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短編 お題無し

三歩さん

作者: Win-CL

 私は最近、幽霊が見えるようになった。


 ただし、幽霊だったらなんでも見えるわけではない。ただ一人の幽霊しか見えないのだ。それが浮遊霊なのか地縛霊なのか、はたまた生き霊なのか、専門家ではないので私には判断がつかないけど……。


 しかしそれが、幽霊であることは間違いなかった。


 なぜなら、その幽霊は必ず消えてしまう。

 ――私が、三歩近づいた時点で。


 なので、私はその幽霊の事を『三歩さん』と呼んでいる。


 それは――、学校へ行く途中にも、体育の授業中にも、学校から帰る途中でも現れる。


 そして、三歩近づくと消えてしまう。


「あ――」


 まただ。三歩さんがいる。


 友達との帰り道。曲がり角二つ分先の電柱の前。

 三歩さんを確認して、意識しながら歩を進める。


 初めのころは怖くて仕方なかったけど、今ではすっかり慣れてしまった。憑かれているんじゃないかと心配して、有名な霊能力者を紹介してくれる友達もいたけど――

 自分としては、こうして見えているだけでたいして害もないのだし、別にどうでもよかった。



 一歩――



 二歩――



 三歩――



「やっぱり……」


 三歩近づくと消えてしまうのだ。あまりに距離が離れていて、顔を確認することすらできない。


「どうしたの?」

「また例の三歩さん?」


 友人が急に歩幅が広くなった私に気が付いて、声をかけてくる。


「……うん。また消えちゃった」


「私だったら、気持ち悪くて外出れないけどなぁ」


「えー。面白いじゃない。三歩近づくと消えるんだよ?」


 蜃気楼だって、もう少し待ってくれるだろう。


 ――そう。私はだんだんと、その三歩さんがどんな人なのか気になり始めていたのだった。


 ネットでいくら検索しても、同じような体験をした人は見つからない。

 やはり自分だけなのだろうか……、こんな幽霊が見えるのは。


 一度だけ携帯の写真アプリで撮影してみたことがある。が、案の定、全くと言っていいほど写っていなかった。

 試しに双眼鏡を持ち歩いて、現れた三歩さんを見ようとしたことも。しかしこれも失敗。双眼鏡越しにも見えない。

 おまけに友人たちには、変質者に見えるからやめた方がいいと(たしな)められてしまった。


 見つけて、近づいて、消えて。


 見つけて、近づいて、消えて。



 そんな毎日に――、変化が訪れた。


「あ、また三歩さんだ――」


「またぁ? 今日の朝も言ってなかった?」

「最近、よく出てくるねぇ」


「大声で呼んでみたら、近寄ってきたりして」

 友人の一人が冗談交じりに言う。


 さすがに街中で、大声で幽霊を呼ぶのはちょっと……。

 月9のドラマじゃあるまいし。

 双眼鏡の件は無かったことにしよう。


 もうすっかり習慣となってしまった三歩カウント。



 一歩――



 二歩――



 三歩――



「どう?」

「また消えたー?」


「…………あれ?」



 ――消えない。……消えない?


 カウントを間違えたのかな? いや、大股で三歩。小学生でさえ間違えない歩数だ。

 ためしに――もう一歩。……やはり消えずに、そこに佇んでいる。


 こんなことは初めてだった。必ず三歩で消えていた三歩さん。

 もしかしたら――、今日こそは近くまでいけるかもしれない。


 ――どんな顔をしているか、確認できるかもしれない。


「ちょっと!?」


 たまらず走りだした。こんなチャンス二度と無いかもしれない。


 二十歩もない距離だ。それでも――、いつもの約七倍。今までこんなに遠い二十歩があっただろうか。


 大股で、全速力で。スカートがはためくのも気にせずに走る。


 そして――


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 大した距離でもないはずなのに、呼吸が荒くなる。


 呼吸をするのも忘れて走っていたのだろうか。そんなまさか。

 しかしそれでも――、三歩さんはそこにいた。まだ消えずに立っていた。


 呼吸が整うのを待つのももどかしい。顔を上げる。


 ――三歩さんは女の人だった。いや、それは遠目から見ても髪の長さでわかっていたけど。

 綺麗な髪――。それにも増して、目を引くのは顔。芸能人顔負けの美貌は、彼女が唇を動かし言葉を発していることを認識させるのに、多少の時間を使わせた。


「――――」


 ――見惚れている私の、その脳が、ゆっくりとその言葉を理解しようと働いている。……おかしいな。自分で言うのもなんだけど、そこまで頭の回転が悪い方でもないのに――


 そんなことを考えていると、後ろから悲鳴にも近い声が飛んできた。


「――危ない!」


「――え?」


 一気に狭まっていた視野が広がる。音も色もなかった世界が、情報により彩られる。目の前には信号が見えた。振り向いてみると、後ろにも。

 そして――、右側からはクラクションをけたたましく鳴らしながら迫ってくる大型車が。


「――――!」


 ダンプに撥ねられた衝撃とはどれほどなのだろう、そんな呑気な考えが頭をよぎったのも束の間。既に大型車は視界いっぱいになるまでの距離まで迫っていた。曇りひとつないバンパーに映る自分の顔が見える。


 衝撃を感じ、体が浮き、私の意識は――――



やっとホラーらしいホラーが書けたような気がする。

といっても、そこまで怖くないけど。


まぁ、呪い殺すとかそういう類の話じゃないからね、仕方ないね。

そういうドロドロした感情って苦手なのよね。


自分に楽天家じみた部分があるからかもしれませんが。



きっと、街中で急に大股で三歩歩くのが流行る。

……ないな。


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