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第6話 嵐のように・・・

—「来てくれたんだね。」


そして山本さんの右手を握った私は、ゆっくりと地面に着地した。

その時、地面に私の足が着いた時、私は地面の中から何かが流れ込んできた・・・そんな気がした。しかし、私がそのことに気づいた瞬間、一気にその感覚は消えていき、結局私はそれが何なのか分からなかった。

仕方ないので、そのことは一旦頭から外して、正面を見ると、そこにはとても嬉しそうに、笑顔を浮かべる山本さんがいた。その笑顔は本当に純真で・・・・。どこか子供っぽさを山本さんから感じて、私はおかしくて笑ってしまった。

だっていい歳した大人があんな風に子供みたいに笑うんだもの!!

それは、とっても可笑おかしくて・・・


「やっと君の笑顔を初めて見れたね・・・。いい笑顔だよ。華坂さん・・・とっても・・・。とてもさっきまでは、「絶対あなた達のもとにはつかない!!」みたいなこと言ってた人が浮かべるものとは思えないよ。」


全くこの人は・・・・。

いっつもこうして一言多いんだから。


「ほんとうに、よく僕たちのことを選んでくれたねえ。」


いつものニコニコ顔で山本さんは言う。

皮肉で言ってるんだか・・・本気で言っているんだか・・・


「うっ・・・うるさいですよ!!

 じゃあ、またやめて、エレーナさんの方に行きましょうか!?」


「ごめん。ごめん。ちょっとからかいすぎたかな。

・・・ありがとう。君がうちを選んでくれて、心から嬉しいよ。

・・・・ちょっと、ふさわしい状況とは言えないけれど・・・

華坂さん!

僕たち日本超能力管理庁は、みんな、君を歓迎するよ!」


そう言って山本さんは、少し横にずれて、周りの人たちに私を見せる。

そして、さっきまでエレーナさんと激闘を繰り広げた、大柄の例の男性と楓ちゃんが、さらにその二人以外にも多くの人が、私の視界に入る。


「おう!お前!うちに入るのか!!

じゃああのババアにはついて行かなかったんだな!!

見る目あるじゃねえか!!

俺は平間ひらま 剛政たけまさっつうんだ。

これからよろしくな!!

何かあったらいつでも頼ってくれ!!」


そう言って例の男性、いや、平間さんは、エレーナさんの直方体に未だに挟まれて動けないにもかかわらず、ニッコリ笑って言った。


「全く・・・もうちょっとカッコのついた自己紹介にしなさいよ・・・」


平間さんの滑稽な自己紹介に私の背後で楓ちゃんが呟いた。


そして、平間さんの自己紹介を皮切りに、さっきまで見なかった他の人たちも我先に自己紹介しようと動き出した。


「俺は「私は「どうも「はじめまして・・・・・」」」」


もうめちゃくちゃである。


「ちょっと、ちょっと、みんな、そんなにいっぺんにしても、華坂さん、わかんないよ。」


収集がつかなくなったのを見て、山本さんが一旦ストップさせて色々まとめている。


ホントに自由で面白い組織だなぁ・・・

思わず私は苦笑した。


「全く、ま〜た奈保ちゃんに有望株を取られちゃったわ〜。」


そう言ってエレーナさんが、何個か立方体を出して、その上に順々に降りていって、私たちがいる地面に降りて来た。


「あっ・・・エレーナさん・・・

 ごめんなさい・・・こっちを選んじゃって・・・・」


エレーナさんを目の前にして今更私は重大なことに気がついた。

さっきまで、エレーナさんと平間さん・楓ちゃんが戦っていたのは、そもそも私を巡って、だったじゃないか!!

そして私はエレーナさんの側を選ばなかった。

どっちを選ぶかは私の自由だ、なんて言ってたけど、心の中では怒ってるかもしれない。

怒ってるだけなら、まだ良いが、また私のせいで戦いが始まるのは嫌だ・・・


「あらあら、全然良いのよ。琴音ちゃん。こういうことって何回も起きてるのよ。日本の超能力者の有望株を私と奈保ちゃんがそれぞれスカウトしに来て、私が負けちゃうこと。実はそこに転がってる楓ちゃんもそうなのよ。」


そう言ってエレーナさんは、今も辛そうに横たわっている楓ちゃんに目線を向ける。

えっ、そうなの!?

楓ちゃんも、スカウト!?

もしかして楓ちゃんも・・・後天性超能力者だったり・・・?


そんな私の考えを察したかのように、エレーナさんは言葉を継いだ。


「楓ちゃんは立派な先天性超能力者よ。ただ、こっちの超能力学校の生徒じゃなくてね、地方の学校だったのよ。そこでいろいろあって、私と奈保ちゃんの二人がスカウトしに行ったのよ。」


「へ〜。そうだったんですか・・・。」


それにしても驚きだ。楓ちゃんのこともそうだけど。今回の私みたいなことが何度もあったなんて・・・。


「ほんとうに嫌な女だわ・・・。無駄に長生きして・・・。」


そう楓ちゃんが吐き捨てる。

その言葉で私はエレーナさんが現れた頃から感じていた違和感の正体に気がついた。


「あの〜。さっきからみんなエレーナさんのことを、その・・・何と言いますか・・・お年寄り、みたいに言ってるみたいなんですけど・・・。エレーナさん・・・全然お若いですよね・・・?」


私がそう言った瞬間、一瞬静寂が広がり、その後・・・その場は爆笑の渦に包まれた。

びっくりして、私が周りを見渡すと、目に入る限りのすべての人が爆笑していた・・・

山本さんはもちろんのこと、平間さんなんて大口開けて笑っていて、あろうことかあのクールな楓ちゃんまで、おかしさを抑えきれないかのようにクスクス笑っている。

その中で私だけがポツン、と一人何もわからず、笑いの渦から取り残されていた。


一通り笑い尽くしたエレーナさんが、それでもまだ可笑しさを込み上げながら、こう言った。


「ごめん、ごめんなさい。最近初めて会う人も減って来たから、気づかなくて、

華坂さん、改めて紹介するわね。わたくしエレーナ・フォン・ハイデンライヒは、今年2016年で、御年おんとし93歳になります。こんな見た目だから解んないでしょうけど。」


え・・・ええええーーーーー!?

93歳!?


「もう一回伺っても良いでしょうか・・・・?エレーナさん、おいくつですか・・・?」


「93よ。きゅうじゅうさん。ninety-three。 dreiundneunzig。」


え・・・ええええーーーーー!?

93歳!?

おんなじように私は驚く。

いや、ほんとうに信じられない。

だって目の前のエレーナさんはほんとうに綺麗で、20代にしか見えなくて・・・。


「まあ。そりゃあ驚くよね・・・

 僕らはもう知ってたから。気にしないけど。華坂さん。まあ超能力も使いようによっては、この人みたいにこんな見た目でいられるんだよ。」


その山本さんの言葉に私は思いっきり食いつく。


「ホントですか!?超能力があれば若いままでいられるんですか?エレーナさんみたいにいつまでも綺麗に・・・?」


「そう。そう。そうなんだよ。」


バシッ!!

そう山本さんが言った瞬間エレーナさんが思いっきりツッコミを入れた。

・・・うん!いい音。いいツッコミだ。


「嘘教えるんじゃないわよ。奈保ちゃん!

 華坂さん。さっきのこの人の言ったことは、嘘、大嘘よ。私はちょっと特別なの。・・・・まあ超能力があれば、多少は見た目が保てる・・・とも言えなくもないけど・・・・まあ間違いなく、そこらへんの整形とか美容技術の方が役に立つわ・・・」


その言葉でさっきまで大きく膨れ上がった私の期待は一気に萎んだ。

そして無駄な期待をさせた山本さんをジト目で見る。


「や、やだなあ。そんな目をしてぇ。ほら、さっきエレーナさんも言ったけど、あながち嘘でもなかったでしょう?・・・そう、言葉の綾だよぉ。それにそんな見た目をしてると、お肌にもよくないよぉ。ほら、華坂さん。もう28なんだし。

・・・ん?

ぐはっ・・・・」


渾身の右ストレートを入れてやった。

ちょっと山本さんは少し反省するべきだと思う・・・。

反省するのかわからないが・・・。


「スカッとするものも見れたことだし、それじゃあ私ここで帰るわね。

華坂さん、一応これ渡しておくわね。これがあれば私と連絡取れるから。あなたもここを選んだから多少は覚悟がついてると思うけど、こんな上司だから嫌になることもあるかもしれないわね。そうなったらいつでも連絡してちょうだい。いつ何時でも協会はあなたを歓迎するわ。あと、楓ちゃん、奈保ちゃんにあとで時間作るように言っといて。今回の後始末、しなくちゃね。

じゃあね華坂さん。

あなたの活躍を心から祈っているわ。

じゃあ。


ボックス!」

そう言ってエレーナさんは直方体をいくつも出し、その上をどんどん跳躍して登っていって遥か高い空の中に消えていった。


嵐のようにきて嵐のように去っていった彼女に圧倒されながらも、私は手の中のエレーナさんに渡されたものに目を落とした。

それは親指くらいのサイズの発信機のようなものだった。中央にボタンが一つあってそこに受話器にマークがある。ここを押せば連絡できるのだろう。

なんだかんだ言ってありがたい。正直はずみでこっちを選んでしまったから・・・事実私はこの、そばで倒れているデリカシーのかけらもないおっさんと、彼の部下としてやっていく自信がすでに揺らいでた。


・・・・本当に大丈夫なのだろうか・・・?



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