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第0話 前兆

「は〜最近ホントに上手くいかないなあ・・・」


 まだ夏の余韻が残る9月14日、夕暮れ時の小田急線で私、華坂琴音は見事暑さにやられたかのようにぐったりした様子で全身に負のオーラを纏っていた。ゆうラッシュ時には程遠い時間だが、そこはさすがメガシティ東京である、空席はなく、仕方なく私はつり革に手をかけ身を委ねていた。


時間は午後3時18分。

どう考えてもスーツに身を包み、いかにもザ・OLといった風情である私がいるには場違いである。


まあ実際そんなこと考えるのは私くらいで、周りの人は何も気にせず、たとえ目に入っても営業の人だろうとしか思わないのだろうけど・・・


だけど、今の私はどうしても周りの視線を気にせずにはいられなかった。人は自信をなくすと、どこにいるにも相手から許可を得なければならない気がしてしまうらしい。事実ここのところの私は本当に失敗続きで全くもって自分に自信を持てていなかった。


先日のことである。

—その日は毎週の彼氏との食事だった。お互い社会人で忙しい身であるので、平日はお互いを尊重して干渉せず、週末だけ二人の時を過ごす。このやり方で十分上手くいっていた。


だけど、だんだんお互い慣れてきて、少しずつどこか噛み合わなくなっていたのも事実だった。


そして、とうとう前回の食事では彼氏が待ち合わせに2時間も遅刻してきたのだ!しかも服装も乱れまくりで、そして何と言っても全く悪びれない。


その時ばかりは私もさすがに堪忍袋の尾が切れた!


「ふざけないでよ! 付き合うのが嫌になったならそう言ってよ!」


チャラチャラしててそのくせどこか意地っ張りな所のあるアイツの事だから、これぐらい強く言っても反省なんてしないんだろうな、なんて思っていた。

なのに・・・


「ご、ごめん。・・・」

なんて消え入りそうな声で、うつむきながら言うから私も面食らっちゃって、

もう空気がどうしようもなくなって、気付いたら私は電車の中だった。


正直私は動揺し過ぎてて何が起きているのかさっぱりわからなかった。

あの後何の会話をしたかも覚えてない。


ただ最近あいつがどこか私のことを舐めきっているんじゃないかって思って、灸でも据えてやろうかしらって思って、強めに言っただけなのに、あいつがあんなに真に受けるなんて・・・・


家に帰ってからも茫然自失で、気持ちの整理がつくまで、二日かかった。


それだけなら、よくあるカップルの悲しき出来事の一つとして終わらせることもできるのだが、(当人からすれば、そんな簡単に済ましてもらっては困るのだけど・・・)自体はプライベートに終わらず大事な生活手段である仕事にまで影響が及んでいた。


先ほどの彼氏の件もあって最近の私はずっとブルーで、そのせいで仕事に対してもどこか不真面目な態度でいたのかもしれない。


でもそれで「なんだお前が悪いんじゃん。重い女だなあ」なんて言わないで欲しい。少なくとも重い女なんて言わないで・・・・。


それに逆に聞くけど、みんなだって常に仕事に対して誠実にいるわけじゃないよね?そう、誰だって仕事とか学校に「なんとなく今日はやる気にならないなあ」なんて日があると思う。

たまたまここ最近の私がそうだっただけで・・・


でも問題はそこじゃない。現にそんな日は今まで何度もあったけど、別に仕事はいつものようにこなして来た。


だけど、今回だけはそうはいかなかった・・・。

というより、バレる

何をしてもやる気がないのが、バレる、バレる。もうそりゃ笑えるくらい。

そして人間不思議なもんで、どうもやる気がないと一旦感じたらそれまで別になんとも思わなかった書類だとか態度とか全てがやる気がないように見えるようで・・・おかげで私はこの1週間怒られっぱなしだった。


正直前まで別に文句言ってこなかったじゃん!っていうような細かいミスで怒られた。で、何度も怒られてると最初は優しく「大丈夫だよ!琴音ちゃん!誰だってそんなミスくらいするよ!」って励ましてくれた周りの人たちもだんだん呆れるといいますか、慣れるといいますか、「ま〜たミスってんのかよ」って感じになって誰も気にしなくなり、それどころか「人が怒られてるの見せられてるとこっちまで怒られてるような気がして邪魔なんだよね〜」なんて感じの視線が向けられている気がして、遅れを取り戻そうと焦って更に失敗して・・・


なんて悪循環・デフレスパイラルに嵌っていった結果、ついに今日、課長から

「華坂君!今日はそのくらいにしてもう帰りなさい!!」。


それで今に至る・・・

念のために言うが、決して解雇されたわけではない。時間の問題にならなければ良いんだけど・・・

なんといいますか、はあ・・・ごめんなさい・・・

課長なんてすごい誠実な人だったから、信頼を裏切っちゃったみたいで、すごい申し訳ない。会社のみんなも優しい人ばっかりなのに、(現に“最初は”ちゃんと慰めてくれた。)あんな情けない姿を見せてしまった。


もう申し訳なさで死にたい・・・・


なんとなく時計を見る。


「ヒトカラでも行こうかな・・・」


とにかくまだお家に帰りたくない。


彼女と一緒に頑張っていきますのでどうぞ優しく見守ってくれたら幸いです。

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