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 けたたましい電子音が鳴り響く。


それを叩くように止め、ベッドから這い出す。


日付は4月7日、時刻は7時ちょうどを示していた。


今日は高校の入学式なのだ。流石に遅刻するわけには行かない、今日は。


まだ寝起きで働いていない頭をかきながら、洗面所に向かった。


顔を水で洗い、歯を磨く。

真正面には見慣れたいつもの顔が眠そうな顔でこっちを見ている。

髪の毛がボサボサなのは後で直そう。


いつものような朝食を作り、さっさと食事を終える。

一ヶ月もすれば独り暮らしなど慣れたものだ。

いや、ほんとに。


寝室に戻り、真新しい制服に袖を通す。


「やっぱり少し大きいよな…。」


これから三年間で伸びるからと売り子さんに言われ、少し大きめの物をかったのだが…。

大きい物は大きい。

玄関で靴を履き、扉を開けて家の外に出た。

そして、階段の横にあるエレベーターでロビーにむかう。


この時間帯、ロビーの事務所にいつもいる管理人さんには今日、会わなかった。


見慣れた景色の中を歩き、髪に引っかかる桜の花びらを取るのに躍起になる。

「ええぃ…この癖っ毛は…。」


地下に入り駅員のいない改札口を抜け、26段の階段を降りてプラットフォームに立つ。


…誰もいない。

いつもなら4、5人は…。


そんなことを頭の片隅で考える。


プラスチック製のベンチに座り地下鉄を待つ。


プラットフォームは妙な静けさが包み込んでいた。


所々、壊れかけの電灯が点滅している。


「間もなく〇〇市役所方面…」


地下鉄が来る。


ふと、女性のアナウンスは今日、初めて自分が聞いた他人の声だ。

案外、ホームシックにでもなってるのかもしれない。


鞄を持って立ち上がる。

ふと、携帯で時間を確認すると時刻は6時40分と表示されていた。


…あれ?


朝、時計の見間違いをしたのか?


おかしい?

確かに起きた時は7時だったはずなのに…。


足下の黄色の点字を見ながら溜め息をつく。


おかしいのは俺か…。

学校の近くにコンビニでもあるだろうし、時間は潰せるだろう。



…突然、背筋が凍るような寒気を感じた。



そして、直後、背中に重圧を感じた。


プレッシャーの類いとかでは無く物理的に。


とっさに前に出た右足で踏ん張り、バランスをとろうとする。

だが、押された勢いが強く、そのまま体を反転させるかたちで背中から落ちた。


何をされたのか、何が起こったのか、理解出来なかった。


そして、世界がゆっくりと進んでいく。

まるで、走馬灯のようだ。


彼女と目が合う。



電車が起こす風でたなびく長い黒髪。

そして、追従するように、ゆれる白いワンピースのスカート。

飛ばされないように手で押さえた麦わら帽子。


その少女は地下鉄の薄暗いようなプラットホームには似つかわしくない、そんな雰囲気を醸し出していた。


言ってしまえば、そこにいる事が、異質。


世界が僕を置いていく。

いや、逆なのかもしれない。


しかし、その置いてきぼりの世界で微笑みを浮かべる彼女の声はしっかりと聞こえていた。


それは耳にではなく、直接脳へ刻み込まれるような錯覚を起こした。


『これでキミはワタシのモノ』


そして、右半身に重い衝撃が来た。



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