第四話
「それって結局どういうことなの?」
リサーナの言葉に緩みきっていた空気から張り詰めたものへと変わり、凛は肌でその空気を感じ緊張しながらリサーナに問いかけた。
問いかけられたリサーナも凛をまっすぐに見据え言葉を返す。
「昨日もお話したように現在この世界に住む人類は魔族によって甚大な被害を受けております。我々人類がこの先、生き残る為には復活した魔王を再度倒し魔族を打倒するほか有りません。その為に異世界から勇者としてあなた方を召喚させてもらったのです。勝手に争いに巻き込んで都合のいいことを言っているのは、重々承知しております。ただどうか我々にあなた方の力を貸して頂けないでしょうか?お願い致します。」
リサーナは、涙ながらに語ると深く光征たちに向かって頭を下げた。
王女様が頭を下げているという状況に、光征以外の4人は、はっと息を飲んだ。
凛たちは、一国の王女のそんな姿にあせって声をかけた。
「あ、頭を上げてください。リサーナ様のいうことは、よく分かりましたから。ただ、僕たちは力を貸そうにも地球では、ただの学生で誰かと命がけで戦った経験もないし、ましてや闘う為の力なんて全く無いんです。」
「た、確かに男の子なら兎も角、私なんて殴り合いの喧嘩すらしたことないや。」
凛達の悲鳴にも似た抗議にリサーナは、頭を上げて答える。その目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「確かに今までのあなた方には、闘う力は無かったと思われます。記録に残る初代勇者と二代目勇者も召喚当時は、戦闘などしたことの無い子供だったとあります。」
「じゃあーー」
リサーナの言葉に口を挟もうとした凛を手で制して彼女は、続けた。
「しかし、いずれも彼らは魔王と呼ばれる強大な力を持つ存在を打倒しています。それは、何故か。勇者と呼ばれた彼らは、その高潔な精神を神器と呼ばれる絶大な力を持つ武器に認められ力を得て魔王を打倒したのです。つまり神器に認められた者こそが勇者であり、魔王打倒の可能性を持つ唯一の人類なのです。」
リサーナの感極まった説明を聞き、圧倒されていた凛達を尻目に光征は、冷たく言葉を発した。
「その神器っていう武器はいくつあるんですか?もしひとつしかないのなら、この中の1人以外はただ巻き込まれてこの世界に召喚されたことになる。」
光征がこのような質問をするのにも訳があった。
確かにリサーナが言うようにこの世界には、初代勇者が使用したと呼ばれる武器<神器>が存在する。
しかし、光征が知る限り神器は、世界にひとつしかない代物である。
さらに言うと二代目勇者であるはずの光征には、神器の力を引き出すどころか、扱うことさえ出来なかったのである。
では何故光征は、勇者足りえたのか?それは、ただひたすらに光征が、強かったからだ。いや、強くなったからだった。
異世界に召喚されてからの光征は、神器を使えないことから出来損ないの勇者の烙印を押され非難された。しかし、そんな光征を励まし、鍛えてくれた人物がいたのだ。
その人物と後に出会う仲間のお陰で光征は、魔王すら打倒する力を身に付け勇者と呼ばれるようになったのである。
「そ、それは。いえ、ここで取り繕ってもなんともなりませんね。そうです。コウセイ、あなたの言うとおりです。神器はひとつしか有りません。つまり勇者は、あなた方のうちの1人だけになります。そしてその1人も実は、もう分かっているのです・・・・・・。」
リサーナは、諦めたように自らの胸を押さえ絞るように声を発した。
「それは、リン。貴方です。」
その答えを聞いた瞬間、凛達は氷漬けにされたかのように固まった。
そして、直ぐに爆発した。
「えっ。うえぇ⁈」
「ま、まじで⁈」
「り、凛が勇者?」
「そ、それってつまり凛以外の私達は、巻き込まれただけってことになるの⁈」
・・・・・・そういうことか。
みんなそれぞれが驚いている中、ある種の諦めにもにた思いが、光征の胸の中を満たした。
そして光征のなかで今まで疑問に思っていたことが、確信に変わった。
おそらく聖協会秘匿の勇者召喚は、完璧ではない、成功したのは、初代勇者の時のみだ。
光征の召喚も、失敗だったのだ。神器を使えない勇者など本来ならばありえない。光征が言うのもなんだが、魔王の力は、常軌を逸していた。
おそらく伝え聞く神器の力が無ければ、異世界から召喚されただけのただの一般人にアレを打倒するのは不可能だろう。
たまたまなのだ。たまたま前回は、光征というイレギュラーが現れ事態が収束したのだ。
そして今回は、不幸中の幸いか神器に選ばれた勇者が召喚されたようだ。一般人4人というオマケ付きだが。
そもそもが、使用制限の厳しい伝説級の術式なのだ。完全に掌握している可能性の方が圧倒的に低い。
「っはは。」
この考えに至った時、光征の口から乾いた笑いが漏れた。