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君時雨(きみしぐれ)  作者: 葉月 ひより
6/12

体育館裏

長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。

 体育館裏は晴れていると日の光がよく差し込み寝てしまいそうなほど暖かな場所なのに、こんな日に限って今にも雨が降り出しそうになっていた。今から、気が緩むまいと思うほどにその感情を強く意識してしまう。

 約束の時間よりもかなり早く体育館裏へ来て空を見上げては腕時計に目を落とすことを繰り返していた。空を見上げて吐く息は白く、留まることなく消え去っていった。

 空から落ちてきた雫が頬を伝った。一粒、二粒と増えていき、辺りをいっそう冷えさせてゆく。

 もう、これじゃ来ないかもな。なんて普段ならそんなこと絶対ないと言えるのに考えてしまっている。あーあ、本当にらしくないな。

 この雨は妙に私の心に滲みる。ゆっくりといろんな感情が渦巻いて壊れそうな心に浸透して隙間を塞いでいく。

 彼が小走りで近づいて来ているのが目の端に映る。来る途中で雨が降って来たのだろう、傘は持っていないようだった。やっぱりちゃんと来てくれたんだと安堵する。

 ほっと息を吐き、冷たい空気を肺に入れて気を引き締める。せめて、今だけは笑顔でいよう。

 雨が降ってるよ、中に入らない?と声をかけてくれる。雨脚はだんだんと強くなっていっているようだった。息を切らした彼からは白い息が不規則にこぼれている。

 衣服が肌に張り付いていく感覚がしてきた。もうこんなに濡れてしまったのかとどこか他人事のように思ってしまう。

 彼の名前を呼ぶ。

「別れよっか」

 彼の口から白い息が見えなくなった。まっすぐに、私を見つめる。

 私の理由とも言えないような理由を何も言わず、ただ聴いてくれた。ちゃんと言うことは決めていたのに、何度も何度もつっかえた。何度も何度も声が出なくなった。それでも彼はただ黙って私を見つめていた。

 彼は最後まで聴くと、帰ろっか。とだけ言うと後ろを向いた。

 目元を拭いて、何とか笑顔を作る。ほんとは、晴れた日に言いたかったんだけどな。なんてもう叶わないことを言い訳のように冗談めかして呟いた。彼は短く笑ってくれた。

 心を満たしてくれてた雨水が溢れて止まらなくなる。

 やだな、せっかく雨が隠してくれていたのに、これじゃ泣いてるってバレちゃうな。


 あの日の私は上手く笑えていただろうか。



ほんの少しスランプから抜け出せた気がします。もう少し頑張ります。気長に見守っていただけるとありがたいです。

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