第5話 決断
「—協会はあなたを歓迎するわ。」
そう言って私に差し出されたエレーナさんの手を取るべきか取らざるべきか、戸惑っていると、エレーナさんは軽く息をついて手を戻した。
「そうね・・・・急すぎるわよね。何もかも・・・・。少しゆっくりお話しでもしましょうか。せっかくこうして二人きりになれたんだし。
防音効果は・・・・」
「おいなんだあの四角いの!?ババアと例のやつを消しやがったぞ!!おい!!平蔵!!あの中にドア作れねえのか?
・・・・あぁ!!?何で作れねんだよ!!
使い物にならないじゃねえかお前の超能力!!
おい!!ババア!!卑怯だろ!!さっさと出てこいやぁ!!」
突然私とエレーナさんを囲む箱?の外から、例の男性としか考えられない罵声が聞こえた。
「・・・・付けてなかったわね。付けといたほうがよかったかしら。防音効果。
・・・
まあいいや。ちょっと騒がしいけど、話・・・続けさせてもらうわね。私たち協会のそもそもの存在目的は、超能力者が迫害されるのを防ぐためなの。さっきの戦いを見た後だから、よくわかると思うだろうけど、やっぱり私たち超能力者は使いようによったら十分な兵器にもなりうるのよね。・・・・悲しいことに・・・。それで結構、兵器として利用するために国が超能力者を集めて実験したり、兵器利用したり・・・・ね。ということがあったのよ、昔。まあ最近はないし・・・まああったらあったらで私たちの存在意義が問われるんだけど・・・。それはともかくそういったことを防ぐために私たちはいるの
・・・あぁそんなに怯えた顔しないで。少なくともここ日本で、そんなことはないし、ありえないとまで言えるわ。正直言って今の世界で人体実験なんてもの行われてないわ。」
あ〜それを聞いて安心した。
いや、自分の身の危険のこともあるけど、もし山本さんがあの顔で平気で人体実験なんかしていたら、私はもう自分の人を見る目を信用できなくなっていたところだった。
「でね。やっぱりあなたは特別なのよ。世界中に超能力者なんていくらでもいるんだけど、その中でもね。場合によったら私より特別なのかも・・・」
ここで私は、自分が超能力者だと言われてから、薄々感じていながらも、頭の中では何回も否定するんだけど、どうしても頭から出て行ってくれないことを告白した。
「あの・・・エレーナさん・・・。私は・・・私って、邪魔なんでしょうか?
」
するとエレーナさんは目を少し開いて、その後優しく微笑んで、
「可哀想に・・・。急にいろんなことが起こりすぎて、整理がついてないのね。まあでも仕方ないわよね。急にこんなところに連れてこられて、さらにいきなりあなたを巡ってみんな、っていうか私が戦いだしたもんね・・・。
まあ少なくともさっきの戦いの事なら、気にやむことはないわ。私なんどもここに来ているんだけど、割とその度にあの人達とは、あんな感じでドンパチやってるのよ。戯れみたいなものって思ってよ。」
「で・・・でも楓ちゃんなんか・・・すごい傷ついていたし。」
「楓ちゃん・・・?ああ・・・ふふっ。あの子も本当に嫌らしいわね。あれ、多分演技よ。演技。」
「へっ?でも、思いっきり地面に叩きつけられてたし・・・エレーナさんに・・・。」
「大方地面にぶつかる直前に自分の下に衝撃吸収材でもテレポートしてたんでしょ。それに私も肉体強化はしてたけど、本職じゃないからそんなに強く叩きつけれてないはずよ。」
「は・・・はぁ。」
正直信じられない。だって楓ちゃんすごい痛そうだったし・・・。それに何よりもあの可愛くて真面目そうな楓ちゃんが騙すなんて・・・
正直そっちの方が信じたくない。
「まああの子が嘘ついたかどうかは放っておいて本題に戻ると、あなたが邪魔かどうか?だったっけ?
—そうね。結論から言うと、Yes。いるでしょうね。あなたが邪魔だって思う人は・・・」
が、がーん!!
やっぱりそうだったのか・・・
そりゃあそうだよね。
山本さんも私のせいで仕事が増えたとか、困ってるとか言ってたような気がするし、それにさっきエレーナさんは違うってフォローしてくれたけど、やっぱりさっきの戦いの原因が私であることは間違いなさそうだし・・・。
でも、そう言った後、エレーナさんはもう一度私の瞳をじっくりと見つめて、優しく笑いかけてこう言った。
「でも・・・でもね。それってどうってことないのよ。
超能力だとかそんなこと関係なくね。
今人って地球に何人いるんだっけ?70億だっけ?まあ細かい数はどうでも良いけど。本当にうじゃうじゃいるわよねぇ。私も役職上いろんなところに行くんだけど、本当にどこに行っても人がいるからたまんないわよ。
でね。そんだけ人がいるとね・・・どうしたってトラブルは生じるし、同じ人間でもやっぱり生まれつき違うものを持っている人ってのもでてくる。
邪魔な人なんていくらでもいるわよ。
それこそ誰にとっても邪魔じゃない人なんて、この世にいないわよ!
だからね、あなたが必要以上にそのことで気にやむ必要なんてどこにもないのよ。
正直に言えばね。あなたを邪魔に思う人なんて、た〜くさんいるわよ。
あっそんなに悲しそうな顔しないで。
これはしょうがないことで、あなたが悪いわけじゃないんだから。
奈保ちゃんから聞いたかもしれないけど、超能力って先天性なの。
後天性なんて一人もいないし、いるとさえ考えられもされてこなかったのよ。実を言うとね、必死になって後天性超能力者をつくろうとしてる国なんていくらでもあるのよ。人権侵害にならない範囲でね。超えちゃうと私たち協会が出て来ちゃうから。毎日超能力の訓練を、できもしないのに、一般人にやらせたり・・・ね?でも、どこも成功してない、ただの金の無駄ね・・・・。
でも、あなたはそれを覆す存在になってしまった。それも今の所あなたは日本・・・に属してるしね。わかる?
今世界の超能力関係の組織は日本に注目してるのよ。世界初そして世界唯一の後天性超能力者「華坂琴音」を保持してる日本・・・をね。
正直日本は力のある国だから、ほとんどの国にとってそれは脅威なの。世界のバランスを壊してしまう恐れがあるんじゃないかって考えている国もあるくらいよ。日本が持つくらいなら、さっさと私たち協会にあなたを引き取ってもらいたいって考えている国も多いのよ。そうした国からしたらあなたなんて邪魔・・・ううん・・・邪魔なんてものじゃない。脅威、恐怖って思われてるかもね。外国だけじゃないわ、日本の中だってそうよ。正直、日本の超能力管理庁のことを嫌っている日本人もたくさんいるのよ。予算も結構使ってるし、割と自由にやってるし、何より歴史が浅いからね。日本の政治家ってそういうのが嫌いな人は多いのよ・・・・
でもね・・・そんなの関係ないのよ。
大事なのは・・・・見なきゃいけないものは、
あなたが“何を”できるか・・・じゃない?
そこさえちゃんと見て入られたら、後の他のことなんて、な〜んにも気にすることないのよ。」
そう言うものなんだろうか・・・
正直私自身、さっきから自分がすごいすごいと言われているけれど、全く実感がわかない。未だに超能力を使ったことすらないし・・・。
その時、箱で見えないが、その下の方から山本さんの声が聞こえて来た。
「お〜い。華坂さ〜ん!!聞こえるか〜い。て言うかそこにいる〜?」
「あらあら。例の呑気なおっさんが出て来たわね。
奈保ちゃ〜ん。大丈夫よ。あんたの声はしっかり聞こえてるわよ。」
「そうか・・・
じゃあ・・・華坂さん!
無理やり連れて来てしまったことは謝るよ。
申し訳なかった。君のそれまでの生活を軽率に扱ってしまったね。
でもね・・・。正直言って我慢できなくなったんだ!
君が・・・君が後天性超能力者だとわかってから僕は、ずっとワクワクしっぱなしなんだよ!!
華坂さん!!
君には無限の可能性があるんだ。
本当に。本当に無限の。すごい羨ましいくらい・・・。
僕にとったらどんだけ望んでも手に入らないものさ。
僕たち管理庁の一般人のみんなはね。みんな超能力者のことを思って、彼らの力になれるように努力している。
でも・・・でもね。
一方で、だからこそ、僕たちは毎日限界も感じてるんだ。
やっぱりね。どうしても僕たちは一般人で、そこと超能力者との間には、どうしても超えられない壁があるんだ。
そしてそれは超能力者の側だって変わらないんだ。超能力者で一般人と一緒になって働いたり、暮らしている人なんていくらでもいて、生活のほとんどの場面で別に壁なんて感じることはないらしいんだけど、それでも、やっぱり、ふとした瞬間、どうしようもなく乗り越えられない壁を感じる時があるらしんだ・・・・。
もちろん僕たちはだからと言って、諦めてそのままにしておくことなんてしないし、したくない。
日々共存を、より良い共存を目指して頑張っている。
一般人も超能力者も。
でも、どうしても壁に突き当たることはある・・・・
でも・・・・
でも君は違う!!華坂さん。
あなたは多分これから今までとはガラリとかわって超能力者としての生活をしていくのだろう。
そしてそれは、今までの華坂さんの人生とは大きく異なるはずだ。
いろいろなことがあるんだろう。苦労も発見も喜びも・・・
そのどれもが今まで華坂さん以外の誰もが経験したことのない、そしてし得ないものになるのだろう。
華坂さん。僕はね・・・君の超能力がどんなものだ、とか、なんで君だけが突如後天性超能力者として現れたのか、なんてどうでも良い!と思ってる。
僕は君に、超能力者と一般人の今まで誰も超えられなかった・・・繋げなかった距離を、変えてくれるんじゃないかって期待してるんだ!!
君にはその可能性と能力があると思っている!!
僕に・・・
僕に君のつくる“未来”を見せてくれないか!!」
そして山本さんの声は聞こえなくなった・・・・
私は戸惑うような視線をエレーナさんに向ける。
「なにすがるような目でこっちを見てるのよ?
あなたが決める・・・決められることよ?」
「私の自由なんですか?」
「そうよ。勿論よ。あなたがそっちを選ぼうがこっちを選ぼうが、あなたはどっちかの組織の一員になるだろうと思うわ。どうせ同じ職場で働く同僚になるのだから、無理やり連れて来ても後味悪いし、意味ないでしょ。どっちにいくかは全く持ってあなたの自由よ。」
「でも、今の私、エレーナさんに捕まってるも同然なんです・・・けど・・・・」
「なに、言ってるのよ。腐っても、なにも詳しいことはわかってなくても、それでもあなたは超能力者で、人間なんでしょ?
できないことなんて・・・何もないわよ・・・・そう、何もね?」
そう言ってエレーナさんは本当に楽しそうに笑いかける。
私は、どうすべきだったのだろう・・・
ただ、その時の私は、言葉にするのも難しいくらいの何かによって、どうしても言葉にしろと言われるなら、「直感」というものになるのだろうか・・・いやもしかしたらこの時、私にこの道を選ばせたもの・・・それが超能力だったのかもしれない。
いずれにせよ、この時、私は、多分、後で私は後悔するんだろうな、なんて思いながら、それでも、
それでも・・・・
私が立ち上がる。それまでは腰が抜けたのが収まってからもずっと尻餅をついてエレーナさんや山本さんの話を聞いていたが・・・
そして私はエレーナさんに背を向ける。
その途中、エレーナさんが私の視界から見えなくなる寸前、私はエレーナさんが微笑んだような気がした・・・
とにかく、エレーナさんに背を向けた私は箱の下のおそらく山本さんが、あの大演説をした後、「良い演説ができた」なんて悦に浸ってるように、いつものニコニコ顔に加えてやりきった感をたたえているであろう、山本さんが
いそうなところを見つめて・・・
昔から、人から何かを求められるのは好きだった・・・
でも、
この時の私が
なんでそうしたのか、そうしようと思ったのか、今でもわからない。
私は少し高くなっていた足元のブロックから思いっきりジャンプしてブロックの下にある箱の底面に頭を下にして、水泳の飛び込みのように思いっきり飛び込んだ。
目の前に箱の白い底面が迫ってくる。そこに私は手を伸ばした。
そして私の手がそこに触れる・・・
触れた瞬間・・・・箱はパリンとまるでガラスが割れるように、一気に割れた。
箱で隠されていた視界が一気に現れる。
下には、箱で押しつぶされていてもまだ元気に何か喚き散らしている男性がいる、まださっきと変わらず横たわっている楓ちゃんがいる。
さらにさっきまで見なかった人影が何人かいる・・・
エレーナさんの言っていた援軍だろうか?
そして・・・
そして真下には・・・山本さんがいた。
表情はまだよく見えない。
だけど、私を確認した瞬間・・・
山本さんが急いで両手を広げる。
私は真っ逆さまに落ちていく。
この時の私はどう着地するか全く考えていなかった。
そしてそのことを気にもしていなかった。
落ちる。
地面を・・・山本さんをめがけて、
そして、本当に私の体が地面に衝突しそうになった瞬間、私の体は急に減速し
頭が下になっていたのが上に戻り、そのままゆっくりと地面に・・・
地上で両手を広げる山本さんの元に降りて行った。
「来てくれたんだね。」
そう言ってニッコリと笑う山本さん。
今回は一番最初に会った時に感じたような違和感はない。
私は、何かをいうこともなく、ただ頷いた。
そしてゆっくりと降りていき・・・
ゆっくりと降りる私を見て、もう両手で受け止める必要はないと思ったか山本さんは、手を差し伸べる。
ゆっくりと、
上から降りる私も、
下からゆっくり差し出されたその手を
握ろうと手を伸ばす。
そして・・・
二人の手が繋がった・・・。
気のせいだろうか・・・その瞬間何かが、変わったような
そんな気がした。
この時の私の決断を未来の私は、過去の私は、
笑うだろうか それとも・・・
少し投稿が遅れて申しわけありませんでした。