第一話
頬に当たる冷たい大理石の感覚で光征は目を覚ました。
・・・・・・どれくらい気を失っていたのだろうか。
起き上がり、周りを見渡すと幾何学的な文様が床一面に施されており、その文様の上に光征以外の4人が倒れ付していた。
あの時、光征が凜にプリント渡そうとした瞬間とてつもない光の渦に巻き込まれ、気がついたら見覚えのない空間に飛ばされていた。
・・・・・・あの時と同じだ。
以前に自分が、異世界ポルセに飛ばされた状況と今の状況は酷使していた。
違うのは、今回は1人でないということだ。
光征は自然と唇をかみ締め目を強くつぶった。
忘れようとしたかつての苛烈な記憶を思い出し、全身にいやな力が入る。
とにかく状況を整理しないと駄目だ。
現状ここにいるのは、光征を含めて5人。
クラスメイトの守森凛、宮里健一、藤堂綾、三月流、そこに光征を加えた5人である。
光征達を召喚した者は、今はこの場にいないみたいだがもしかしたら、別室で観察している可能がある。
床に描かれた幾何学模様の魔法術式から察するに光征達をこの世界に呼び出した召喚魔法は、聖教会に伝わる秘匿術式でほぼほぼ間違いは無いだろう。
だとすると今回の召喚者も以前と同様に勇者召喚の儀を執り行ったということになる。
しかし、勇者召喚の儀を執り行うには、幾つもの厳しい条件があったはずである。この術式を行うには、其れこそ大国の国家予算並みの投資を行い尚且つ、この世界の最大勢力である聖教会の支援が必要なのだ。
勇者召喚とは、奥の手中の奥の手であり、だからこそそれが行われるというのは完全な異常事態。
端的に言って人類側の存亡の危機というわけである。
・・・・・・どういうことだ?
確かに前回の召喚で人類側の脅威を取り除きこの世界を救ったはずだった。
考えられるとしたらさらなる脅威が出現したか、前回とは違う脅威があった時間軸に飛ばされたかはたまた別の何かか。
とにかくこればっかりは、召喚者に聞かないと分からないことである。
とりあえず、召喚の目的、召喚された国、立場が分からない以上は、なるべく面倒事を避ける為にも前回の召喚の事は、必要な時までは隠しておいた方が良さそうだ。
後は、森守達の事もあるし臨機応変に対応だな。
突然の出来事に混乱しながらも光征が、今後の方針を決め終わった頃に凛が呻くような声を出し、のそのそと体を起こした。
「うぅ。頭がくらくらする。いったい何が?」
凛が額を抑えながら目をパチパチさせ、誰ともなく呟いた。
凛の声が合図になったのか、他の倒れていたメンバーも目を覚ましたようで、全員頭を抑えながら立ち上がった。
「ここどこだよ?どうなってんの?」
膝に手を起きながら、健一が呟いた。
普段は、強気な彼も動揺を隠せておらずその声は、掠れて震えている。
「全然分からない。いきなり目の前が真っ白になって、気づいたらこんな状況になってた。というかみんな大丈夫か?」
まわりを見渡し、恐る恐るといった感じで流は、健一の問い掛けに応えた。
「私も何が何やら全然分かんないよ。とりあえず、少し頭はくらくらするけど身体は大丈夫そう。」
深く深呼吸し、自分を落ち着かせるように綾は、立ち上がった。
「私も大丈夫。怪我とかないよ。」
「俺も大丈夫だわ。」
流の問い掛けにおのおの互いを見やりながら声を出した。
全員この状況に戸惑っているようだが、いきなりパニックになるような人はいない。
流は、他の3人に大事ないことに安堵し、視線を3人から外した。そこで光征の存在に気づいたようで声を掛けた。
「そうか、みんな怪我がなさそうで良かった。あ、山守君は、大丈夫?」
光征は、他のメンバーとは違う意味で動揺はしていたが、平静を装いつつ答えた。
「大丈夫。問題ない。」
「良かった。」
言葉数少なく応える光征の声を聞き流はうなづいた。
「ほんとに大丈夫?なんか山守君顔色良くないように見えるけど……」
凛がそんな光征を心配するように光征の顔を覗き込こんだ。
「いや、ほんとに大丈夫だから。それに顔色で言ったらみんな悪そうだ。頭少しふらつくんじゃないか?」
急に顔を近づけられて光征は、飛び退くように凛と距離をとった。
確かに光征は、過去を思い出し気分が落ちつかなくなっていたが、身体的な面ではまるで問題はない。
それよりも、光征が言った様に少なからず全員が初めて受けるこの世界特有のマナと呼ばれる元素の影響を受けているはずだ。
そのせいで軽い車酔いの様な状態が出て光征以外の召喚されたメンバーは、少しふらついている。
光征も召喚された際は、同じ症状が出たが後5、10分もすれば収まるだろう。
「そっか。なら良いんだけど。確かに最初は、くらくらしたけどもう大丈夫だよ。」
凛は、光征に距離を取られた気まずさからか、苦笑いを浮かべながら答えた。
「っていうかみんな無事って事以外は、なんも分かんねえ。なんなんだよ、くそ!」
自らの置かれた状況に苛立ちを隠せずに健一は、悪態を付き近くにある柱を蹴った。
健一の言葉に誰もが俯きいやな沈黙がその場に流れた。そんな時、部屋の奥の暗がりから光が漏れ、誰かが光征達に話し掛けて来た。
「皆様どうやらお目覚めになられたようですね。」