつを見ながら机に仰向けに寝そべる。ぐだーと身体の力を抜いて何も言わずに近づいてくるあいつの返答を待つ。

 あいつは私のお腹に手を乗せて答え始めた。

「先生に古い教材の処分を手伝わされてた。外のちり紙置き場にいたおかげで手が冷えた」

「冷たいわ、アホかお前は」

 そう言って身体を起こし手を払いのける。荷物を持って帰ろうとするもあいつは窓を見ていてなかなか帰ろうとしない。傘でも忘れたのかな。私のカバンの中に折りたたみ傘が入っているからそれを使えばいいか。多少狭いけど問題ないだろ。

「傘忘れたなら入れてやるよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 流石は長年の幼馴染と言ったものだろうか。少女マンガで見たことあるお互い恥ずかしくて距離ができてお互い肩が濡れるとか、お互いに気をつかい過ぎて傘を押し付けあった後にじゃあと肩を寄せ合うようなことは一切なかった。

 お互い肩をくっつけていつもよりほんの少し近い顔を感じながらいつも通りの会話をする。

 笑わせてくるあいつは傘を持つ私が笑うたびに慣れたように歩調を合わせて器用に傘の中に入り続けた。

 私の家より少し手前にあるあいつの家で、また明日と別れた。

 あいつの呼ぶ声が後ろから聞こえて振り返る。玄関に着いたあいつは折りたたみ傘を頭の上で降っていた。

「実は持っていた」

 そう叫ぶと満足げに玄関を開け、家に消えていった。

 あいつ、何がしたかったんだ?


私はやれる。まだやれるんだ。

私が止まらない限り、この小説は止まらないんだ。

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