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君時雨(きみしぐれ)  作者: 葉月 ひより
10/12

君のいる部屋

 雨音を聴きながら床に積み上げられた本を読んでいた。一ページ、また一ページと紙をめくる音が部屋に残る。

 ゆっくりと流れていた意識の時間を呼び鈴が引き戻した。ようやく来たか、と踊る心を抑えながらインターホンの映像を見ると見覚えのある目がアップで映っていた。

 玄関まで小走りでいき、呼吸を整えてから鍵を開けドアを開くとやはりと言うべきか果帆が立っていた。

 僕は、お疲れと声をかけると部屋に戻って散らばった本や教材を拾い集めた。

「やー、雨ひどいね。あっ、傘テキトーに置いとくよー」

 そう言いながら部屋に入り、荷物を隅の方に下ろすとリュックからスーパーの袋を取り出して、おずおずと声をかけてきた。

「シャワー借りても良いかな。身体冷えちゃってさ」

「あー、そうだね。使いー使いー」

 すると果帆は安心したように笑うと、ありがとと短く言って部屋を出ていったところで声をかけた。

「服濡れたでしょ、洗濯しようか?」

 すると、あーうー、と声を漏らしながら悩むも受諾してくれた。

「じゃあ、頼む。…………、あんまり見ないでよ」

 と、冷えた頰を赤くしながら付け加えて。

 果帆が部屋と廊下の戸を閉めて、しばらくすると水が勢いよく出る音が聞こえたのでおそるおそる戸を開く。果帆がいないことを確認してから、洗濯をするというのにコンパクトに畳まれた衣類を洗濯機に入れていった。

 洗濯機を回し、部屋に戻り本の続きに目を落としていく。雨音とは違う水の落ちる音がいやに意識を本に落としてくれない。

 果帆とは古い仲で偶にこうして遠くからはるばる家に遊びにやってくる。

 何をするでもなくしばらく部屋をキョロキョロとしていると、戸の向こうの水の音が止まり浴室のドアが開く独特の音が響いた。

 しばらくすると果帆がタオルを頭からかけて部屋に戻ってきた。

「ふぃー、ありがとー。あったかかった」

「そりゃあよかった。まぁ、入りなよ」

「おコタじゃん、いいなぁ。私も欲しいわ」

 果帆はコタツに入って上に積み重なっていた本を取ってパラパラとページをめくっていく。好みでは無かったのかすぐに元に戻し部屋を見回す。

「また本が増えたねぇ。適当に出して読むよ」

 返事も待たずに本棚の中を物色して奥の方のシリーズ本をごっそりと抜き取るとコタツの上に一冊の木を作る。

 果帆の本を読んでいる姿は見ていて楽しい。

 面白いシーンだと読んでたページに指を挟んで閉じて腕を目一杯伸ばして本を自分から遠ざけながら必死に笑いを堪えている。

 逆に悲しいシーンだとすごくおとなしくゆっくりとページを進めていく。

 濡れ場のようなシーンでは凄くそわそわしている。

 僕は本を本を読む合間にチラチラと果帆の反応を見ていた。

「ん?どうかした?」

 偶に本の世界から戻ってる果帆と目が合うとこう訊ねてくる。

「何でもないよ。どこ読んでるのかなって」

 すると果帆は読んでいたページをこちらに向けて僕がどのシーンか分かると判断するとすぐに自分に向けなおして黙々と読み始める。

「そういえばさ、何でインターホンに近づいてたの?」

 ふと、気になってたことを訊ねる。

「んー、見えるかなぁって」

「僕が?いやいや、見えないでしょ」

「うん、見えなかった。もうちょっとだと思ったんだけどなぁ」

 何がもうちょっとなのかよく分からないが純粋に見えると信じていそうな顔をしているのでこれ以上は訊くことをやめた。

 静かな時間が過ぎていった。偶に本から意識を戻せば静かにページをめくる果帆が目に入り読んでいる本は確か感動系だったかなと思い出す。外の激しく打ちつける雨音だけが耳に入っていった。

「コーヒーでも入れるよ」

「おぉ、やった。甘めにしてね」

 キッチンの方へ行き、コーヒー豆を挽いていると窓の外が光った。雷まで起きるのか。

 すぐに遠くの方で落ちたような音が聞こえてきた。雨は一段と強くなっているようだった。

 果帆は雷とか大丈夫だったかなとチラッと覗くと全く気にしないで本を読んでいた。

 コーヒーを運んでくると果帆は僕をみて安心したように笑う。

「一人でいる時だと怖いね」

 コーヒーを置き、隣に牛乳を置く。

「しばらく離れないからさ」

 僕の返事に果帆は嬉しそうにコーヒーに牛乳を注いでいる。

 マグカップからの湯気が消えていく。


少し雨要素増えた?

雨要素増やしていきたいけど室内だと難しいね。

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