第三話
「また来たんだな。この世界に。」
光征は今召喚されたメンバー全員にあてがわれた城の客室にいた。
1人用にしては、大きなサイズのベッドに仰向けに寝転がり、いつもの自分の部屋とは違い高い位置に設計された天井に手を差し上しながら光征は、呟いた。
そしてリサーナから聞いた話と自分のもっている情報とで現状を整理していく。
彼女から聞いた話から推測すると、まず自分がこの世界から地球に戻ってからの間に丁度7年の年月が経過していた。
前回の勇者召喚によって(これは光征のことだ)人類の敵であった魔王は討伐、魔族はその勢力を急激に縮めることになった。
それにより、今まで魔族によって苦しめられていた人類は、平穏を取り戻し繁栄の一歩を踏み出したはずだった。
しかし、現在原因は不明だが一度は壊滅寸前にまで追いやった魔族が7年前同様の勢力を取り戻し人類側へと進行を深めている。
以前の魔王討伐の英雄たちも奮闘しているが、魔王の影響を受けた魔族に対抗するには今一歩力が足りていないようだ。
そのあたりの詳しい話は聞けなかったが、光征は、かつての仲間が活躍していることを知り、胸のつかえが少し取れた気がした。
そして、魔族に対する決定打が足りないこの現状を打破する為に、前回に習い突貫ではあるが勇者召喚の儀を行い、光征たちが召喚された。
リサーナは、そこまで光征達に説明するといきなりスケールの大きい話をされて呆然としていた凛たちを気遣うように話を締めくくり、光征達が休めるように部屋に案内するよう周りの従者に指示を出した。
流石に、その時は健一もおとなしく部屋に行くことを了承し、また明日の朝に今後のことをリサーナを含め話会う事になったのだった。
「あいつら大丈夫かな・・・・・・。」
光征は、自分が召喚された時のどうしようもない不安感を思い出し、凛たちの様子が気になったが、どうせ彼らは全員仲の良い友達のようだし自分の時とはまた状況が違うかと考え、すぐに今後の行動指針を考えるべく頭を切り替えた。
とりあえずは、引き続き現状把握をしていくしか無さそうだな。
大雑把な状況だけは分かったが、正直これだけの情報量では動くに動けない。
それに光征には、他にも気掛かりな点があった。
それは、召喚された人数だ。前回の召喚では、光征ただ1人が召喚されたのに対して、今回は5人である。
光征が以前聞いた話では、召喚される勇者は、1人であった筈なので何か嫌な予感がする。
リサーナから何らかの説明があることを願うばかりである。
考えごとばかりしていたせいか、壁にかかっている時計を見るといつの間にか日付が変わっていた。
・・・・・・そろそろ眠ろう。
光征は、魔導器と呼ばれるこの世界特有の装置、地球でいうところの機械を操作して部屋の灯りを消すと布団を身体に掛け直して眠りついた。
夢を見た。最近は、その夢を見る回数も少なくなっていたので久しぶりのことだった。
夢の中の光征は、血塗れでその手には同じくらい血で真っ赤に染まった少女を抱いていた。
その少女は、美しい顔を血で汚されながらも穏やかな表情で目を閉じていた。対して光征の顔は、悲しみや絶望、怒りといった様々な感情が入り混じった表情をしていた。次から次へと涙が溢れでて、落ちた涙は、少女のほおを濡らしていった。
「ーーーー。」
光征は、少女の名前を掠れた声で呟いた。
朝、城の従者の人がノックをした音で光征は、はっと目を覚ました。こんな状況だというのにどうやら夢を見るくらい熟睡してしまっていたようだ。
最近は、見る事が無かった悪夢を見たせいか、身体が汗で濡れてしまっており酷く気持ちが悪く、気分は最悪だった。
従者の人は、朝食の準備が整ったのでわざわざ呼びに来てくれたようだった。
光征は、支度をすると言って部屋に備え付きの簡易浴場でカラスの行水よろしく汗を流し、服を寝巻きから制服に着替え、案内に従い朝食の場所へと向かった。
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
案内された食堂に着くと光征以外の4人は、既に席についておりどうやら光征が来るのを待ってくれている様だった。
「おはようございます。待たせてしまったみたいでごめん。」
リサーナの挨拶に若干の気まずさを覚えながら光征は、空いてる椅子に腰掛けた。
凛が、気まずそうにしている光征のほうを気にしながら声を掛けた。
「気にしないで良いよ。私たちも今来たとこだし。ね?」
「うんうん。凛もついさっきまでは、ベッドにへばりつくように寝てたのを私が無理やり引っぺがして来たんだから。山守君は、1人で起きてこれたんだから優秀だよ。」
そんな凛のフォローに対して、少し意地悪な笑顔を見せながら綾はからかうような口調で光征を褒めた。
「ちょっとそんなこと言う必要ないじゃん!」
凛は、頬を赤く染めて凛への抗議を口にした。
昨日あれだけのことがあったのに彼女たちの状況を感じさせない振る舞いに幾分か雰囲気が和らいだ気がした。
「もう!とにかくご飯食べようよ。せっかく用意してもらったのに冷めちゃうよ!」
凛の言葉を皮切りにみんな昨日から何も食べていないことを思い出し、目の前の御馳走に一所懸命に手と口を動かし始めた。
「うめー!」
朝食を一口食べた健一は、感嘆の声を漏らした。
「ほんとだ。」
「おいしい!」
「すごい美味しい!」
みんなそれぞれが料理の美味しさに感動して感想を漏らす中、光征だけは、無言で懐かしい味のする食事をかみ締めるように食べていた。
全員が用意された食事をきれいに平らげ食後のお茶を飲んでいる弛緩し切った空気の中、リサーナがいよいよといった様子で口を開いた。
「昨日の続きをお話してもよろしいでしょうか?」