閑話 第3.5話 残された人たち
「—最初だから、ビックリすると思うけど、安心してね」
そう少女が言った瞬間、その少女・山本氏・そして琴音は忽然として消えた。
そして後には、未だ状況をつかめていない琴音の会社の社長と、状況を完全に理解して事態の展開にある種の憤りすら覚えた様子の琴音の上司、課長の二人が残された。
「き・・・消えた・・・?」
「社長!!どういうことですか?華坂くんには十分な説明をした上で、という話だったはずです!!」
「そう・・・だったんだが・・・こうなっては・・・・」
「抗議するべきでは?相手が国の機関だということも重々承知しておりますが、やはりこのような形で強引に決めるということは許されることではないはずです。華坂くんも明らかに納得しておりませんでした。社長。私は彼女の上司として、彼女のこの会社での仲間として、このようなことは許せません。」
「いや・・・岡田君・・・君のいうことも、もっともだし、・・・我が社としても華坂さんが失われることは本当に損失だ。・・・・だけどねぇ・・・しかし・・・向こうは“あの”庁だし・・・。あまりこちらとしても大ごとにはしたくないんだよ。」
「しかし、社長!!納得できません。そのような会社のために個人を犠牲にするようなことは!!それは決して社のためにはなりません。長い目で見た時に大きな過ちとなるでしょう。」
「ま、まあ・・・君のいうこともわかるが・・・
わかった、わかったよ。・・・こっちから抗議の意を伝えるよ・・・。
やはりこれは許されることではないように思える・・・」
その時、琴音の会社の社長と、岡田課長の間になる形で、一人の男が突然現れた。男はなかなかの高身長で、おそらく180cm後半はあるだろう。しかし、体格は非常に細身で、その高身長とは釣り合っていない。言葉は悪いが、ひょろ長という印象は否めない。そして全身を目立たない色の服で覆っている。
そしてその男の出現の拍子に琴音の会社の社長は驚きのあまり尻餅をつきそうになる。
「ひっ・・・急に人がっ・・・」
「落ち着いてください。社長。
・・・君も超能力者なのか?」
「すみません。急に現れることになって。はい。私は超能力者です。私は日本超能力管理庁の職員の影山と申します。」
「君もさっきの少女のように、瞬間移動を使えるのか?」
「それは答えかねます。申し訳有りませんが・・・。それより、先ほどは上司の山本が失礼しました。本来、山本も華坂氏の合意を達成した上での、円滑な遂行を目指しておりましたが、こちらも例の情報漏洩の影響で色々追われていまして。」
「そういえば、今朝のこの場も急なものだった・・・ね。岡田君。」
「社長。それだけじゃありません。それに、華坂くんも明確に彼女の超能力が現れるまで様子を見る、だったはずです!」
「それらについては非常に申し訳なく思っています。僭越ですが私が山本に変わって謝罪致します。 申し訳ありませんでした。
しかし、我々の今回の華坂氏の移動は急の事態に対応するものであり、今回の事態が集結した後で、もう一度華坂氏とお話をさせてもらいその場で改めて説明をするつもりで、決して我々も、本人の意思に反して、ということを予期してはありません。」
「本当に説得できるのか?私の見る限り、とても華坂くんが君たちに良い印象を抱いているとは思えなかったが・・・」
「そこは我々を信頼してもらうということで・・・」
「それには私も納得できない。少なくとも一度、華坂君と話す場を設けさせてもらいたい。そこで我が社ももう一度華坂くんの意思を確認したい。」
「それは我々の言葉では信用できないと・・・?」
「残念だが、そういうことになる。」
「ちょっと・・・岡田君!!・・・そんなに強く言ったら・・・」
「社長!申し訳有りませんがこの場は任せてください。恐縮ですが華坂くんのことは私が一番わかっているつもりですし、何よりも彼女は“私の”部下です。」
「どうしても我々からの通達では納得してもらえませんか?」
「そうだ。
私が要求するのは2点だ。1つは彼女の意思を確認するために一度この会社で我々と彼女が話す機会を用意すること。
2つ目は、もしその場で彼女が君たち管理庁に所属するのを拒んだなら、その場合は彼女のその意思を尊重すること。」
「それは・・・・。それに超能力者の管理庁管轄下の教育機関での教育は法律で定められています。」
「それは“先天性の”超能力者・・・だろう?華坂くんは後天性・・・なのだろう?」
「うっ。しかし、我々は法律の改正の用意はできています。」
「嘘をついても無駄だよ。改正する気なんて、さらさらないくせに。」
「・・・・
はぁ・・・・
わかりました。認めましょう。先ほどの2条件を承認します。」
「失礼だが、君の立場は?その約束を我々は信頼できるのか?」
「その点はご安心を。私は山本から、非常時はすべての決定権を与えられています。そして、今回の事態は非常時に当たっています。」
「それを聞いて安心したよ。
・・・
社長。先ほどまでのご無礼、失礼いたしました。本来社長がすべきであるのに、私の個人的な華坂くんへの思い入れから、立場を超えた言動となってしまったことを謝罪致します。」
「いや、いいんだよ。君の部下思いも非常によくわかるし、結果的にもうまくいったみたいじゃないか。」
「ご容赦いただき、ありがとうございます。
では、後のことは私の方でやっておきますので。」
「わかった。うまくやってくれ。私は仕事に戻るから。」
そういって琴音の会社の社長は部屋を出る。
「随分こういってはなんですが・・・平凡な社長ですね。」
「そういってくれるな。あの方は本当に優しい方なのだよ。その優しさが、時にはご本人を動けなくしてしまうこともあるが・・・。それより、君もなかなか侮れないね。もう少し話を続けても良かったんだよ?」
「いえ、これ以上続けると、私は今の地位に居られなくなっていましたよ。」
そういって影山は苦笑する。
「そうか・・・。それに、もう少し早く現れて欲しかったな。まあさして重要なことは話していなかったが・・・。これからは我が社ももっと警戒する必要があるかな?でも、目に見えないんじゃ対応のしようもないか・・・。」
岡田のその言葉に影山は目を見開く。
「そこまで・・・・。できれば、私の能力は秘密にしてもらいたいです・・・。本当に局長のいうとおり、恐ろしい人だ・・・・。」
「僕には、君のことを秘密にしておく動機がないなぁ。」
「・・・・はぁ・・・。わかりました。例の法案は任せておいてください。成立させるように働きますよ。」
「それは助かるなあ。あの法案が成立すると我が社的にもかなりの追い風となる。」
「ではこれで失礼させていただきます。また先ほどの条件について調節しに庁の誰かが貴社に向かうでしょう。」
「あれっ。君は来ないのかい?」
「もう、あなたとは話したくないですよ・・・」
「ふふっ。そうかい。では元気でね。」
「こちらこそ。
では、さようなら。」
そういって影山は姿を消した。
「・・・これは戻ってから叱られるな・・・」
とつぶやきを残しながら。
後に残るのは岡田課長ただ一人。
さっきまでの騒動など嘘のように部屋は静まりかえっている。
そして岡田課長は、窓の方に足を進め、ある方角を向いて呟いた。
「頑張れ。華坂くん。また君に会える日を楽しみにしているよ。」
今週は余裕があったので、閑話という形で投稿させてもらいました。
今後もこういった形でちょくちょく挟んでいきますが、物語に直接関わることはないと思いますので、気楽に読んでいただけたらな、と思います。